Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2021年5月号
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不老不死について

 だいたい「不老」が話題になり出したのは「テロメア」が細胞の複製を規定し、それの長さを出来るだけ保つ、ないし伸ばすと老化が防止出来ると言われ出してからだ。しかし、その為には結局、運動、睡眠、食事などの健康的な生活しか無い、いわゆる「そんなのわかってるワイ!」的な結論になっていたから、もう一つ盛り上がらなかった。ところが、老化をコントロールしていると言われる、サーチュイン(sirtuin)遺伝子が発見され、これらの活性化を行う物質が提唱されてから俄かにブームが加速した。

 これの代表的なものがNMN(nicotinamide mononucleotide ニコチンアミドモノヌクレオチド)で、以前触れた中国の人がありがたがって大量購入していた、1ヶ月30何万円のサプリメントがコレだ。

 更に、ハーバード大学のシンクレア教授が「老化は病で治療できる。」「生物が老化する必然性は無い。」と主張されて、一気にブームになった。どの物質(薬剤も含む)をどのぐらい摂れば良いかも具体的に発表されている。又、もう一方の大家として、元ワシントン大の今井教授もNMNの若返り効果を発表されたりしている。以前登場した私の仲間の「研究者」も色々やっていたりして、私的にも非常に興味深い事と思う。

 しかし、ここで、ちょっと疑問が残る。本当に自然の摂理である「老化」に整合性が無いのだろうか? 細胞の「不老」つまり「不死」というと嫌でも「癌細胞」が思い浮かぶ。また、細胞の「若返り」ということは「幹細胞」の分化の過程の逆行という事になる。

 この辺の事も踏まえて考えてみたいと思うが、まず、「不老」の理屈から整理していこう。色々調べてる人には蛇足だが、何かよくわかってない人が多いので、お付き合いくださいね。

 まず、一言で「老化」と言うが、当然色々な要因がある。ところが、その大元を探れば一つの要因に絞られるというのだ。それが「長寿遺伝子」とも言われ、老化を制御している「サーチュイン(sirtuin)遺伝子」だ。この「サーチュイン(sirtuin)遺伝子」は細胞制御の源流になっており、DNA修復と生殖を調整している。

 その機序として、「サーチュイン(sirtuin)遺伝子」から生成されるタンパク質であり、名称も同じく「サーチュイン(sirtuin)酵素」と呼ばれる酵素がある。そしてこのサーチュイン酵素は「脱アセチル化酵素」とも呼ばれ、脱アセチル化作用を持つ。「脱アセチル化」とはヒストンなどのタンパク質からアセチル基を外すことをいう。アセチル基が外れるとDNAのヒストンへの巻きつきが強まり、DNAの情報が読み取れなくなる。つまりタンパク質を合成できなくなる。反対に「アセチル化」してアセチル基が結合すると、DNAの巻きつきが緩み遺伝情報が読めるようになり、タンパク質の合成が開始される。

 「サーチュイン(sirtuin)酵素」ひいては「サーチュイン(sirtuin)遺伝子」(ややこしいので以下「サーチュイン」とまとめる。)は、このようにして、必要に応じて遺伝子の複製を開始にしたり停止したりすることができるわけだ。それが故にサーチュインは「細胞を制御するシステムの最上流」に位置しているとされている。つまり、端的に言って、「老化」とはサーチュインの働きの低下のことを言う。さらに言えば、「不老」にはサーチュインを活性化させれば良い。勿論、他の要因も存在するが、「老化」を担う大きな要因であることは間違いない。

 一般的に、生体内の働きとして、サーチュインは、病気や飢餓などのストレスにさらされたときに生体に細胞の生殖よりも修復を優先する。 例として、病気になった野生の動物が物を食べずに(野生だから餌が獲れなくて食べれないのだが)、じっと寝ている事で回復するのも理にかなっている。むしろ、生存の為にそのように進化したのだろう。また、サーチュインは老化に伴う主だった疾患(癌、糖尿病、心臓病、アルツハイマー病、骨粗鬆症など)だけでなく、慢性炎症の亢進や細胞死を予防する働きがある。さらに、老化の大きな要因となるミトコンドリアの機能低下をも防ぐ。

 そしてサーチュインにはSIR T1(サーティワン)からSIR T7まで7種類のサーチュイン遺伝子がある。このうち特に重要と言われているのがSIR T1で、インスリンの分泌を促進し、糖や脂肪の代謝の改善、神経細胞の保護など、先ほど述べた老化に伴う疾患(糖尿病、心臓病、アルツハイマー病など)を予防するなど「老化」や「寿命」の規定に大きな役割を果たしている。

 次回は、具体的な「サーチュイン(sirtuin)」の活性の仕方について。

(6月号に続く)

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