Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2018年7月号
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癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)

 樹状細胞(Dendritic cell)は、その樹木が枝を出しているような形状から樹状細胞と命名されており、強力な抗原呈示能力がある。

 異物である癌細胞の抗原を、これの細胞表面の主要組織適合性抗原(MHC:Major Histocompatibility Complex)に加えると癌細胞を強力に攻撃する細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte, CTL)を効率的に誘導できる。この時どのような癌抗原を用いるかでいくつかの手法がある。主には癌ペプチドを用いるか、患者さん自身の癌細胞を用いるかだ。

 それぞれ一長一短がある。まず、ペプチドは主に癌が発現しているであろうペプチドを数種類から多い施設では26種類を用いて行っている。後述する癌組織を用いる方法よりは簡便にできる。しかし、発現しているペプチドを予想して用いるようなものだから、完全に目的の癌細胞に合致したCTLが誘導されるかが確定的ではない。

 一方、実際の癌組織を用いると目的のCTLが誘導される。しかし、現実的にはこの治療を受けに来るような方はすでに手術の適応が無い場合がほとんどだ。実際の癌組織を得るためには、それなりの設備のある施設に入院してBiopsyしてもらうしか無い。しかし、そんなリスクを保険治療しかできない大手の病院が受けてくれるケースは稀だ。末期癌の患者さんの癌にbiopsy用の針を突き立てたり、まして体を切開する様な危険な事をまず請け負ってくれない。手術のついででも、この治療法に理解ある先生ですら癌組織を他施設に提供するのは難しい。「検体」の扱いは厳重なのだ。理由もなく他施設に提供できない。まあ現実的にはそこの主治医の先生の力次第なのだが。たとえ部長クラスの先生でも、理由は何とかつけれても最終的にはその先生の「責任」で提供するのだから、単に治療法に理解があるだけでなく提供する相手の先生が信用無ければ無理なのはお判りだろう。特に大きな組織はそうだ。あまりネガティブな事ばかり言っても仕方ないが、反対に一度信用してもらえれば意外にスムーズに行きますよ。

 それ以外にもこの治療法は樹状細胞が培養中ではほとんど増えない為、大量の血液が必要だったり、作る側にも負担の大きな治療法で、だいたい3週間前後かかるのも短所だ。
しかも近年、樹状細胞にも種類があって、もっぱら癌を殺すCTLを活性化するタイプと、逆にCTLを抑制する制御性T細胞(Regulatory T cell)を活性化するタイプがあることが判明した。

 確かに皮下注射だけで、樹状細胞はリンパ球を活性化させることができ、患者負担は少ないが(癌組織を採取するのは別として)、実際中々結果が出にくい印象がある。私自身は、末期癌の患者さんは時間も費用も限られているので、他の治療法もやって、尚且つ余裕があればお勧めすることにしている。

(8月号に続く)

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