今年の皆さんの目標は?
専門医を取る、手術の腕を磨いて一段上の手技に挑戦する、貯金を殖やす、留学する、結婚する、フルマラソンに挑戦する、といろいろな目標に向かって心躍らせているはずだ。若手医師でも中堅医師、老医師でも、それぞれに期しているものがあると思う。是非頑張って欲しいし、私からも応援のエールを送りたい。
さて、12月号からの続きになるが、大型二輪免許に挑戦した私の稀有なstoryを書き綴らせて頂こう。
ヘルメット
私のバイクはアメリカンスタイルなので、ヘルメットはstreet JET系を使っていた。いわゆるジェット機のパイロットが被るようなものだ。自動二輪の教習を始めたばかりの時には、全くの初心者だったから、手袋もヘルメットも持っていなかった。クリニックの近くにドン・キ・ホーテが出来た時に、とりあえず、と買ったのは8000円ほどの安物だった(写真左)。
その後自動二輪の免許を取った時に、父親の安物のヘルメットを見て、これでは安全に不安がある、と思ったのか、父の日に長男が贈ってくれたのが写真右のものだ。こちらの方は今でもDaytonaのインカムDT-01を付けて大事に使っている。その後シールド(ヘルメットの前方をカバーして風を防ぐ透明なプラスチック板)の替えとして、紫外線除けの色付きの物もプレゼントしてくれたので、夏と冬で付け替えている。ヘルメットの中の緩衝材は、取り外しが出来る布とスポンジで出来ているので、夏の時期には何回か洗って、フレグランスを少し吹きかけ、快適に使わせてもらっている。
長男はKAWASAKIのバイクに乗っているが、同じ車種に乗る仲間とツーリングに時々行っているようで、そんな時に父親がバイクに乗っていることを話すらしい。ある時、彼が師事するバイク好きの俳優であるI氏に「ヘルメットは命を守るものだから高くても良いものを選ばないといけない」と諭され、私にその話をしてくれた。JET系より、full faceの方がもちろん安全性が高い。早速、いつも行きつけの「2りんかん246溝の口店」に行ってみた。
二階のヘルメットコーナーには、多くの種類のヘルメットが陳列展示されていて、私には正直どれが良いのかわからなかった。長男からは、Arai (アライ) RAPIDE NEO(ラパイドネオ)が良いのでは、というsuggestionをもらっていたので、手に取って見たが、自分の頭にfitするかどうか良くわからなかった。売り場のスタッフに聞いてみたが、コロナ禍でもあり試着は出来ないとのことだった。色味からはモダングレーが気に入ったが、5万円近くする高価なものなので、すぐに購買するには至らなかった。結局、YouTubeでヘルメットの買い方の解説をしているサイトを参考に、以下の写真のヘルメットを手に入れた。
結果としては、私の頭に良くfitして、装着時はややきつい感じだったが、頭が入ってしまえば快適な装着感が得られ、良いヘルメットを買ったと今は満足している。
12月号でお話しした大型二輪の教習でも、JET系ではなく、このfull faceのヘルメットを被って受講した。虫の知らせというか、5年前の自動二輪の教習の時に、何回か転倒して怪我をしているので、今回も同様のことが起きるだろうと予測して、きちんと頭や身体を防護して臨もうと決めていたからだ(この時の怪我の一部始終は、2018年9月号の「バイクと外傷 ~自然と向き合うモータースポーツ」に詳しく書いた)。
1回目の転倒とヘルメットの傷
案の定、最初の転倒は一本橋、平均台で起きた。5cmの高さのある平均台から前輪が脱輪したので、思わず再度バイクを台の上に乗せようと前輪を左に切ったところ、見事にバランスを崩して右に転倒した。これは本当に痛かった。右手でフロントブレーキを握ったまま、右胸と右肩をいやというほど硬いコンクリートに打ち付けた。そして、かなりの衝撃だったのだろう、右方向に放り出されて頭を打った。それがこの傷だ。
転倒した後、すぐに立ち上がることはできたが、最初は息が吸いづらかった。ライダーズジャケットの防御胸当ての硬質プラスチックが当たって、衝撃で肋骨がかなり歪んだのだろうと思う。その時に、肋間筋の防御反射で極度に筋緊張が高まったのだろう、息が詰まった。
「大丈夫ですか?」と教官が心配そうに聞いてくれた。大丈夫ではなさそうだったが、いつものように、「大丈夫です。胸当てが当たったんだろうと思います」と答えた。
「乗れますか?」と心配そうにしていたが、「大丈夫です、乗れます」と、そのままその場でバイクに乗り込んで、次のスラロームをこなしたのだから自分でも大したものだと思う。
