Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2023年1月号
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訪問診療の話

ここのところ、日常業務に忙殺されている。うちのスタッフから「そんなん誰でもや!」と怒声が飛んで来たが、同情して貰える事情があるんですよ。まったく!実は千葉にあるウチのクリニックは訪問診療が中心のクリニックなのだが、ここで突然欠員が出た。で、当然誰かが埋めなきゃならないのだが、当たり前だが急に訪問診療できる先生が出てくるはずもなく、お察しの通りピンチヒッターで行くことになったわけだ。で、スケジュールが無理矢理になってしまったのだ。

業務的には問題ない。以前からちょいちょい手伝いに行ってたから。こう見えて私は訪問診療の経験は結構豊富なのだ。また、イヌ、ネコ、カラス、それとお年寄りと子供には絶大な人気を誇っている。「え~若い層はどうなんですか~?」と突っ込む奴がいてるが、「医者はお年寄りと子供に人気があれば大丈夫だ!若い人はあまり病院来ないしね。」。まあイヌ、ネコ、カラスはあまり関係ないかもしれないが。(でも確かキリスト教の聖人でアッシジのサン・フランチェスコと言う人は小鳥と会話したそうな。カラスの何が悪い?)

前置きが長くなったが、要は今回は訪問診療に触れようという事。このコラムを読んでる方の中にも在宅診療なんかやられてる先生方もおられるだろう。でも縁遠い先生方が多いのではないだろうか?

で、釈迦に説法だが、訪問診療って基本的に医療機関に通院困難な方が対象となるのはご存知だと思う。しかし、この中でも大きく特別養護老人ホームなどの施設入所者の方と個人宅の方に分かれる。細かい保険点数の話も大いにあるのだが、今回はややこしくなるので割愛させて頂く。

個人の場合は訪問介護など受けながらも、取り敢えず一人で生活できている人と、一人では生活できないが、ほぼ付ききりの家族の方が居られて生活全般の面倒をみておられるかだ。自宅で介護すると言うのは詰まるところ、施設に入るのが嫌な方と、施設入所の順番待ちの方なのだ。

今まで住み慣れた自宅で最後を迎えたいと言うのはよくわかる。それに一部のいわゆる「高級老人ホーム」以外は極度の集団生活になるので、馴染めない方も多いと思う。認知症の方が何人か居られたりすると、職員どころか他の入居者の方も多かれ少なから影響(ほとんと被害)を被る。

なので、頭がハッキリしている方はやはり入りたがらない。家族の方々も入れたがらない。しかし、老老介護の家庭が多いのが現実だ。働いていては24時間目が離せないような家庭介護は無理だ。だから、お婆さんがご主人のおじいさんの面倒をみているケースが多い気がする。あくまで個人的な印象ですが。なんか女性の方が強い気がする。何かにつけて。私の周りも含めて。(ほとんと被害)を被る。

まあでも、いくら元気でもやはりお年寄りだけのご家庭は無理がある。ちょっとしたきっかけで共倒れになることがある。

そうなるとやはり施設になるが、「特別養護老人ホーム」は公的な施設で所得に応じて料金が決まるが、中々空きがない。一方民間経営の「サービス付き高齢者向け住宅」通称「サ高住」は千差万別で入居料(入居時や月々の費用)によってグレードがピンキリになっている。これらの他に殆どの方が訪問介護や訪問看護それに訪問診療を受けているのでその自己負担分がかかる。

今回、廻っている施設は「特別養護老人ホーム」と中ぐらいの「サ高住」と言うところだろうか。西暦2000年に介護保険が出来た頃から既に20年以上。この頃入所した人も当然高齢化して、70、80当たり前。90も珍しく無い。100歳だっている。当然殆どの人が健康上の問題を抱えている。

いわゆる「寝たきり」の人も多いし、程度の差こそあれ認知症の人も多い。中には精神病院レベルの人も居るが、中々入院はさせて貰えない。

これだけ手間が掛かるのだが、ご存知のように人手不足だ。施設はやはり給料が低い上に、手間のかかる仕事が多い。シモの世話だって当然だから、糞尿の臭いも中々キツい。介護士の方々もそうだが、施設の看護師さんもさらにキツい。最近は最後は施設で迎えたい家族が多く、「看取り」も結構ある。いわゆるターミナルケアーなんだが、いくら積極的な医療は行わないと言っても、徐々に状態が悪くなっていく訳で結構手が取られる。さらに寒いこの時期は亡くなる方が多い。一方で最近は施設の看護婦さんが余り医療行為をしなくなっているのが問題になっている。施設長に言わせると「業務がキツいと看護師のなり手がない。」との事だ。ほんと特にちょと都会から離れてるだけで、看護師がいて無い。直ぐに病院に送ろうとして、地元の医師会からクレームがあったりで関係がギクシャクしている感がある。

救急搬送しようと思っても受けてくれる病院が無い。そりゃ病院にしてみたら、施設の入居者さんは「寝たきりの人」が多いので、うっかり入院させて退院させれないようになってしまったら大事だ。ご存知のように入院日数の長期化は保険点数にもろに響く。14日過ぎると極端に診療報酬が落ちるから急性期病院はそれまでに退院してもらわないと困る。療養型でも90日超えるとやってられない。更に「平均在院日数」が問題になるから、一人でも超長期が居ると平均が上がって全体の保険点数が下げられる。要は病院で年寄りが看れない制度になって居る。結局この辺りの矛盾が訪問診療クリニックにかかってくるのだが。

ちょっと横道に逸れるが、介護保険制度自体が病院の利益を削る目的で作られた側面があるので仕方ない。若手の先生方はご存知ないだろうが「高齢者保健福祉推進十ケ年戦略」いわゆる「ゴールドプラン」を推進したのがかの厚労省の岡◯氏だ。「病院が儲かっても院長の奥さんの毛皮になるだけだ。」と豪語して病院での寝たきりなどの長期患者を放り出させたのだ。結局「介護保険」と言う大赤字の制度を作ってしまった。

介護保険が始まって数年後に厚労省の課長と話した事があるが、「介護保険で医療費が下がると思ってたんですが、下がらなかったんですよねえ。」って言ってたから、単に岡◯氏の「病院憎し」の思惑じゃなかったのかとずいぶん医療関係者の恨み節がきかれたものだ。因みにこの岡◯氏のちに収賄で逮捕されてたから、やっぱり利権がらみだったのだろうと疑われても仕方ないだろう。介護保険で建築関係なんかも結構儲けたし、岡◯氏の「ゴールドプラン」で土地さえ寄付すれば補助金でタダ同然で「特別養護老人ホーム」が建てれたし、入居者は順番待ちだからこんなボロい事業もなかった。今でこそなかなか「特別養護老人ホーム」建設許可の枠がなく、さらに介護保険もずいぶん削られたから旨味も減ったが、当初はほんとにボロい商売だった。

あまりにボロすぎて建築費水増しして、本当に「タダ」で「特別養護老人ホーム」建てた連中も結構いたが、のちの監査でバレて「理事長辞めて手放さないと逮捕だぞ!」となってしまった。そんなで一時「売り」の「特別養護老人ホーム」が結構出た。勿論「特別養護老人ホーム」は「社会福祉法人」なので売買なんか出来ないのだが、そんな連中が「タダ」で譲るわけも無く、裏取引で金が動く訳だ。表面上は「理事長と理事の交代」だけだけど。詳しく知りたい方は個別にどうぞ(笑)。

(2月号に続く)

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