神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
3月号

メディカル・トリビア Ⅳ ~D-Mannose その1~

 Amazon primeの登録をしているので、送料が無料になる。商品によってはAmazonにはなくて、楽天市場やモノタロウで調達することになるが、送料が結構かかるのでなんだか損した気分になる。ここのところ自宅のリフォームを続けているので、高額商品をnetで購入することが多くなった。

 Swiss MadisonのHung toiletを買った時には、備品を含めて10万円以上になったのでポイントがだいぶ貯まった。そのポイントを、日常に必要な小物を買うのに使っている。1,560円のコーヒー皿を1,000円で買うとちょっと幸せな気分になる。世の女性たちは、こうして毎日幸せな気分を味わっているに違いない。

 Amazonも含めて、net販売のサイトには、買い物をした人たちのコメントが載せられている。中には購買して良いコメントを残すと、その商品の関連グッズを無料でもらえるという恩典がつくので、「やらせ」に近い☆☆☆☆評価が残されているものや、逆に悪評を残して、競合する商品をわざと貶める恣意的なコメントもあるようだ。

5つ☆

 2月号で書いたように、ドイツのギーセン大学泌尿器科ダニエル・クルスマンとフロリアン・ワーゲンレーナーが”DMW(ドイツ医学週報)-Klinischer Fortschritt”に、「D-マンノースは大腸菌の螕糸を阻害し、細菌が膀胱上皮に結合する能力を阻害することから、コップ一杯の水に溶かした2 gのD-マンノースを毎日摂取した後、プラセボの摂取と比較して尿路感染症の割合が大幅に低下した」という発表をした。これが大衆雑誌ならともかく、DMWは1887年に森林太郎がドイツ留学中「11月14日ドイツ医事週報の編集長グッドマンの元を訪れ」て、北里柴三郎が投稿する約束をしている、と聞かされたことが、福田眞人氏(名古屋大学名誉教授、医学史研究家)の文献に残っているくらいだから、評価に値する医学雑誌と考えて良いだろう。

 しかし、始めて目にする「D-Mannose」なるものがどんなものなのか、実際に使ってみてどんな効果が期待されるのか、とりあえず自分でも調べてみることにした。

 すると、それを使用した人々が、商品レビューに高い評価(5つ☆が81%)を書き記しているのに驚かされた。家具や電気器具とは違って。自分の体内に入れる食品だから、好き嫌いや食感で評価が分かれて当然だ。しかし、使った人々はその効果に驚き、高い満足度を書き残していた。そのレビューの一部を(Web上の画面を転載する許可をAmazonに依頼したが、規約上それが出来ないとのことなので、ニュアンスを残して)紹介する。

絶賛の声

 〇メキシコから投稿したAさんは四肢麻痺で、長年尿路感染症に苦しんでいたが、D-mannoseを摂取することで長年の悩みが解消されたという。四肢麻痺での療養であれば留置カテーテルが入っているはずだ。それに対しても効果があったと思われる。

 〇日本人のBさんの場合は、寒くなると膀胱炎を繰り返して医療機関を受診し、そのつど抗生物質をもらっていたが、D-mannoseを飲むことでその回数が激減したという。

 私の外来診療では、膀胱炎を予防するには、日常の排尿時に外陰部の前(尿道側)から後ろ(肛門側)に拭くことや、性行為に際しての清潔手技を励行すること、水分をたくさん摂って排尿を我慢しない、ウォシュレットを使用している場合にはそれを止めてみる、などの生活指導を行っている。漢方薬が何らかの良い効果を示す患者さんもいるが、抗生物質の投与が繰り返し必要な患者さんもいて、泌尿器科医に紹介するcaseも少なくない。もしこのD-mannoseが有効であれば、生活指導に加えて試みる価値があるのではないか、と思い始めた。

 〇アメリカから今年の1月に投稿したCさんは、膀胱炎の症状が出た時に飲むと3日くらいで良くなる、と投稿している。この摂取の仕方が果たして適切なのかどうか判断は難しい。

 〇同じくアメリカから23歳の女性が大感激して投稿していた。繰り返す膀胱炎症状が起きるたびに医療機関で抗生物質をもらって、治まったと思ったらまた再発し、それが数か月続いていたようだ。今の時代だから、net情報をいろいろと漁ったところ、このD-mannoseに辿り着いたという。netに書いてあるレビューを読むと、素晴らしい効果だと称賛する声が圧倒的だったが、彼女は「そんなに効くわけない」と内心思ったという。しかし自分がこれを試してみたところ「それが効くんです!!」と大感激。「私は本当に100000%良くなったと感じました」というコメントは嘘ではないだろう。そして、彼女は同じ再発性尿路感染症に悩んでいる人たちに「私と同じくらいイライラしているなら。あなた自身のために、D-mannoseをできるだけ早く始めましょう!」と声を大にして伝えている。

