以前2018年のエッセーで、手首の三角線維軟骨複合体損傷(Triangular Fibrocartilage Complex injuries、TFCC損傷)を受けたことを話したが、その他にも自動二輪の教習中に転倒して肩の脱臼や肋骨打撲、バイクのステップが当たって右の脛に裂傷を負ったりしたのはスポーツ外傷の部類に入るだろう。4月号で先述した右上腕から肩の痛みが冬の間ずっと続いていたのはスポーツ障害だ。いつもスポーツマッサージをしてくれている施術師のK氏から「先生、だいぶ柔らかくなってきましたね」といわれるようになったから、5月のバイクシーズンには間に合いそうだ。
様々なスポーツ外傷 / 障害
サッカーでは「足首の捻挫、前十字靭帯(ACL)損傷、内側側副靭帯(MCL)損傷、半月板損傷、シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)、第5中足骨疲労骨折、大腿二頭筋の肉離れ、大腿四頭筋(ハムストリングス)の肉離れ、鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)」などが多い。
野球では「野球肘、野球肩、肩関節インピンジメント症候群、肩腱板損傷(ローテーターカフ損傷)、肩関節脱臼、手首の捻挫や骨折、有鉤骨骨折(スイング時の手のひらの痛み)、大腿四頭筋(ハムストリングス)の肉離れ、脇腹の肉離れ(腹斜筋筋挫傷)」などが起きやすい。
バレーボールでは「手指の打撲や骨折、足首の捻挫、膝の骨軟骨損傷、ジャンパーズニー(膝蓋腱炎)、腱鞘炎(特に手首や肘)、腰痛(腰椎分離症)、腰椎椎間板ヘルニア、アキレス腱炎」が、バスケットボールでは「前十字靭帯(ACL)損傷、半月板損傷、手指の打撲や骨折、ジャンパーズニー(腱膝蓋腱炎)、足首の捻挫、膝の骨軟骨損傷、腰痛(腰椎分離症)、腰椎椎間板ヘルニア」が多い。
マラソンやランニングでは「ランナーズニー(腸脛靭帯炎)、ジャンパーズニー(膝蓋腱炎)、シンスプリント(前脛骨筋膜炎)、アキレス腱炎、足底筋膜炎、股関節炎、仙腸関節痛、疲労骨折(特に脛骨や足の中足骨)」が、ゴルフでは「ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)、肩腱板損傷(ローテーターカフ損傷)、腱鞘炎(特に手首)、膝の痛みや骨軟骨損傷、足首の捻挫、腰痛(特に腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症)、疲労骨折(肋骨)などが起こる。
テニスのテニス肘(上腕骨外側上顆炎)は有名だが、その他「肩腱板損傷(ローテーターカフ損傷)、手首の腱鞘炎、ジャンパーズニー(膝蓋腱炎)、アキレス腱炎、足首の捻挫」なども多い。水泳競技には外傷は少ないが、水泳肩(腱板損傷や肩関節インピンジメント症候群)、腰痛(腰椎分離症等)などのスポーツ障害が見られることもあるため、競技前後のウォーミングアッブ、全身のストレッチなどが欠かせない。
バイクスボーツは比較的歴史が浅く、外見からしていかにも危ない乗り物に見えるため、スポーツ医学の対象になっていないようだ。公道での外傷は交通事故扱いで、スポーツとしての医学的・医療的な介入や研究が遅れているようにも思える。私が転倒して260kgのバイクを引き起こそうとした際に、全身の筋肉を瞬時に使ったため、翌日採血をしたところCPKの値が4桁を超えていた(グラフ)。当然、すぐに正常値に戻ったが、この状態を長く続けた場合にどのような身体的な変化が生じるのか興味のある所だ。相撲やレスリングなどの格闘技で筋肉のダメージを受け続けた場合に、脳神経系、内臓系にどのような負荷がかかるのか、またそのためにスポーツ選手としての寿命が短いとしたら、どのような指導や治療が必要なのか、知りたいところでもある。
65歳主婦、指の痛み
先日来院した65歳の主婦は、右手の人差し指のMP関節からPIP関節まで赤く腫れていた。彼女の訴えは、「Dysonの掃除機が重くて、電源スイッチを人差し指でずっと握ってないといけないので、そのせいじゃないかしらと思っているんです」とのことだった。
本人提供の実際の使用写真
いつものように検索エンジンに「finger pain due to use Dyson Vacuum cleaner」と書き入れてみたところ、見事に以下のページがヒットした。
書かれている記事を、MicrosoftのAI翻訳で日本語訳を付けて読んでみると以下のような内容だった。(A)に示したRuth Hamiltonの記事では、Dyson掃除機の家電製品としての欠点について述べられている。
As TechRadar's Homes Editor, I spend a lot of my time testing and writing about vacuums. It is my opinion that Dyson makes some of the very best vacuum cleaners on the market. They're super easy to maneuver, they're well-built, and the suction is excellent. Some even have things like lasers, sensors, and LED screens. But almost all of them – bar the very top model – have one big, basic usability issue, and I just can't understand why.
テックレーダーの専属編集者として、私は掃除機のテストと執筆に多くの時間を費やしています。私の意見では、ダイソンは市場で最高の掃除機を製造していると思います。操作が非常に簡単で、しっかりとした造りで、吸引力も優れています。レーザー、センサー、LEDスクリーンなどを備えたものもあります。しかし、最上位モデルを除いて、ほとんどすべてに1つの大きな基本的なユーザビリティの問題があり、その理由が理解できません。
Here it is: the trigger needs to be continually held down when using the vacuum.
