Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2020年9月号
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COVID-19のワクチン

 死亡診断書の死因はまず「直接死因」だ。この表記自体に問題があると常々思っているのだが、「直接」なら「心不全」や「心肺機能不全」になる。で、心不全だらけになるからなるべく「直接死因」に「心不全は記載しない様に!」とお達しがあった。もうずいぶん前になるけど、ご存知ですよね。どこかの法医学の偉い先生が「実際の死因の統計が取れない!」とかでおしゃったらしい。
しかし、実際亡くなる方は殆どご高齢で長期寝たきりの様な方も多い。この様な方は、当然多くの基礎疾患があるので、亡くなるとき、どれか一つに原因が絞れない。そこへ「直接死因」となると「心不全」ぐらいしか書き様が無い。私は穏やかに亡くなられたご高齢の方は「老衰」としていた。入院上は病名が必要でも、何でもかんでも「病死」にするより、こちらの方が余程実態に合っていると思うが如何だろうか?
 学者さんは実際の臨床現場をご存知ないのかなと思ってしまう。大体、解剖前提の「死体検案書」と一緒の書類になっている(線引いて、「死体検案書」か「死亡診断書」のどちらかを消すことになっている。)こと自体、実情に則さないと思っている。
 10年ぐらい病院を経営していた時に1000枚以上「死亡診断書」書いた、ジクジクたる思いがあるので、長くなりました。すいません。
 閑話休題。で、COVID-19はインフルエンザと異なり、ワクチンも治療薬も無い。しかも、全例PCR検査しているので、基礎疾患など関係なしに全て死因が「COVID-19感染」になっている。それで、死亡者数は8ヶ月で約1300人だ。どちらが危ないか一目瞭然だろう。
 幸いな事に、ウイルス感染症の予防は、どれも一緒で、国民が熱心にうがい、手洗い、マスクなどの感染予防に励んでいるお陰で、今年は、インフルエンザはじめ、手足口病などの小児の感染症も少ないそうな。
 ただ、医療機関にとっては患者さんが減ったということなので、経営的には大問題だけど。
 COVID-19を感染症の二類相当(実質一類)から外して、事実を喧伝し不安を取り除かないと、この混乱は収まらないと思う。まあ、その一つの要因が「ワクチン」ならそれもありかなとは思うが。

 ところで、前置きが長くなりすぎたが、今回何を言いたいかと言うと、そのワクチンについて。つまり、「大丈夫かなぁ?」と言うお話。
新型のウイルスなのに驚異的に早くワクチン開発が進む一方、政府が始まる前から「企業の副作用の損害賠償責任は問わない。」と宣言しているぐらいだから、結構危険性はあるのだろう。新型ウイルスで、突貫工事で作ったワクチンだからねえ。緊急性と安全性は常に相反するから、企業も「そこまで安全性に責任持てません!」と言うのも仕方ないのだが。
 いろいろなワクチンが開発されている中で、日本では現状モデルナ社の新型コロナワクチン「mRNA-1273」が第3相試験に入っているとかで、トップバッターになりそうだ。他の疾患でも認可実績の無いmRNA(messennger RNA)ワクチンが最初と言うのにはちょっと驚いたが、世界中でいろいろな形式のワクチン開発競争をしていて、取り敢えず、mRNAワクチンが最初に実用化されそうなので使うと言う事だと思う。何と言っても「緊急事態」なのだ。
 なんせ、世界最速の対COVID-19ワクチンが、その名も「スプートニクV(ブイ)」だ。もはやワクチンというより国家の威信をかけた最新兵器の様なネーミング(どこかの栄養ドリンクっぽくもある)。第3相試験ぶっ飛ばしての承認で、どう見ても「政治判断」と思えてしまう。日本政府としては流石に採用するわけにはいかないだろう。ひょっとしたら、良い物かもしれないのに、悪いイメージがついてしまったな。開発者の方々は泣いているかもね。ロシアは侮れませんよ。

 そこで、先生方にはちょっとくどいかも知れないが、結構一般の方も見られているそうなので、基本的な所から。

 ワクチンの形態としては大きく「生ワクチン」「不活化 ワクチン」「コンポーネン トワクチン」がある。
(1) 生ワクチンはそのなかで最も免疫獲得効果がある。生きたウイルスや細菌の病原性を、症状が出ずに免疫が作れる限界まで弱めた製剤。長所として自然感染と同じ流れで免疫ができるので、ワクチンの種類によっては、2~3回の接種が必要なものもあるが、大体は1回の接種でも充分な免疫を得る事ができる。短所として、ワクチンの原疾患の症状がでることがある。
(2) 不活化ワクチンは、ウイルスや細菌の病原性を完全になくして、免疫を作るのに必要な成分だけ生成したもので、接種しても、その疾患になることはありませんが、免疫原性は弱く、1回の接種 では免疫が充分にはでず複数回の投与が必要。トキソイドワクチンも広義ではこの仲間。
(3) コンポーネントワクチンは、抗原をさらに最小化した製剤。副反応は少なくなる が,免疫原性も弱くなる。
 COVID-19ワクチンはこの中の(2)不活化ワクチンおよび(3)コンポーネントワクチンの範疇だが、色々な製造法が試みられている。

以下次号

(10月号に続く)

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