ドクター転職ショートストーリー

大切な家族のために(下)

2010年5月1日 コンサルタントT

面接終了の2日後、H診療所の理事より、初年度年俸1850万円(別途住宅補助費50万円)で実績を見て2年目以降アップする可能性がある」と条件提示があった。条件提示書を作成し、当日、N先生にメールで送付し電話で説明した。条件については納得頂いたが、「今後の診療所の体制が見えていないので直ぐに決断できない。2週間時間が欲しい」と依頼があった。数日ほとんど寝ていらっしゃらない様子で「ご納得いくまでじっくりご検討ください」とお伝えした。

約2週間後、N先生より手紙が届いた。「診療所の体制が整う見通しが立たないため、今回の話は一旦白紙に戻して欲しい」という内容だった。心配していた結果になってしまった。H診療所の理事長にも手紙を送られているとのことで、早速状況説明のため電話をした。すると、理事長より「心のこもったお手紙を頂戴し恐縮です。状況は良く理解できました。仕方がありませんね。私どもはいつまでも待ちますとリンクスタッフさんからもN先生にお伝えください」とお言葉を頂いた。その時既に理事長よりN先生宛に手紙が送られていたことが後日分かった。
翌日、電話にてN先生に先方の意向を伝えた。N先生としては、「できるだけ早く診療所の体制を整え、入職に向けて準備をしたい」と考えておられた。

N先生は奥様と何度も相談され2ヶ月の間悩みぬいた後、「後任の医師、スタッフの目処はついていないが決断しました。先方の状況は変わりありませんか」とメールが届いた。早速、某組合に受け入れが可能か状況の確認を行い、N先生に問題ない旨報告した。N先生より「入職時期、年俸など詳細について確認したいことがあるので再度会って欲しい」と依頼があった。
2ヶ月ぶりにお会いしたが、少しすっきりした表情をされていた。事務方の責任者が決まり一段落し、ほっとしたご様子。N先生より「いろいろと心配を掛けたがもう大丈夫です。条件については前回の提示額、入職時期は4月で問題ありません」と説明があった。但し、まだ退職を申し出ていないため、行政側が時期を含め受け入れるかどうか、私としては不安であった。N先生の要望もあり、月末にH診療所にて再度面接を実施することになった。今回の面接は、挨拶と業務内容の確認が中心のため私は同席しなかった。

再面接の当日朝、N先生より「入職時期を延期することはできないか」と電話があった。事情をお聞きすると、昨晩、市長、県会議員がN先生の自宅に入れ替わり押しかけ、「代わりの医師が決るまでの間、退職を半年か1年程先に延ばしてくれないか」と懇願されたため、N先生も断り切れなかったようだ。私からは「万が一の時は1ヶ月程度延期は可能ですが、既に雇用契約も交わしています。本日の面接では当初の予定通り4月入職で話を進めてください」とお願いした。
面接終了後、N先生より「無事終了しました。大歓迎で恐縮しました。先方の期待も大きいし、4月入職で進めます」と電話があった。住まいも某組合が準備し、家賃も全額負担して頂けることになった。最終的に福利厚生面でバックアップして頂けることになり、N先生も満足されていた。しかしながら、退職時期や後任の所長が決っていないなど、4月の入職を迎えるまでにはいくつか大きな課題が残っていた。

年が明け、N先生への引きとめがさらに増してきた。役所の幹部のみならず、今度は住民の代表が「退職を思い留まって欲しい」とN先生の自宅に嘆願に来られた。1月下旬に状況確認のためN先生に電話をすると「役所側もあらゆる手段を使って後任を探しているが、まだ目処が立っていないようだ」と不安げな様子であった。「先生、予定通り4月入職は大丈夫でしょうか。」と私が質問をすると「大丈夫。子どもの学校のこともあるので既に準備を進めている。2月に新居の下見に行く予定です。後任の所長も何とかなるよ」と返答があった。

2月上旬、H診療所の理事より「2月中旬にN先生の奥様が新居の下見に来られます。良い物件を見つけることができたのできっと満足して頂けると思います。」と電話があった。やっとここまで辿り着いたかと内心ほっとした。いろいろと環境を整えてくださったH診療所の理事には感謝の言葉しかなかった。理事の協力なしにはこの話は成り立たなかった。

世間では、外科や救急に携わる医師は家庭を省みず、寝る間も惜しんで医療に従事するとよく言われるが、まさにN先生はそのような医師であった。最初に面談した際に「今まで子どもは嫁さんに任して仕事だけしてきたが、これからは家族のために時間を使いたい」とおっしゃったことが非常に印象深く心に残っている。そのご家族への思いが、さまざまな障壁を打ち破り、4月の入職に至ったのだと思う。これからも、さまざまな先生の人生の岐路に立ち会わせて頂くと思うが、その先生にとって最善の選択肢を提案できるように誠心誠意取り組んでいきたいと思う。

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