ドクター転職ショートストーリー

転科(上)

2011年2月15日 コンサルタントH

私がリンクスタッフに入社し、最初に配属されたのは、1日単位でお仕事ができる「スポットアルバイト」をご紹介する部署であった。常勤医師が勤務できない日に、代診する医師を探してほしいと医療機関からご依頼をいただき、登録していただいている先生方にご紹介していく仕事である。先生方もご都合が良いときだけ勤務できるメリットがあり、子育て中の女性医師、臨床から完全に離れたくない研究医など、様々なご事情の先生方が有効に活用されている。
中には関西在住の先生にもかかわらず東京での学会に出席するため、夕方東京に着いて当直業務をこなし、その後、学会に出席したというアグレッシブな方もいらっしゃった。その先生からは「困っている病院があったら、助けてあげたいし。それに宿代も節約できるやん」とさらりと言ってくださったことに感動した記憶がある。

私が次に配属されたのは、決められた曜日だけ勤務する「定期非常勤」のお仕事をご紹介する部署であった。「火曜日に糖尿病の専門外来ができるクリニックを探してほしい」、「常勤先が17時に終わり、翌朝の勤務が9時からなので、それに間に合う当直の求人を探してほしい」など、医療機関からの求人を単に先生方にご紹介するだけでなく、先生方のご希望を聞いて医療機関に提案することが多くなってくる。先生からも「探してくれてありがとう」、医療機関からも「紹介してくれた先生のおかげで、患者さんが増えているよ」と感謝される機会が増えた。

そして現在、所属しているのは、医師の転職を支援する部署である。配属されて間もなくお会いしたのがM先生という、40代前半の女性で、千葉県在住の麻酔科医であった。お会いする前のメールのやり取りでは、「麻酔科から内科への転科を考えているが、アドバイスを含め、紹介してほしい」とのことであった。お会いした第一印象は凛々しい方で、少しずつ転職理由を話された。「実は知り合いの紹介で、3カ月前から内科医として勤務をしているのですが、一向に外来業務をさせてもらえないどころか、麻酔科業務をさせられようとしています。入職したとき条件と異なっていますし、困っています。」「M先生、その病院とはきちんと業務内容についての契約書を結んでいますか」と私が聞くと、「いいえ、知り合いの紹介だったもので・・・」
医局や他の医師との繋がりが深いのが医師の世界の特徴であり、契約書を結ばないままお仕事をするという話はよく耳にする。医療機関を紹介するだけでなく、医療機関と先生が雇用条件について交渉する手間隙を省き、きちんとした契約書を結ぶことができるのも、紹介会社を利用するメリットだとお伝えした。
M先生の転職条件は、内科外来ができる家族との時間を作るため当直がない、土日休める、麻酔科医時代の年収を維持できることの4点である。私は「転科した先生に対して、最初からその条件を提示してくれる病医院は何か問題や事情があるところだと思います」とお伝えし、年収を維持できる方法を考えることにした。
ここで非常勤定期の求人を紹介する部署にいた経験が活かされることになる。

「M先生、麻酔科医としての未練はありませんか?そもそもどうして麻酔科医から内科に転科しようと思ったのですか」
「もちろん未練はあります。できれば麻酔科医としての技術も維持したいです。ただ、麻酔科は緊急の呼び出しがあることと、冷え症のため手術室にいることが本当に厳しくなってきました。高齢化が進む中、老人医療に興味があり、真剣に勉強したいと思っています。」
「ではM先生、オンコールのない、予定手術のみの麻酔業務を、週1のみアルバイトするのはいかがですか」「それでしたら、体力的にも問題ないですね。確かに麻酔科のアルバイトは給与もいいですし、技術も維持できますもんね。」先に金曜日の非常勤の麻酔科業務を探し出し、次に月~木曜日、週4日・当直なしで、内科医として外来も出来る常勤先を探す事になった。そして、介護老人保健施設が併設された200床規模の療養型のA病院をご紹介することになった。

事前にM先生のご希望を事務長に伝えた所、事務長からは「40代の先生には退屈に感じるかもしれませんよ。また、ウチにいる常勤医は男性だけですよ」と釘をさされた。A病院は千葉市から離れた、いわゆる医師不足の地域にあるため、「40代の女性医師がウチに来るはずがない」と疑った様子だった。その旨をM先生に伝えたところ、「老人医療を学ぶ上ではもってこいです。そもそも男性の中で教育も受けて来ましたから、女1人は慣れっこです」と、とてもたくましい返答があった。
そして、M先生が休みの土曜日に面接に行くことになった。

次へ続く

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