ドクター転職ショートストーリー

『外科医としての夢』(下)

2007年12月28日 コンサルタントK

 収入だけを考えれば提案できる案件はある。しかし、私はギリギリまで先生の夢の部分にこだわってみたかった。とは言え、現実は甘くない。
 各施設に打診を始めたものの、反応は鈍い。いかに医師不足のご時世とは言え、外科医としての採用はどこも消極的である。
 「手術を任すことが出来る先生が欲しい」「即戦力が欲しい」「執刀経験が少なさ過ぎる」・・・ 
そんなある日、ひとつの中核病院を訪問した。公益団体が運営する300床規模の総合病院である。
 一応の医師数は確保できているものの、やはり医局からの引き上げや開業による退職者が続き、苦慮しているのが実情である。実はこの病院は勤務医の引止め策として常勤医は当直免除としており、何よりもS先生の自宅から通勤30分圏内の好立地なのである。
 事務長・診療部長と面談した際に「地域住民の要望に応えるには外科も内科もまだまだ不足している。真面目で熱意がある医師が欲しい。」との話を聞かされた。
 私はS先生を紹介した。
 当初乗り気ではなかったが、話を続けていくうちに診療部長から「お会いしてみましょう。」との言葉を引き出すことが出来たのである。

 面接の当日は梅雨の晴れ間の好天気。抜けるような青空が広がっていた。
午後1時、外科部長、診療部長、事務長が席に着かれて面接開始。スキルや経験については高評価を望むことは出来ない。
私は、真面目で几帳面な人柄を引き出すことに努めた。初面談の時に約束時刻の20分前に到着され、写真付きの履歴書・医師免許のみならず卒業証書・参加学会会員証のコピーまで用意されてきたことを思い浮かべながら。
翌日、病院から連絡が入った。回答は「所属は内科として、勉強をして頂く。希望されるなら週に2回、手術の助手を務めて頂く。慣れて来られたら、再度ご自身で進路を選んで頂いて構わない。」というものであった。
給与については医師歴で金額が決まるため、現勤務先に比べて年間で300万円の増額となったのである。
変則的な勤務ではあるが、外科医としての勤務を諦めていたS先生は大いに喜ばれた。
1ヶ月程して病院を訪ねてみた。家族と過ごす時間を確保できたことは大きいとのお言葉を頂けた。
「午後からオペなのですよ。」笑顔で手術室へ向かうお姿は、初面談の時とは全くの別人である。
今後のご活躍を祈りながら病院を後にした私は、蝉の声に誘われて空を見上げた。
7月の空は、抜けるような青さが広がっていた。

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