Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2019年9月号
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マクロファージと腸内フローラ

 前回、前々回とちょっと横道に逸れたが、再びマクロファージと腸内フローラの話題に戻そうと思う。

 これまでに、肥満とマクロファージの関係及び腸の蠕動運動自体をマクロファージがコントロールしていることを説明した。その上で今回は「糖尿病」。

 実は、海外からのオファーで、癌と双璧なのが糖尿病。中東、アジアなど豊かになったところは、この2つの疾患が激増する。糖尿は癌の大きな潜在リスクだから比例するのだろう。人間豊かになれば、「旨いもの」に走るのは世の常か。中国の人は分かりやすい。初代で成り上がった人程「旨いもの食って、酒飲まないと生きてる甲斐がない。」と言い切る。「健康の基本は食事だよ。」なんて通用しない。2代目さんぐらいになると結構健康志向になってるけどね。そういえば、先日舌癌で来日したヨルダンの御仁も、無事「完治」したのに、最もリスクとなる酒とタバコを止めないらしい。再来日して経過観察するハズが来ない。あっちの病院に画像送ってくれときた。あっちの病院の画像使い物にならないから日本で撮り直してるのに大丈夫か?

 閑話休題。このように何かと問題の糖尿病だが、当然2型の話。

 肥満とは、脂肪組織を形成する脂肪細胞自体が大きくなること、または脂肪細胞の数が多くなることのいずれか、ないし両方により起こる現象だ。そして、脂肪細胞は、体内の脂肪分を中性脂肪の形で貯蔵するのみではなく、ホルモンを分泌する内分泌臓器である事。そして、肥満により脂肪細胞が肥大化すると、これらのホルモンの分泌が低下し、インスリン抵抗性が発症する。そして、2型糖尿病の主な原因こそ、このインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」の発現だ。

 インスリンは細胞表面のインスリン受容体に結合すると、受容体が活性化し、細胞内のさまざまな蛋白が活性化される。「インスリン抵抗性」とはこの一連の流れである「インスリンシグナル」が遮断されることを言う。

 以前、肥満によるインスリン抵抗性の発症にマクロファージはじめさまざまな免疫細胞が関与することは説明した。そして、脂肪細胞の慢性炎症では、「炎症性サイトカイン」が放出されインスリンシグナルを遮断し、インスリン抵抗性が発症すると考えられている。

 さて、このように肥満によるインスリン抵抗性の発現にマクロファージの関与が考えれる一方、腸内フローラはどうかと言うとこちらもまた肥満及びインスリン抵抗性に、腸内細菌をはじめとした腸内環境が大きな影響を及ぼすことが報告されている。

 腸管は、外界の異物(食物など)と直接的に接する臓器であり、免疫機構のみならず、様々な防御機構がある。そして、この腸内環境は、腸内細菌叢、腸管粘膜、腸内免疫系で成り立っている。

 その中でマクロファージ・樹状細胞といった単核貪食細胞は、腸管内の抗原を取り込み、T細胞へ抗原提示するため、腸管の慢性炎症及び全身のインスリン感受性への関与が考えられている。

 では、まず腸内環境がどのようにして慢性炎症に影響しているかについては次のようなマウスによる実験が行われている。マウスに4週間にわたって飽和脂肪酸を多く含む「高脂肪食」を与えたところ、大腸の長さが短縮し、盲腸が小さくなったと言う。大腸の長さの短縮は、炎症の特徴であり、盲腸の大きさの変化は腸内細菌叢の変化を反映している。つまり高脂肪食はやはり慢性炎症を惹起するのだ。更に、高脂肪食を与えてどのくらいの期間で体の各臓器で炎症が起きるかを、大腸、小腸、内臓脂肪組織、肝臓と臓器別に検討したところ、意外なことに、これまでインスリン抵抗性の発症に大きく関与していると言われていた脂肪組織、肝臓よりも早く大腸で炎症性マクロファージの数が増加していた。この実験では、これまで考えられていたこととは逆に、高脂肪食負荷では脂肪組織や肝臓よりも、大腸で最も早く慢性炎症が起きることを表しているのだ。

続きは次回に。

(10月号に続く)

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