ドクター転職ショートストーリー

脱却(上)

2011年3月15日 コンサルタントI

S先生との出会いは今から1年半前だった。当時、某私立大学医局に属されており、弊社が休日のスポット勤務を紹介していた。その際、S先生に転職について尋ねると「医局にいるから、今は考えていません。将来、ひょっとしたらそういうことがあるかもしれないので、そのときはお世話になりたいと思います」との返事だった。

そんなある日、S先生から「実は体調を崩してしまい、転職の相談に乗ってほしい」と私に電話が入った。S先生は40代前半で、急性期病院の総合診療医である。週5日勤務で当直も月4回と、目まぐるしい日々を送られていた。「新医師臨床研修制度が始まる前は医局に数多く医師がおりましたが、年々、入局者は減少し、同級生や後輩が民間病院へと流れてしまいました。必死にカバーしてきましたが、ついに体力の限界が来たようです」という内容であった。詳しい話を聞く必要があると感じ、私はS先生との面談の約束をした。

面談の当日、待ち合わせ場所でS先生を待ちながら、どんな先生なのかと想像していると、電話が鳴った。「今改札の近くですけど、どちらにおられますか」と聞かれたが、実は私の目の前にいるのがS先生だったのだ。大柄な体格であるが、腰が低く、優しそうな先生だった。早速、喫茶店へ入り、転職について話をすることにした。
S先生の希望は急性期病院以外で、当直はなし、自宅から車で1時間以内、年俸1,500万前後というものだった。S先生の状況から考えると、身体に負担が少ない勤務内容がポイントとなる。しかし、転職するにあたって、いくつかの問題があった。約20年間在籍した医局に対し、退局する意志表示のタイミング、そして本当に退局できるのか、退局後のことなど、先生の中で自問自答が始まっていた。私は数多くの先生方から退局についての相談に乗ってきた。「S先生、先生の現状を全て正直にお話しください」と伝えた。過去に、不満を爆発させて退局された先生が、その後、大変苦労されたと伺ったことがあったからだ。S先生は体調を崩され、精神的、肉体的に疲弊した状態である。今の気持ちを打ち明けてもらうことが一番の解決策である。

数日後、S先生が3カ月後に医局を退局する意志を教授に話されたと聞いた。私はいち早く先生の思いに応えるため、マッチングを開始し、M病院をピックアップした。M病院は約150床で30年の歴史を持つが、1カ月前に内科医が1名退職し、求人をいただいたばかりの病院だった。勤務条件も当直勤務なしで病棟管理のみなど、先生方の希望に柔軟に対応していただけるので、私はすぐにS先生に電話をかけた。しかし、S先生は当直中であったため、手短に話を済ませ、メールで詳細をお伝えした。次の日、「一度、見学に行っても宜しいでしょうか」と連絡があり、早々に施設見学の予定を組むことにした。

次へ続く

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