Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1977年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2022年11月号
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腸内フローラと「若返り」、そして発癌

前回までで、私の提唱する癌治療の概念をおさらいした。いろいろご意見もあるだろうが、基本的な考え方としては間違っていないと思っている。もちろん、治療法も日進月歩だから細部については日々更新されていくと思うが。特に画像に捉えられない癌に対してや、癌の発生、再発の根本的な予防は論を俟たないと思う。実際、「保険診療」の概念のない海外の方が理解してもらいやすく評判が良い。しかしながら、日本では現実的に一貫してフォローできる施設はなくて、個々については、画像に捉えられる癌は保険治療をしている大病院、画像に捉えられない癌に対しての治療は自由診療のクリニック、癌の発生や再発の予防に関しては医療から離れて健康食品会社などの健康関係の業界が受けもっている。残念ながら、後者になればなるほど紛い物が混じっていることが多く胡散臭くなっていく。今後はこの辺の改善が急務だと思うがいかがですか?

そこで、今回は今までの流れとして癌化と裏腹の老化に関してとなるが、最近面白い発表があった。若いマウスの腸内フローラを高齢のマウスに移植すると若返ると言うのだ。

今まででも老齢者と若年者のフローラの差異については色々と検討がなされており、端的に言うと加齢に伴っていわゆる悪玉菌が増えるのだが、詳しくは後ほど話すことにする。

その様な事から、何となく「若い人のフローラを移植すると健康になったりはするだろうな。」とは考えられていた。そういった背景があり、うちのフローラ移植のドナーの条件としても若年者を選んでるのだが、もっと理論付けれたら良いのにと考えていた。

ところが、待てよ。フローラと言ったら免疫のはず。何で若返るのかはピンと来なかった。そもそも何をもって若返っているかの判定は難しい。まあ、シワが取れたりシミがなくなったりすれば分かり易いが、その様な外面的な変化って短期間では出にくい。最近の研究では年齢ではなくて個体のp16(他にp21,p53など)の発現量で決まると言われている。因みにウチではテロメアのGテールで評価しているがフローラ移植での検証はまだしていない。

そこで件のマウスの研究だが、若いマウスの腸内細菌を高齢のマウスに移植すると、学習力や記憶力、免疫機能までが若返ることが確認されたという。

この研究では老化は全身で生じる炎症の増加と関係しているとしている。確かに以前書いた様に老化細胞が炎症を起こしており、その老化細胞は加齢とともに増えてくる。そしてこの実験では実際に炎症は少なくなった。さらに、それによって脳の学習と記憶を司る「海馬」に含まれる化学物質が、若いマウスのものに似始めたことも確認されたという。 すると学習力や記憶力、さらには免疫機能までが若返ることが確認されたという。実際、脳における免疫反応に重要な役割を果たしているのは、「ミクログリア(小膠細胞)」という免疫細胞だ。ミクログリアは脳内のマクロファージで、マクロファージネットワークと腸内フローラとの密接な関連は以前述べた。また、最近では「脳境界マクロファージ」と言うのが発見され、脳内のミクログリアと異なる働きをしていることが発表されているが、こちらはいずれ述べるとしよう。

要は若い(健康な)腸内フローラは、老化した脳を改善しうるということだ。

アルツハイマー病の原因として、脳内の老廃物であるアミロイドβの沈着が指摘されており、このアミロイドβを処理するのが、脳内マクロファージであるミクログリアだ。よって、ミクログリアが腸内フローラの影響で活性化すれば、脳が若返ると言う理屈も筋が通ると思う。

更に考察すると、若い(健康な)腸内フローラにより活性化されるのが脳内のマクロファージだけとは考えにくく、ネットワーク化している全身のマクロファージにも影響を及ぼしていると考えるほうが自然だ。よって、脳以外の臓器も所謂「若返り」しているおり、免疫機能全体も「若返って」いると言うことになる。

今後は、腸内フローラと「若返り」および、表裏一体の発癌についての関連性が更に解明されていくと思う。

楽しみですね。

(12月号に続く)