それは、掃除機を使用するときはトリガーを絶えず押さえておく必要があるということです。
If you're vacuuming anything bigger than a doormat, that means a sore index finger. It impedes maneuverability too, because you need to factor in your poor digits when twisting the vacuum into awkward corners. I've tested lots of vacuums now, and in my experience it's rare that the manufacturer won't provide a way to lock the power on for continuous running. Yet, whenever I get my Dyson V8 out to do some comparative testing, I am immediately frustrated by the trigger setup.
玄関マットよりも大きなものを掃除機で掃除していると、人差し指が痛くなります。掃除機を厄介なコーナーにひねるときには、指の悪さを考慮に入れる必要があるため、操作性も妨げられます。私はこれまでに多くの掃除機をテストしてきましたが、私の経験では、メーカーが連続運転のために電源をロックする方法を提供しないことはめったにありません。それでも、Dyson V8 を取り出して比較テストを行うたびに、トリガーのセットアップにすぐにイライラします。
上の図の(B)に載せたSoonyoung Kwonの論文の内容は以下のようなものだ。
Abstract
Cordless stick vacuum cleaners have been getting popular with the slimline and portable design, serving diverse user needs and wants. However, we found users began to feel discomfort or even pain in their hand as the current design caused pressure and friction on hand and fingers constantly and repeatedly, raising the need for ergonomic improvement of current handle. In this study, we tried to solve this problem by (1) identifying the mechanisms cause discomfort in certain areas of user's hand through laboratory experiment, (2) applying a block-type jig as a solution to evaluate a rapid ergonomic design intervention solution options. We improved its structural design in less than two months, minimizing any major structural changes as the product is currently on the market and still being manufactured. This paper demonstrates how such a traditional HCD (Human-Centered Design) based product design process can benefit from ergonomic approaches, which enables us to achieve a significant time and cost-effective redesign process.。
要約
コードレススティック掃除機は、スリムでポータブルなデザインで人気が高まっており、多様なユーザーのニーズと要望に応えています。しかし、現行のデザインでは、手や指に圧力や摩擦が繰り返しかかるため、手に違和感や痛みを感じるようになり、人間工学的な改善が求められていることがわかりました。本研究では、(1)実験室での実験を通じてユーザーの手の特定の領域に不快感を引き起こすメカニズムを特定すること、(2)ブロックタイプの治具(補助工具)を解決策として適用して、迅速な人間工学的設計介入ソリューションオプションを評価することにより、この問題を解決しようと試みました。私たちは2か月未満で構造設計を改善し、製品が現在市場に出回っており、まだ製造されているため、大きな構造変更を最小限に抑えました。このホワイトペーパーでは、このような従来のHCD(Human-Centered Design)ベースの製品設計プロセスが、人間工学的アプローチによってどのように恩恵を受けることができるかを示しており、これにより、時間と費用対効果の高い大幅な再設計プロセスを達成できることを示しています。
私の所に来院した患者のいう通り、原因はDysonの掃除機による「反復運動過多損傷(RSI=repeated sequence injury)」によるもののようだ。Amazonの消費者Q&Aでも、同じような訴えをする人が結構いるようだ。
A: 私は30歳で、体型もそこそこで、関節炎の兆候はありません。昨夜、バッテリーの充電寿命のためにアパート全体に掃除機をかけましたが、今日も手首が痛いです:(
A: 引き金を押さえ続けると手が痛くなるので、休憩を取らなければなりません。それは設計上の欠陥です、IMO(=in my opinion)。
A: 私はちょうど1つ購入しました。私はそれが好きですが、ボタンを押し続けなければなりません。親指の付け根に関節炎があります。だから、ボタンを押したままにして掃除機が私の手にかかっているところ....痛い!下記のように、ゴムバンドのリギングを試してみます。そうすれば、私はハンドルを握ることができます。
RSIは、一定の姿勢や動作を、長時間繰り返すことで、負荷がかかった体組織などに損傷や炎症が起こる障害で、反復運動症候群(RSS ; repeated sequence syndrome)ともいわれる。前述のようにスポーツ障害で起こるものが多いが、スポーツだけでなく、最近ではスマートフォン、携帯電話、パソコン、家庭用ゲーム機の長時間操作で発症するケースも増えている。この患者の場合は、彼女の訴え通り「Dyson finger」と呼ぶのにふさわしいように思う。しかし、機械を使うことが、機械に使われることになってしまう、あるいは便利だからと機械を使うことが、健康を害することに繋がるのでは本末転倒だ。
最近、軽度認知機能障害の88歳の女性に、日常生活に運動を取り入れるように、運動は脳を使うことに繋がりますから、と話したが、本人は「掃除はロボットがやってくれるから、私は横になって本を読んでいます」と、それが当たり前のように答えていた。昔は掃除といえば、はたきを掛けたり箒で掃いたり、畳は雑巾を絞って拭き掃除したものだ。毎朝雨戸を開けて、仏壇に花を添え、お湯を沸かしてお茶を飲めばすぐに台所で洗う。立ったり座ったり、和式トイレを使うのにも足腰を使って自然と関節も筋肉も鍛えられていた。そう考えると、動物としての人間は次第に退化して絶滅の危機に瀕するのはそう遠いことではないように思えてくる。