 〇アメリカからその他にも、通常はレビューを書くことのない、3種類の抗生剤を泌尿器科医から出されていても治らなかった購入者が、自分が治ったことを多くの人に伝えなくては、という使命感で「Redditアプリでこれが推奨されているのを見て、まず試してみることにしました。1日以内に私の症状はすでに100万倍良くなりました。私はこれを何ヶ月も使っていて、とても満足しています!私の膀胱はもはや問題ではありません。ありがとう!」と書いている。米国の医師に勧められて数か月使っていてとても快適だというコメントもあった。

 Amazonで買い物をして、これほどの絶賛を得た商品は見たことがない。どんなscientificなバックグラウンドがあるのか気になった。

Urinary tract infection (UTI)

 WHO(2017)の報告では、毎年1億5千万人以上が大腸菌によるUTIの影響を受けている、と報告している。有病率は女性に優位に多く、18才以上の女性の11%が毎年UTIに罹患していると推定されている。すべての女性の約50%が、生涯に少なくとも1回は尿路感染を経験する。女性は直腸の近くに位置する尿道が短いため、UTIのリスクが高く、性行為、妊娠、閉経などによる尿生殖器の細菌組成が変化することで、UTIのリスクが高まるとされている。

 その他、糖尿病患者、前立腺肥大患者、膀胱留置カテーテル管理などにより発生しやすく、UTIは計画外の再入院率を高めて、社会的、経済的な負荷をかける大きな要因とされている。過去6ヶ月以内に2回以上の症候性UTIを、または過去12ヶ月以内に3回以上のUTIを生じた場合、再発性尿路感染症(recurrent UTI)と診断される。

 健康な女性の場合、尿中微生物叢で最も一般的な細菌は膣に存在するLactobacillus(乳酸菌)と同じもので、その他Gardnerella、Streptococcus、Staphylococcus、Corynebacterium、Escherichiaが見られる。この割合は加齢によって変化し、閉経前の女性ではLactobacillusとGardnerellaが優勢だが、閉経後にはEscherichiaが優勢となり、さらに種々の異なるマイクロバイオータが見られるようになる。マイクロバイオータの変化、特にLactobacillusの減少は再発性尿路感染のリスクに寄与していると考えられている。

 膣に常在するLactobacillusは、H2O2と乳酸を生成して膣内のpHを低下させ、大腸菌のような病原性細菌が尿路で繁殖するのを妨げている。実際、尿路感染症の原因となる細菌は、肛門から膣に入り、そこを温床としているようだ。

 我々の日常診療では、膀胱炎症状を訴えて来院した患者に尿検査をして、WBC、RBC、蛋白、亜硝酸塩反応、pHを見て治療が必要かを判断して、単純性膀胱炎であれば抗生剤を5日間投与してそれで診療が終わることが多い。再発性の場合には菌の培養同定、菌数(10x CFU/mL)、薬物感受性テストなどを行う。菌数は日本では104を基準にしているが、欧米文献では105を基準にしているようだ。それを下回るとCulture-negative LUTS(lower urinary tract symptoms)として、OAB(overactive bladder:過活動膀胱)、あるいは痛み、圧迫感、不快感を強く訴える場合には、interstitial cystitis/bladder pain syndrome(間質性膀胱炎/膀胱痛症候群)と診断されてcare中心の対応になる場合が多くなるようだ。

大腸菌

 しかし、尿路感染症の原因となるE.coliはかなりしたたかで、膀胱壁の上皮細胞に密かに隠れて、Intercellular Bacterial Communities(IBC)を作って増殖している。まるで「ああ、尿検査で白血球は出ていないし、培養も陰性でしたから、感染性のものは考えられないですね」という医師たちを嘲笑うように。

(4月号に続く)

<資料>

1) Andrea Hertlein “Recurrent Urinary Tract Infections: What's Good Prophylaxis?”
https://wb.md/3xXE7bc
2) 福田眞人
「北里柴三郎:内務省衛生局時代とドイツ留学への道」, https://bit.ly/3xTnWLN
3) Amazon「D-Mannose」
https://amzn.to/3kvPSSZ
4) Reeta Ala-Jaakkola et.al.: Role of D-mannose in urinary tract infections – a narrative review
https://bit.ly/3ZaJiAA
5) Victoria C. S. Scott et.al.: Intracellular Bacterial Communities
A Potential Etiology for Chronic Lower Urinary Tract Symptoms:https://bit.ly/3Y6eQWC

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