家族ぐるみで診ているかかりつけ患者家族の長男が、熱が続いていておかしいので診て欲しい、と来院した。
1ヵ月前に37℃台の発熱があって、会社近くの内科を受診したが、血液検査の結果は特に異状ない、といわれたとのことだった。その2週間後に再び同様の発熱があって、同じ内科に受診したが、今度は血液検査なしに解熱剤の投与だけで経過観察になった。この時に、原因が不明だということに不安が残ったという。さらに2週間後に、今度は38.4℃の発熱があり、2日後には平熱になったが、詳しく調べてもらいたい、とかかりつけでもある当院を受診したという経緯だった。
型通りに診察を行うと、咽頭発赤が軽度あり、頸部リンパ節腫脹はないが、右背部に叩打痛を認めた。胸部所見、腹部所見には異常を認めなかった。
後日出た結果は、尿検査は正常、血液検査は以下のようだった。腹部CTの結果は、左腎に極く小さな石灰化を認める以外問題はなかった。
私の出した結論は、「今回は咽頭発赤軽度あり、CRP1.33↑と炎症反応もあるため、ウィルス感染で良いか。単球数が8.3%(n;0~8%)と増加しているのは、マクロファージとして炎症に寄与していた可能性もある。心因性発熱の場合はNSAIDsが効かないためジアゼパムが用いられるが、前回NSAIDsで解熱していることから、心因性(交感神経を介する)発熱ではなく、外因性(発熱物質→マクロファージ→炎症性サイトカイン→プロスタグランジン)発熱を考えた方が理解しやすい」だった。つい最近子供が生まれて、生活が大きく変化し、疲れもたまっていたかもしれない。睡眠を良くとって、脂質異常を改善する食事を摂るように指導した。その後発熱は見られず、再診することもなかった。
不思議な発熱
発熱した個体の高体温環境では、白血球遊走能が高まり、骨髄での幹細胞の数や分化を高めることが明らかになっている。そのほかに以下の図のような免疫の活性化が起きて、生命維持に努めている。
これらはほぼ外因性発熱物質に対しての防御反応であるが、発熱を起こすような感染性疾患に雇患していないにもかかわらず、単発的にあるいは継続的に高熱を示す患者に出会うことがある。
この不思議な発熱現象は、一定したパターンはなく、40 ℃近くなるような一過性の高熱が出たり、38℃に至らない微熱が数カ月から1年にわたり継続する場合があるようだ。(Oka, 2015)。この発熱は、何らかの感情的な反応や慢性的なストレスと関係しているため、心因性発熱もしくは神経性発熱と呼ばれている。心因性発熱の原因は明らかでないことが多く、解熱剤がまったく無効で、医療従事者が心因性発熱の存在を必ずしも正しく認識していないことが問題となる。
ストレスと体温
実験動物によっても、同様な体温上昇がみられていて、ヒトの心因性発熱と同様なものと推測されている。たとえば、狭い場所が好きなマウスを広い場所に置いたり、新しい飼育ケージに移したり、自分より強い大きな他の実験動物をみせたりすると、急激に体温が上昇する。驚くべきことに、この上昇は、30分以内に2℃にも及ぶ場合があるという。このように、動物実験において、心因性発熱はストレスと関係しており、ストレスの原因が減ったり、ストレスを軽減する薬剤投与が行われると、発熱は軽減することが明らかになっている。この体温上昇は解熱剤の1つであるインドメサシンを投与しても変化しないが、抗不安薬であるジアゼパムを投与すると軽減することが報告されている(Lkhagvasuren et al., 2014)(図1-22)。
感染性の発熱は、視床下部視索前野を起点として、最終的には自律神経活動の上昇による熱産生の増加、熱放散の低下が生じて起こることが知られている。一方、心因性発熱は、おそらく感情などにかかわる脳皮質を起点としており、視床下部視索前野は関係していない。しかし、実験動物を用いた研究結果では、感染性発熱でも心因性発熱でも、共通して褐色脂肪組織やふるえによって体温が上昇すると報告されている。
ストレスによる体温上昇は、健康なヒトにでもみられる。ポクシングの試合に臨む少年12人(12~14歳)の、まだ試合前の練習もはじまっていない時間の舌下温を測定すると、普段同じ時間に家にいる時の温度に比べて、0.8℃高いことが報告されている(Renbourn,1960)。
また、大学の入学試験でストレスがかかった場合でも、普段家にいる時より体温が0.6℃高くなるといった報告がある。しかし、これら多くのヒトがストレスを受けた際に、一般にみられる体温上昇は、ストレス性高体温と呼ばれ、疾病に分類される心因性発熱とは区別されている。
ストレス性高体温においては、体温の上昇は1℃以下にとどまり、絶対温度としても37.5℃以下だ。心因性発熱との差は、ストレスそのものの強さの違いであるとともに、ストレスが継続的に加えられていることが、何らかの感情的イベントがあった際に、発熱の増強因子になるのではないかと考えられている。
ストレスによる体温の上昇は健常人でも起こるが、その際、特に強い自覚症状はともなわない。しかし心因性発熱患者では、不眠や疲労感と、体温上昇とに強い相関がみられるようだ。
ヒトの心因性発熱やストレス性高体温の原因は、実験動物と同様、感染や炎症に伴う発熱のような「メカニズム」、すなわちプロスタグランジE2(PGE2)やサイトカインを介さないもので、ストレスに対する過剰な交感神経の活動が関係することが推測されている。
人の体を温めるしくみ「行動性体温調節」