少しでも弱い姿勢を見せれば、年寄りだから教習を続けさせてもらえないのではないか、という思いがあった。この思いは、今回の教習の最中にずっと付きまとっていた懸念だった。恐らくそんなことを教官が考えているはずはないのだが、逆に、その思いが自分を奮い立たせる強いモチベーションになったことは否めない。転んでもただでは起きない、切られても切り返す、は武士の心得だ。
通過儀礼としての転倒の痛み
しかし、その夜は右胸から肩にかけての痛みが半端なく、ベッドに入っても痛みで夜中に目が覚めた。痛めた右胸と肩にひどく熱を持っていて熱い。ICEは外傷のfirst aidだ。今日は転倒に動揺して、この処置を怠っていたのに気づいた。ベッドから起きると、冷蔵庫からアイスキューブを10個ずつ、密閉ビニール袋に入れて水を少し入れ、パジャマの上から右胸と右肩に当て、ガムテープで張り付けた。夏も過ぎた秋の夜のIcingはかなりつらい。しかし、そのおかげで、朝方に氷はすでに溶けていたが、胸と肩の局所の熱が引いていた。痛みも軽減していたから、何とかその日の外来診療をこなすことが出来たが、次の夜もIcingは続けた。幸い、骨折や靱帯損傷、脱臼などはなさそうだったので、時々NSAIDsを飲みながら、3週間でほぼ完治した。教官からは、「神津さん、脱輪してもそのまま走っちゃってください」といわれたので、それからは、平均台で脱輪しても、そのまま素直に走り抜けることで、同じ失敗を繰り返すことなく教習をこなすことが出来た。
2回目の転倒+3回目
2回目の転倒は波状路で起きた。大型二輪では、梯子を横にしたような鉄製の構造物を、坐位より安定しやすい立位の乗車姿勢で、5秒以上かけて通過するという特別課題が設けられている。
スピードがついていると梯子の横板で前輪が跳ね返されて不安定になり脱輪しやすい。早くもなく遅くもないスピードで、板を超える時にアクセルを開けて半クラッチで推進力を使い、降りる時にはクラッチを切って惰性を利用して越えていく。その細かい操作を立位姿勢で行うには勘が良くないと難しい。
Harley-Davidson 883は、フットブレーキの位置が他の車種とは違って、ステップバーのすぐ近くにある。今回の教習で、最初に波状路に入って立位姿勢を取ったとたん、そのフットブレーキを思い切り踏んでしまったようだ。当然、バイクはその場で急停車して転倒してしまった。
この時は、すぐに手を放して柔道(実は高校の時に一時期柔道部で練習に参加させてもらったことがある。背負い投げが得意だった)の受け身姿勢で転がったので、身体のダメージはなかったが、横になったバイクのタンク周辺からガソリンが漏れ出た。「ガソリンが漏れてます!」と教官にいうと、「バイクはそう出来てるんですよ」と慌てた様子はなかった。
(後で調べてみると、通常の傾き以上にバイクが傾いてしまった時や、転倒した時などには、設計上ガソリンがoverflowするようになっているらしい。例えば、キャブレター(ガソリンを気化する装置)に必要以上のガソリンが送り込まれないように、あるいは通常流れ込まない箇所にガソリンが流れ込まないようになっているのだ。だから、転倒してガソリンが漏れるというのはバイク乗りにとっては珍しいことではなく、危険な兆候というのでもないということが分かった)
私がいつもの要領でバイクをすぐに起こすと、「乗れますか?」と教官がいうので、「はい、乗れます」と、タンクに付いたガソリンを手で拭って、何もなかったかのようにバイクに跨った。
「ブレーキ踏んじゃったみたいですね。立ち上がる時に、足の位置を後ろにずらして乗ってください」と教官。どうも教習生にはあるあるの転倒のようだ。最初にそれを教えてよ。。と思ったが、何事も経験することが教習なのだろう。以後その失敗を繰り返すことはなかった。3回目はクランクで起きたが、これはクラッチを切り過ぎて失速したためで、その後は半クラッチ、リアブレーキの操作が上手くなったのでこの失敗もなくなった。
(2月号に続く)
<資料>
- 1) 神津 仁の名論卓説2018年9月号「バイクと外傷 ~自然と向き合うモータースポーツ」:
- https://www.e-doctor.ne.jp/c/kozu/1809/
- 2) 週刊アスキー「アラフォー、ついに大型バイクに乗る! 40代半ばで大型自動二輪免許を獲得!
- https://weekly.ascii.jp/elem/000/004/066/4066209/
- 3) バイクの先生:
- https://bike-teacher.com/archives/285