お返事をありがとうございました。
ご教示いただきました「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案」を読ませていただきました。
「基準範囲は、健診や特定の疾患(病態)の診断で利用されている臨床判断値(予防医学基準値)と良く混同される」 と書かれていますが、「混同される」のではなく、「臨床検査に携わる者が十分に説明してこなかったために、誤解を招いている」というのが正直なところではないでしょうか?。
また、「6国立大学病院」を例にとれば「採用前」の「多くの検査で許容できない程度の基準範囲の偏りが認められ」た、とさらっと書かれていますが、これこそ大問題ではないでしょうか? なぜそのような偏りが生じたのかを原因究明せず、説明もなしにJCCLSの「新たな基準範囲」を採用するというのは如何なものかと、感じています。
さらに、「もし臨床医の要望が強ければ、それら検査項目の基準範囲のみ、臨床判断値で置き換えるという選択は可能である」と記載されていることからも、臨床医が困りそうだという想像はできているようですが、現場はそれ以上です。
今日来た患者さんですが、食事と運動の指導で脂質が改善し、2~3カ月に1回の採血結果を見て、その「正常値範囲」に収まっていることで安心されて通院していましたが、3月の検査データと4月の検査データの「基準値」があまりにも異なるので、困惑されていました。
私から時間をかけてわかりやすいようにお話ししましたが、なかなか理解がしずらいようでした。これから、これを毎日の外来診療でやらなければならないと思うと正直困りものです。
パブリックコメントにもありましたが、対象が「医療従事者」という比較的限られた母集団であることについての説明があまりされていません。
基準個体の選別ですが、「自分で健康と自覚する医療従事者を主な対象」としているものの、「一般的には緩い基準」であり、「定期服薬なしを条件としつつ、緩めの条件で基準個体を募る方針がとられた」とあります。この母集団の選定に問題がないか、疑義が生じるところです。
また、この委員会で採用された3つの調査研究で対象とされた年齢は、それぞれ20~65、18~65、20~72才と幅があり、各年代の実数が書かれていませんが、恐らく30~45才くらいが最も多く、その他は個体数が減っているのだと思います。仕事が忙しく、運動があまりできず、収入がある程度あるので美味しいものを食べている世代が中心とすると、女性の場合には体型を気にしてあまり食べない世代、男性は睡眠不足で不摂生、といった実像が目に浮かびます。その個体を「緩めの条件」で募ったものが、はたして日本人の基準範囲といえるのか、と思ってしまいます。そして、それが個体数の少ない年代層、特に18才~20才と65才~72才にも当てはめられてしまうということに違和感がありました。
「基準範囲と臨床判断値の相違点」について、「基準範囲は健常者の測定値分布の中央95%の区画であり、測定値を解釈する際の目安となる値である。ただ、それ単独では診断や治療の判定の拠り所にはならない。これに対して臨床判断値(予防医学基準)は、特定の病態(動脈硬化性疾患、代謝症候群など)に対して予防医学的な観点から、早期介入の目安として設定された値である」とあります。
今までは、SRLが提供してくれていた基準値は臨床判断値であり、カットオフ値であったと思いますが、それが突然「基準範囲値」に置き換えられることで臨床現場に負担をかけるとしたら、それはJCCLSの望んでいることではないと推察いたします。
この手引書にも「もし臨床医の要望が強ければ、それら検査項目の基準範囲のみ臨床判断値で置き換えるという選択は可能である」と書かれているのが何よりの証拠と思います。ただ、今回の測定値の変更にあたって、SRLはその選択を医療機関に尋ねる、という努力をしていませんでした。説明と同意は医療の基本であります。それが欠けた臨床検査会社の対応は如何なものかと考えています。今回、神津内科クリニックでは、以前の臨床判断値に戻してもらうように依頼しています。
以上、感想を述べさせていただきました。とりあえず、このことに関しては、朝日新聞に載せてもらおうかと考えているところです。
今後とも、ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。