Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2023年2月号
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訪問診療の話

前回、介護の件はちょっと脱線したので、少し現場に戻ろうと思う。

昨今、ニュースでも報じられてるように、施設では新型コロナウィルスによるクラスターが発生している。まあ、抵抗力の弱いお年寄り、特に寝たきりの方もおられる様な状態で、しかも集団生活の閉鎖空間。感染症が蔓延しないわけがない。

御多分に洩れず、私が回っている施設でもクラスターが発生している。しかも、一旦収まってもすぐにまた他の人が発症してクラスターになっていく。もともと誤嚥性肺炎などを繰り返してる方は、なかなか回復せず重症化しやすい。前回書いた様に病院はなかなか受け入れて貰えない。もっともご家族の中にも「施設で診てほしい。」と希望される方も多い。ご高齢で寝たきりだと回復しなくても仕方ないと思われる様だ。

ご高齢の寝たきりの方に濃厚な治療を施して回復させるか、施設での点滴や酸素ぐらいで対応して亡くなっても仕方ないとするかだ。この辺りの判断についてはいろいろ意見があるが、新型コロナ感染がなくとも介護施設では常について回る問題ではある。現実的には、病院に受け入れて貰えない事もあるし、入院したらしたでご家族にも負担がかかる。「無理に辛い治療を施すよりこのまま安らかに。」と考えて当然とも言える。

よって殆どの方が施設での治療になるのだが、結構亡くなる。この寒い季節なので、新型コロナ感染だけが原因では無いのだが、ウチが診ているいくつかの施設全体で週に2~3人は亡くなっている。それまでは大体月に1人ほどだったからやはり新型コロナの影響は結構あると思う。

しっとりとしたお話になるが、施設でお亡くなりになる「看取り」だが、実はクリニック側からしたら結構大変なのだ。最後の救命処置などはまず行わないが、どうしても必要なのが「死亡確認」だ。

特に施設では急に亡くなったりする。寒い日の朝方、血管が縮んで循環抵抗が増えて微妙なバランスで保ってた寝たきりの方が眠る様に亡くなる事がある。これは病院でもよくある事だが。また状態の悪い方でも何時頃に亡くなるかの予想はつかない。ただ、病院との大きな違いは施設の場合、医師が当直している訳でないので、クリニックから確認に行かなければならないのだ。日中でも他の予定が詰まっている事もある。施設までの往復の時間まで入れると最低でも2時間は取られる。

死亡確認だけして「はい。さようなら。」とは行かない。施設の方や家族の方も居る。数年から、長い方は何十年と入所されてた方だからそれなりにみなさん思い入れもあり、ついつい長話になったりもするからなのだが。

という訳で、結構予定が狂ったりもするのだが、これが先生が帰った夜間だと大変。直ぐにとは行かないが、数時間以内には死亡確認しないといけない。その時用の先生は予め約束してあるのだが、迎えに行かないといけない先生もいて、スタッフが大変。月に1回ぐらいならいいが、週に何回ともなると参ってしまう。

勿論、施設も新型コロナ感染者が出ると対応に追われる。大きな施設はエリア毎に分けて対応できるが、小さな所では「感染ゾーン」と言っても衝立を立てるぐらいしかできない所もある。ゾーン分け出来てるところも、そこに入るのに、いちいち防護服一式に着替えなければならない。

日に何度もとなると結構面倒くさい。費用もかかる。

そんな訳で、老人施設ではかなり感染予防に気を遣っている。家族との面会も原則禁止で、あっても玄関のガラス越しに電話を通じての面会が精一杯だ。もし外部から持ち込まれてクラスターにでもなったら大事だから仕方ないのだが、なんとも世知辛い気がする。

ところが、厚労省から外部面会の解禁通達?が来たそうな。しかもいきなり「マスクなしで膝を突き合わせるぐらいの距離で」らしい。施設側は困惑して、ウチに「他の施設はどうされてます?」と聞いてこられるのだが、施設の対応は総じて言うと「無茶言うな。」だ。

当然だ。政府的には、3月でPCRの無料化が終わり、5月にマスク解禁にする予定らしい。しかしながらインフルエンザも流行していて、コロナの感染の届けも医療機関でなく、本人が行う様になったおかげで届けない人が増えているので、実態が掴みにくくなった。なんであんな複雑なHER-SYSなんてシステムにしたのやら。医療機関に負担のない程度の報告にすれば良かったのに、何の参考にするのかもわからない様な細かい事まで報告させて、結局無理だとわかって破綻。一斉に統計放棄だから本当にあきれる。この様に実態とかけ離れていて「コロナ解禁」が上手くいくのか、はなはだ疑問だが、皆さんの周りはいかがだろうか?

(3月号に続く)

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