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#89 医師免許の更新は日本の医療に必要?

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同じ医師が重大な医療事故を繰り返し起こし、貴い命が失われるといった報道を耳にするようになりました。そのたびに再発防止が謳われますが、充分な効果につながらない状況もあるようです。また超高齢化社会を迎え医師自身の高齢化が進んだことで定年制の導入を検討する動きも見られます。このように医師の質の保持が社会問題となるなか医師免許更新制度に注目が集まっています。この制度は日本の医療に必要なのでしょうか。

医師免許の更新は日本の医療に必要?

各国の医師免許更新制度と日本の医療制度はどう違う?

日本の医療制度は、欧米などに比べると医師の身分を維持しやすいという特徴があります。日本では医師は国家資格であり、医学部を卒業して医師国家試験に合格すれば医師免許を取得できます。いったん医師免許を取ってしまえば、その資格は一生涯有効です。しかも医師免許を取得して2年間の研修を経験した後は、任意の診療科を標榜して開業することが可能です。専門医の資格は必須ではありません。その後は医師が高齢になっても、またたとえ最新の医療知識を学んでいなくても、患者を診察できるのです。この点はかねてより問題視されており、医師の質を保つため医師免許の更新制の導入が検討されたことがありました。平成17年の閣議案に盛り込まれる予定でしたが、反対意見が強く削除されるに至ったのです。
一方、欧米では専門医制度や生涯学習の実施が徹底されており、医師には常に最新の医療情報やスキルの習得が求められています。アメリカでは医師国家試験は連邦政府が実施していますが、実際に医師免許を交付するのは各州の管轄です。州によって違いがあるものの、3~4年ごとに免許の更新があり審査に通らなければ資格がはく奪されてしまいます。免許の更新ではCME(Continuous Medical Education)で定められたカリキュラムについて一定数の単位を取得する必要があります。ある州では2年間に100時間の単位が必要なので、これを満たすためには毎週1時間の講習を2年間受け続ける計算になるのです。たとえ単位を満たしても、不正や不適切な治療を行うなどの事実があれば更新できません。アメリカ医療制度では専門医の資格が重視されるという特徴があり、診療科ごとに高度な専門性が要求されています。アメリカには日本の国民皆保険制度のようなものはなく、保険会社は専門医にしか保険医療を認定していません。医師として活躍するには難易度の高い専門医の資格を取ることが不可欠なため、医師は日々研鑽を積まざるを得ないのです。
また、フランスやドイツ、イギリスなどには医師の更新制度はない一方、専門医が重要視され生涯学習が義務付けられるなどの厳格な制度があります。イギリスは医療分野において大学の権威がたいへん強く、医師国家試験がない代わりに大学の卒業試験に合格しなくてはなりません。留年が認められないためドロップアウトする学生も少なくありません。家庭医(総合診療)と病院医(専門医療)が明確に区分けされており、それぞれに専門医の資格が必要です。ドイツでは医学部での勉強と並行して医師国家試験が実施されます。教養試験と第1次~第3次試験にすべて合格した後も、臨床研修や実習を修了する必要があります。それに加え何年かの臨床研修を受けて各医師会が実施する専門医試験に合格しなければ診療科を標榜することはできません。専門医でないと公的保険の診療報酬が申請できないといった事情もあり、専門医となることが強く求められています。
日本では医師免許の更新制は立ち消えになりましたが、専門医制度を確立するというかたちで問題解決に取り組もうとしています。2017年日本専門医機構は声明を出し、2018年4月より新専門医制度をスタートすることを明らかにしています。これまで学会ごとに認定されてきた専門医を、日本専門医機構が一括して認定することになったのです。

医師免許更新制のメリットとデメリット

日本の医療制度では、医師免許を取得した段階の医師は基礎的な知識を修了したに過ぎず、その後の学習や研修があって初めて一人前になれるような仕組みになっています。ところが2年間の研修後はどんな診療科でも標榜できてしまうことから、患者にとってはその医師に専門的な知識があるかどうかを判断できず、最適な診療を選べるという保証がありません。また医学の進歩は目覚ましく、次々と新しい発見や技術の開発がなされているにもかかわらず、いったん医師免許を得てしまえば研鑽せずとも資格を維持できるため、古い知識のまま成長しない医師が生まれることになるのです。
医師免許更新制には、新しい知識を習得していない医師を選り分けられるメリットがあります。その意味では、医師の質の保持に一定の効果が期待できるでしょう。しかし医師免許更新制にはデメリットも存在しています。更新制に賛成の医師はたった2割にすぎないという調査結果もあります。現場の医師は過重労働になっているケースが多く、何の対策もないまま更新制を導入すれば更新試験のための勉強などに時間を取られ、診療の内容や患者への対応が悪化するおそれが出てきます。また孤島僻地などで地域の診療にあたる医師はなり手が少なく、そういった医師が資格をはく奪されると地域医療がとん挫するリスクが高まります。多くの医師は自己研鑽を積んでいるにもかかわらず、医療事故を繰り返す一部の医師を特定するためだけに、更新制度を導入するのは影響が大きすぎるといった意見もみられます。また、日本の医療法人の理事長になるには原則医師か歯科医師の資格が必要です。医療知識が古くなったり身体的機能が低下したりしていても、判断力や記憶力に問題がなければできることはあるのです。

医師免許の更新制で国民が求める医療は実現する?

医師免許の更新制だけを単独で導入しても、充分な効果につながらない可能性があります。国民が求める医療を実現するには、医師の過重労働や地域医療の人手不足などの問題に配慮することが不可欠です。地域のかかりつけ医が医師の資格を失えば困る人が大勢出ることでしょう。
しかし医療事故が繰り返し起きる状況は、なんとしても改善しなくてはなりません。専門医制度がスタートすることで、これまで以上に専門医の資格が重要になってきます。医師を選ぶ患者のあいだにも専門医に関する認識が広まって専門医を求める傾向が強くなれば、自ずと専門医を目指す医師が増えることでしょう。そしてそれは医師の質を保持することに役立ちます。患者自身も国の施策や最新の医療の動向に関心を持ち、知識を得ておく必要があるのです。専門医制度には課題も多く、今後変更が加えられることも予想されます。常に問題意識を持ち新しい情報を吸収できるよう心がけましょう。

2022.6.20 更新
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