Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2019年1月号
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腸内フローラとアレルギー

 現在でも発展途上国では乳幼児はウイルスや細菌などの病原微生物にさらされている。結果、感染症で命を落とす乳幼児が依然多いことも事実だが、一方でT細胞には Th1優勢(Th1>Th2)へのシフトがほぼ確実にみられる。反対に良好な衛生環境の先進国では、病原微生物にさらされる危険性が少ない上に、直ぐに抗生物質が投与される。おかげで感染症で命を落とす乳幼児は少なくなっているが、T細胞は胎児、乳幼児期のTh2優勢 (Th1< Th2)のままで、Th1優勢(Th1>Th2)へとシフトがうまくいかないと考えられる。その結果 IgE抗体を主体としたアレルギー・アトピー性疾患発症へとつながるとされている。

 実際、先進国では小児の約20%に気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー・アトピー性疾患がみられるという。一方これらの疾患は発展途上国の小児にはほとんど発現していない。

 また、少し面白い説として、有害な病原微生物に対抗することで発達した抗体や T細胞受容体(TCR)などは、衛生環境が良過ぎて有害な病原微生物と遭遇する機会が稀になると、本来免疫の攻撃対象にならないような、われわれの体表面(皮膚や粘膜)の常在菌叢や、病原性の弱いウイルスに向けられるというのだ。
これらに対する獲得免疫応答の暴走が、各種アレルギー・アトピー性疾患を引き起こすというものだ。なかなか、的を得ているように思えるのだが、いかがだろうか?

 さらに、これらの疾患の発症には腸内フローラが関与していると言われている。

 生後の腸内フローラ形成は主にお産の時に母親から与えられる菌の定着から始まって、順次、個人特有のフローラが形成されていく。さらに、この腸内フローラの正常な形成が腸管上皮細胞膜上の糖鎖構造の変異に基づいておこなわれているとも言われている。

 そして、この腸内フローラの個々の菌種の数の増減や消失、さらに特異な菌種の著しい増加が、宿主の免疫応答に異変をもたらすことによって、アレルギー・アトピー疾患が発症するとする説がある。

 実際、アトピー性皮膚炎の患者の腸内フローラでは、Enterococcus、Bifidobacterium、Bacteroidesなどの腸内細菌が減少し、逆にClostridium、Stapylococcus aureus などの腸内細菌が増加傾向がみられる。

 また、食品アレルギー患者(アトピー性皮膚炎も一部ある)では、腸内フローラのBifido-bacterium / Clostridiumの比率が下がり、Staphylococcus aureusが増加している。それに伴い糞便中の分泌型IgA抗体量や上皮内のIgA抗体量が減少する。
その結果、ウイルスや細菌などの病原微生物に対する免疫力が低下するという事らしい。また、アトピー性皮膚炎や食品アレルギーの乳幼児の腸内フローラには、乳酸産生菌の減少がみられることも示されている。

 そのほかにも、検査不可能な腸内フローラの変動による疾患の発症も数多く引き起こされていると思われる。

 例えば、成人の腸内フローラで特異的な菌種が急激に増加しても、全体で100兆個以上存在するという腸内細菌群の中では 、微々たる増加でしかない。このため、この菌種を同定することは不可能だ。しかし、この菌の特異的な増加により免疫応答が始動し、炎症性腸疾患など が引き起こされている可能性は十分考えられる。これなどは「原因不明の腸炎」などとされてしまうのである。

(2月号に続く)

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