ドクター転職ショートストーリー

理想の実現(下)

2009年5月1日 コンサルタントK

 そんなある日、Y病院のH事務長のことが思い浮かんだ。
 「医師は充実しているけど、良い先生がいたら声を掛けて下さい」
 と以前に話を頂いていた。通勤圏内で、医師数も充分である。ここなら・・・
 私は思い立った瞬間にH事務長へ連絡を入れた。

 普段は多忙のH事務長だが、タイミングよく話をすることが出来た。内科医で転職希望の先生を担当している旨を伝えた。すると、「内科の先生はいつでも歓迎する。詳しく話を聞きたい」ということで快く受け入れてくださった。
 電話では多くは伝えず、面と向かって詳細を話そうと、私は病院へ向かった。

 病院へ到着し、H事務長へA先生の詳細を伝えた。
 医療に対する考え、これからのビジョンと現状。そして障害のこと・・・。

 私の個人的な先入観から、A先生は障害を持っておられるため転職は難しいのではないかという不安があった。事実、A先生の希望に沿うことが出来る医療機関はなかなか見つからなかったのだ。
 少し沈黙が続いた。その数秒が長く感じられ、無理かな・・・という思いが一瞬頭を過ぎった。
 すると、H事務長から「何かしら障害を持っていらっしゃる先生は、患者様の心を良く理解されている。だからこそ医師という上からの目線ではなく、患者様と同じ目線で関わることが出来る。そんな先生は大歓迎です。是非とも一度面接をしたい。そしてY病院で勤務して欲しい」と思ってもみない返事が頂けた。
 「A先生の条件は全て受けます」
 その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。ここならばA先生の理想に近づける。そう思うと嬉しくなった。

 会社に戻り、すぐにA先生へY病院から入職を前提とした面接のオファーがあったことを伝えた。勿論、H事務長から頂戴した言葉も添えた。

 数日して、A先生より返事があった。それは、とても嬉しい返事で、「前向きに考えたい」という話であったが、現在のT病院も医師不足であり、病院やスタッフ、患者様の今後のことを考えるとすぐに面接に行くことに抵抗があり、少し時間を置く必要があった。
 Y病院には、現状を伝え、少し時間が欲しいと伝えた。そして、A先生にもゆっくりと考えて頂くために、私は待つことにした。

 それから数週間が経過したある日、先生からメールが届いた。
 「Y病院の面接を是非お願いしたい」との内容だった。すぐさま、私はY病院へ連絡を入れて双方の日程を調整し、面接日を決めた。

 面接当日、筆談をしながらの面接となった。A先生には考えや医療に対するビジョンを話して頂いた。また、理事長先生からY病院が医師に求めること、A先生が入職をされた際の職務内容について説明があった。
 面接の場は盛り上がった。A先生もその場で、「是非勤務をさせて頂きたい」と決断され、Y病院も「是非、入職頂きたい」と快諾した。双方合意の上で、入職を決定することが出来た。

 A先生は、前回の転職を紹介会社へ依頼した際は、全ての交渉を紹介会社に任せられていたとのことだ。今回、私と話をするまで雇用契約書の存在すらご存知ではなかった。
 だから、紹介会社を通しての転職には、また同じことにならないだろうかと少し抵抗感を持たれていたようだった。
 私は、弊社の紹介システムのサービス内容を明確に説明した。
 A先生は療養型の小さな病院を当初希望された。だが、医師数が少なければ、また同じことが繰り返す可能性がある。A先生に説明し、充分納得頂いた上で医師数の充実したY病院の話を勧めた。
 そしてY病院のH事務長と綿密に打合せをし、A先生に可能な限り安心して頂くために、雇用条件、勤務日数の調整、コメディカルの補助の有無、年俸の設定などを書面に記してA先生へ報告を続け、信頼関係を築くことが出来るように努めた。
 それにA先生の希望年俸は1,200万円と非常に控えめだった。週4日勤務、当直なしという条件提示で遠慮をされたのだろう。私はもっと年俸を上げても良い先生だと考え、A先生の経験やスキル、人柄と将来のビジョンを全面にアピールし、希望条件以上の1,500万円という金額を病院に提示した。その上で、週4日勤務、当直なしという条件も全て承諾頂ける様に事前に病院側に働きかけていた。
 Y病院はたった1、2回の面接で先生を雇うことになり、一歩間違えばリスクを負うことにもなるため、Y病院側にもA先生の情報と進捗状況も常に正確に伝えた。そして双方の質問や希望を少しずつ摺り合わせしていった。

 A先生とやり取りを始めて入職が決定するまでに5ヶ月の期間を有した。
 Y病院からの条件は「週4日勤務、当直なし、年俸1,500万円」。これにA先生は非常に満足された。

 きっかけは1通のメール。そして、A先生の理想を実現したいという思いが繋がった。
様々な出会いを大切にし、また感謝の気持ちを常に持ち、今後も先生方、病院の支援をしていきたい。改めてそう思った。

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