Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2019年3月号
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ミクログリアは「脳内のマクロファージ」

 近年では肥満や認知症などが体内の慢性炎症によってもたらされていることが明らかになってきており、これらの疾患概念自体が変って来たのをご存知だろうか?

 癌については明らかな発癌リスク、例えば、肝細胞癌におけるC型慢性肝炎感染や胃癌におけるヘリコバクター・ピロリ菌感染など以外は「生活習慣」がイニシエーターになる。つまり、癌は「究極の生活習慣病」と説明(主張?)して来たわけだが、免疫疾患以外の様々な難病にもマクロファージが関与しているのだ。

 全身の至る臓器にマクロファージが存在すると述べた。その中でも特殊なのは脳に存在するマクロファージである「ミクログリア」だ。そもそも脳血液関門がある為、脳には白血球(つまり単球も)が入っていかない。

 ここでちょっと脳神経について。脳には大きくわけて2種類の細胞が含まれている。ニューロン(神経細胞)とそれを支えているグリア細胞(神経膠細胞)だ。グリア細胞は主に3種類ある。アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアだ。アストロサイト、オリゴデンドロサイトはじめ脳内の他の細胞は神経外胚葉に由来であるのに、ミクログリアだけは骨髄系の白血球由来だ。

 ちょっと詳しく言うと、ミクログリアの起源は血液中を循環している単球に由来するのではなく未分化な骨髄前駆細胞が脳実質中に移行し血球系の細胞とは独立した分化をとげたものであると考えられている。

 つまりマクロファージは脳を除く全ての体細胞に備わっているが、ただ唯一、脳はその防御システムである脳血液関門でその侵入を防いでいる。その為に脳専用に備わった免疫物質がミクログリアである。これが、ミクログリアが「脳内のマクロファージ」と言われる所以だ。
「マクロファージに類する細胞」ではなく機能的、広義的には「脳内のマクロファージ」で良いと思うのだが、「マクロファージとミクログリアは同様の機能であるが全く別の物質で生物細胞が神経細胞と体細胞の2系統に別れることを示唆している。」という意見もあり、確定的なことは分かっていない。

 実際他のミクログリア細胞(神経膠細胞)であるアストロサイトとオリゴデンドロサイトは特定の場所で一定の形を保ちながら機能を発揮するのに対し、ミクログリアはマクロファージ同様、通常は突起を多数伸ばして周囲の細胞に接触し, 異常がないかを監視しており、一旦脳内で何か異常が起これば直ちにそこに移動し、その働き応じて形を大きく変化させる。
ニューロンが損傷したときには長い突起が縮み太く短い多数の突起が出ている形になり、また死んだ脳細胞などを貪食するときには突起の少ない丸い形に変化する。

 免疫細胞としてのミクログリアは腫瘍細胞や細菌を殺すためサイトカインやタンパク質分 解酵素、活性酸素類を出す。しかし、これが時として過剰に働き正常なニューロンを殺してしまうこともある。
逆にミクログリアは腫瘍細胞や細菌を殺した後にニューロンにとって栄養になる物質を出してニューロンを保護する。この辺りがミクログリアの機能は「諸刃の刃」と言われている所以だ。

 健常人ではミクログリアが暴走しないよう制御する機構が働いているが、アルツハイマー病やダウン症の患者ではこの制御が効かずにミクログリアがニューロンを障害しているというのだ。

 その一方、マクロファージが老化と共に活性化が落ちるのに対して、ミクログリアは老化と同時に活性化し、アルツハイマーの抑止効果と発現因子という両方の側面をもっているという。
ややこしいですね。

(4月号に続く)

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