ドクタープロフィール
ドクター神津
神津院長は昭和52年に日本大学医学部を卒業後、同大学第一内科に入局され、その後、神経学教室が新設されると同時に同教室へ移られました。医局長、病棟医長、教育医長を長年勤められ、昭和63年、アメリカのハーネマン大学およびルイジアナ州立大学へ留学。帰国後、特定医療法人佐々木病院(内科部長)を経て、平成5年に神津内科クリニックを開業された。神津院長の活動は多岐にわたり、その動向は常に注目されている。
2002年2月号 -何でもないもの、だけど気になるもの- backnumberへ
 毎日歩く道でも、時々面白いものを発見する。 最近こだわっているのは、通勤途中の道に落ちている2cm×6cmほどのブルーの平たい物体についてである。この物体に気付いたのが3ヶ月ほど前だから、かなり長くそこに居座っていて、私の興味を引いていることが分かるだろう。

クリニックに通うために家を出て、100mほど歩くと四辻があり、そこを左に曲がって30m程行くと豆腐屋がある。その隣に運転手付きの車を入れる車庫付きの一軒家があって、その前の道路の、車道と歩道を分ける白い線の上に、その物体はあった。最初はプラスティックかと思ったが、どうも違うようだ。

発見してから数日の間、それが何か気になった。しかし、それを目にした時だけのことで、一分もすれば忘れてしまう。帰りは行きと違った道順で帰って来るので、それを目にすることはない。それと遭遇してから5日目に、ちょこんとその物体を蹴ってみた。すると、ほとんど質量を感じない程度にすっと動いた。少し翻るようにして着地し、あとはまた、ずっと前からそこにあったような顔をして動かなくなった。

どうも、布に近いもののようだ。しかし、表面はややテラテラしていて、水を撥ねるようだ。雨のときにも、それは型崩れしないでそこにある。それからは、ずっとそこに、その物体はあり続けている。なぜ、そこにあり続けるのだろう? 日本人は、道を掃かなくなったのだろうか。

あるいは、住民の箒の間を掻い潜るようにして、アスファルトの一部になったような顔をして、海底にじっと動かずに砂と同化しているヒラメのように動かないのだろうか?私がその物体を拾って、しげしげと眺め、ビニール袋に入れて持ち帰り、触ったり、切ったり、顕微鏡で眺めたりすれば、それが何だか分かるはずだ。しかし、そんなことをする価値のあるものではないように思うし、クリニックに行く時はいつも時間に追われて急ぎ足で歩いているのだから、そんな暇はない。では、いま一度蹴ってみてはどうだろうか。その為には、リズミカルに動かしている足の動きを止めて立ち止まらなくてはならない。立ち止まって、その物体を蹴る行為を、周りの人が見たらどう思うだろうか。いやいや、周囲がどうのということよりも、いったい、歩みを止める意味があるのだろうか?

1ヶ月が経ち、2ヶ月が経ち、3ヶ月が経って、その物体は私の心の中の、何かになった。いつもそこにある、無意味なもの。形があって色が合って、存在そのものに疑いはないのだが、だからどう、ということはない物体が、そこにある。

今日も、明日も、確実にそこにあり続けるだろう物体。

今日も、明日も、確実に歩き続けて、クリニックで働き続ける私がいる。

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