暖房のスイッチを入れる、衣服を着るというヒトが何らかの行動によって体温調節を能動的に行う方法を「行動性体温調節」という。衣服を着ると、皮膚と衣服の間にある空気が暖まる。最近では保温、発熱にすぐれた高機能性繊維の進化により、衣服による体温調節をより効果的に行うことが出来るようになった。ヒト以外でも、変温動物の亀は体温が低下すると、岩場に登り甲羅を日光に当ててからだを温める(亀の甲羅干し)。恒温動物のネズミ、猿、ペンギンなどは、寒い環境で多数の個体が隙間なく集まる行動をとる(ハドリング)。このハドリングにより、肌を触れ合わせ、お互いの熱交換(伝導性熱交換:熱は身体深部から体表面へ移動し、体表面から身体に直接接触している物体に熱が移動する。この熱の交換のこと)を効率よく行い、からだを温めている。ヒトも動物も、寒くて不快と感じると、からだを温める行動性体温調節をとるのは同じだ。
今は真夏だが、クーラーが効きすぎて寒いくらいの部屋では「クーラー病」の恐れがある。夏の外来では、「会社のクーラーが私の席の方を向いていて、寒くて寒くて・・」という患者さんが多くなる。こうした場合には、西洋薬の出番は少なくて、漢方薬の独壇場だ。汗をたくさんかいて、水分を多く摂ったための水太り状態で、クーラーにあたって冷えたような場合には防己黄耆湯、水分を取り過ぎて胃酸が薄くなり、胃腸の機能が弱って食欲も低下するような時には六君子湯、これに下痢が加われば五苓散を使う。腰から下の冷え、足先の冷えとむくみがある筋肉量の少ない女性なら当帰芍薬散、八味地黄丸を、冷房環境と屋外環境を出たり入ったりして自律神経のバランスを崩したような場合には。加味逍遥散、柴胡桂枝乾姜湯を処方する。
私の外来でも、外から入ってきた患者さんは「暑い暑い」と汗をかきながら入って来るので、やや強めにクーラーがかかっている。しかし、1日中その中にいて、特に椅子に座ってばかりいる我々医師は冷え切ってしまう。後輩の開業内科医に「先生はどうしてますか?夏クーラーで寒くなって凍えてしまいます」と聞かれたので、「私の場合は、夏も冬と同じに足元暖房をしているよ」と答えた。このSANYOの暖房機は、もう10年以上使っているが、永く使っていても壊れない。簡単なサーモスタットも付いているので、適当な温度でスイッチをon/offしてくれる優れものだ。
行動性体温調節には、ちょっとしたアイデアや工夫が大事だ。ヒトはペンギンやハリネズミよりも、いろいろなグッズを使って体温調整が出来るのだから、体温生理学を学んで健康でいられるようにしたいものだ。自分の体温生理が分かれば、患者さんにもそれをfeed back出来る。いくつになっても学ぶことは多いと感じる今日この頃だ。
(追記)5月号の「自分を理解するkey word~糖代謝、腎機能、握力~」で、自らの不徳を反省し、食事と運動の是正に励んできた。結果は以下のように、HbA1cは5.9%と正常値に入った。
4月9日から11周目で、体重は76kgから68kgまで下がった。同僚の内科医から「先生、素晴らしいですね!ライザップ並みです」とお褒めの言葉を頂いた。F友から、なかなかそんなには体重が減らない、といわれて、「秘訣を教えましょう。今まで食べていたそのまま、全て1/2にする。毎日40分のwalking。これ以上でも以下でもダメ。脂肪を燃焼させるために、カプサイシンを摂る。私の場合は、サルサソースを何にでもかけて食べてる。砂糖は使わず、キシリトールを使う。麺類、白米は出来るだけ食べない。肉はラム肉を主体に、豚、鳥、牛肉は出来るだけ食べない。アルコールは赤ワイン、グラス2杯を毎日。お腹が空いたら、tree nutsを10粒食べる。喉が渇いたら、自家製黒酢ソーダを炭酸で割ったものに、レモンスライスを乗せてグビッと^_^。ビール、日本酒は出来るだけ飲まない、位かな」と答えた。読者のご参考までに。
<資料>
- 1) 永島計編集:
- 体温の「なぜ?」がわかる生理学~からだで感じる・考える・理解する~, 杏林書院, 2021.
- 2) 入來正躬著:
- 体温生理学テキスト~わかりやすい体温のおはなし~, 文光堂, 2003.
- 3) Oka T:
- Psychogenic fever: how psychological stress affects body temperature in the clinical population; Temperature, ; 368-378, 2015.
- 4) Lkhagvasuren B, Oka T, Nakamura Y, et al.:
- Distribution of Fos- immunoreactive cells in rat forebrain and midbrain following social defeat stress and diazepam treatment. Neuroscience, 272: 34- 57, 2014.
- 5) Renbourn ET:
- Body temperature and pulse rate in boys and young men prior to sporting contests. A study of emotional hyperthermia: with a review of the literature. J Psychosom Res, 4, 1960.