Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2019年6月号
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組織マクロファージ間のネットワーク

 組織マクロファージが全身の各種臓器で色々な働きをしているのは分かってもらえたと思う。では、各臓器に存在する組織マクロファージ間のネットワーク、つまり連携は本当に為されているのか?と言う点について。

 腸内細菌とマクロファージは密接に関係していることは以前お話ししたと思う。

 まず、腸の蠕動運動自体マクロファージがコントロールしている。
腸管には少なくとも2種類の組織マクロファージは存在していて、ひとつは腸管の内腔に近い腸管粘膜下に存在する腸管マクロファージ、もう一つは、腸管の筋肉層に存在する筋肉マクロファージだ。

 腸管の筋肉マクロファージが、腸管神経を介して腸管筋肉に働きかけ、腸管の蠕動運動を制御していると言うものだ。

 その機序は腸管内容物などが、腸管神経に働いて、腸管神経細胞がマクロファージを活性化するサイトカインを分泌する。そして活性化された腸管マクロファージはさらにBMP2というサイトカインを分泌して腸管神経を刺激し、その結果腸管の筋肉が収縮する。

 反対に、腸管筋肉のマクロファージの活性を抑制すると腸管の蠕動運動に異常が起こることも示されている。このような機序によりマクロファージが腸管の運動性を制御している。

 余談だが、このことから過敏性大腸炎などの治療にもマクロファージの活性化が有用だと言われている。

 一方、脳に存在する組織マクロファージは、以前お話しした、おなじみのミクログリアだ。ミクログリアが他の組織ミクログリアと比べて細胞学的に特殊なのはその起源が胎児期の卵黄嚢にあること。又、その人のほぼ一生に生存するとされるほど極めて長い寿命を持ち、自分で分裂分化してミクログリアを産生する幹細胞の機能も持っていることだ。この事は非常に重要な事なので、よく覚えておいて欲しい。

 ミクログリアの機能は脳内に侵入した病原体の処理や死細胞の処理のみならず、最近は脳の発達やシナプスの形成にも重要な働きをしていること報告されている。

 そして、先述したように腸内細菌が恒常性を維持する上で重要な機能を持ち、第二の脳と呼ばれる腸管は恒常性を維持する上で重要な働きをしている。

 ここで、ミクログリアは脳内に、腸管のマクロファージ、腸内細菌は大腸に局在しており、全く離れた場所に存在している。ミクログリアが生理的に正常な状態を保つ上で、腸内細菌がいかなる役割をはたしているか完全に解明されていないが、腸内細菌がミクログリアの活性に関与していると言う実験は為されている。

 腸内細菌が無いマウスでは、ミクログリアの生理的な活性は腸内細菌があるマウスに比べて著しく低下することが認められる。そして驚くことに、この生理的な活性の低下は可逆的で腸内細菌を移植することによってもとの状態に戻すことができるのだ。

 更に具体的にどの腸内細菌がミクログリアの恒常性の維持に必要かを調べる為、無菌マウスの腸内に3種類の細菌(バクテロイデス、乳酸菌、クロストリジウム)を移植した。しかし、この3種類の細菌だけではミクログリアの生理活性は回復しなかった。この結果から、ミクログリアの生理的活性を正常に維持するためには、腸内細菌叢(マウスにも400~1000種類の腸内細菌が存在している。)の腸内細菌全体が存在する事が必要がある。つまり、以前から言っているように、一部の「善玉菌」だけ入れてもダメで、腸内環境を変えるには腸内細菌叢のレシピである「腸内フローラ」をまるごと入れ替えなければ、意味がないと言うことだ。

 直接接点がない腸内細菌とミクログリアがどのようにして情報をやりとりするかに関しては、先述した通り詳しい機序はまだ解明されていないが、密接に関与している事は証明されている。

 これと関連する事だが、マクロファージ活性化物質の経口および経皮投与でも離れた臓器で効果が発現するケースが多く認められるのだが、これも同様の情報伝達機序が関与していると思われるのだが、如何思われます?

(7月号に続く)

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