神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
5月号

COVID-19の現場から~医療者にのしかかる重荷~Ⅱ

 3月16日公開のThe New York Timesにカレン・ワイズ記者の記事が載った。「Doctors Fear Bringing Coronavirus Home: ‘I Am Sort of a Pariah in My Family’」(医師たちはコロナウィルスを家庭に持ち込むのを恐れている:私は家の中ではある意味追放された民なんです)というキャプションが踊る。

 彼女がインタビューしたベテランの救急専門医は「ある医師は咳をする患者に囲まれている夢を見たという。彼らのキャリアからして、こんな恐れと不安を抱える事など見た事がない」と述べた。Emergency roomに医師を派遣している全米最大の派遣会社社長であるアダム・ブラウン氏は「我々の多くはエボラ出血熱やハリケーンのような災害に対するトレーニングしているが、今回のコロナウィルスによるパンデミックはその規模と範囲からして違うものだ」と述べた。

People Are Dying!

 3月25日のThe New York Timesには、Elmhurst病院の救急専門医であるColleen Smith医師の現場からの命がけで訴えた動画が載った。彼女が訴える内容は、世界一の医療水準を誇るアメリカでの思いも掛けない惨状だった。医療資源が現場に届かず、重症者に必要な人工呼吸器が揃わない憤り。記事の中で、27才の総合診療科レジデントのBray医師が「これはもう黙示録に書かれた参事ですよ」という。Elmhurst病院では、COVID-19の患者を受け入れるために、一般患者545人を他の病院に転院させた。瀕死患者の発生を伝えるcode “Team 700”が何回も院内ラウドスピーカーで繰り返され。しかし、何人もの患者がER内でベッドに横たわったまま死亡した。

We don’t have the tools that we need!

 Colleen Smith医師はビデオの中で「現状は全部が不満だし、今更これだけではどうにもならないし手遅れだと感じています。こうなることは分かっていたんです。だけど、今日はもっと悪くなっています。亡くなった人の死体を入れておくのに冷蔵トラックを用意しないといけなくなっています(院内には置くスペースがなくて)。人工呼吸器を何とかして手に入れようとしているのですが、CPAP用でもいいと思っていますけど、今のところ5台しかありません。患者さんが死なない限り、とにかく一両日中に機械を手に入れるように頼むつもりです。100台はあるというのですが、どこにあるか分かりません。大統領、病院管理者の偉い方達は、大丈夫問題ない、といいますが、私たちから見れば、全然大丈夫じゃないです。とにかく必要なものがないのです。資材はないし、患者をケアする体力も。アメリカですよ、世界一の国として援助されるべきでしょう。通常の診療でも、救急科で診る患者の数はかなり多くて、一日200名を診ていますが、今はもっと多くて400人です。最初、咳と発熱のある患者を隔離し、注意深く観察していました。しかし、他の患者全てを必ずしも特に注意深く診てはいませんでした。その後、発熱はないが腹痛を訴える患者に、実際には胸部XP、胸部CTにコロナウィルス感染症の所見が見られる事に気付き始めました。そこで、交通事故で運ばれた患者にCTスキャンを行ったところ、胸部所見がコロナウィルスに感染している事が分かりました。私たちは多くの患者をERで見ていて、多分それらの患者はコロナウィルスに感染していたのだと思いますが、気が付いていませんでした。10人のレジデント、たくさんの看護師、何人かの提携医が感染しています。この状況は、本当に不安で仕方ありません。検査を望んでも、病院の医師達でさえさせてもらえません。症状があっても、です。私たちは何回も、何回も危険に晒されています。私達がつけなければならない防護用具を持っていません。朝N95マスクを一枚付けて診療に出ます。本当なら患者を診るごとにN95マスクを付けなければならないのですが、一日中このマスク一枚を付けて脱ぎません。今付けているN95マスクは先週の金曜日に付けたものですからもう5日も付けたままです。N95マスクが無くなったらどうしようかと心配で仕方ありません。今ちょっと怖いのは、患者の病状がさらに悪くなっている事です。健康で喫煙もせず、基礎疾患のない多くの若い人が病気に罹っています。彼らは若い普通の人で、年齢が30から50才の、この病気にはなりそうもない人達です。あまりにも多くの人達が、OK、大丈夫だよ、必要なものはあるし、といっています。この状況が1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、5ヶ月と中国で起きていたように続くとしたら、もうすでにこの緊張状態が続いているのに、必要なものが私達にはないのです。私は、メディアにこうして露出する事が厄介な事になっても全く構いません。私は、人々にこれではダメなのだ、ということを知って欲しいのです。人が死んでいるのです。救急部門にも病院内にも、患者を助けるのに必要な物品がありません。本当に、大変な事なんです。」

医療現場からの訴え

 Anja Wolz看護師がNEJMに載せたSierra Leoneからのメッセージは、今でも我々に大切なことを教えてくれる。4月号からの続きを読んでみよう。

 隔離地区で働く者は全て、事前に決められた計画手順を厳格に守らなければなりません。私たちは相互援助システム(buddy system)を採用しています。これは、自分の身を自分で守るのは勿論のこと、私たちの命を同僚の手に委ねることを意味しています。一つの過ちが死を招くのです。隔離地区では、患者の状態によって、Ebolaウィルス感染が疑われるもの(suspected)、ほぼ確実なもの(probable)、診断が確定されたもの(confirmed)にテントを分けています。感染が疑われる症例は、発熱と共に3つ以上の兆候があった場合にsuspected(疑いあり)と定義されます。ほぼ確実な症例(probable)とは、症状に加えてエボラウィルス病に罹った人、あるいはこの病気で亡くなった人と接触したことが分かっている場合をいいます。suspected caseとprobable caseの間にははっきりとした区分をもうけ、相互汚染のリスクを最小限にするために、手洗いの仕方、他の患者や患者の持ち物に触れないこと、といった教育が行われます。同様の理由で、スタッフは事前に決められた厳密な巡回方法、まずsuspected caseのテントから始め、次にprobable caseのテントに行き、最後にconfirmed caseのテントに行く、といった動き方に従わなければなりません。

 隔離地区には、ゴミ捨て場、洗濯場、簡易トイレ、シャワー、墓地などがあります。スタッフは24時間昼夜の別なく一日三交代勤務になっていますが、きちんと管理されてハイリスク区にいる時間を極力短くしています。実際の所、今回の大流行にあたってはここが最も安全な場所の一つでもあります。というのも、患者はエボラウィルス病であることが分かっているので、すべての防御対策がしっかりととられているからです。

 Suspected caseのテントの患者たちは元気そうに見えますが、probable caseの患者たちについてはまた話が別です。ここの患者たちは発熱し、痛みを訴え、食べられない状態でいます。しかしこうした症状はマラリアかもしれないのです。現地の検査室でのPCRテストによってエボラウィルス病であるかどうかの診断が確定しますが、結果は同日または翌日には分かるようになっています。結果が出ると、患者はconfirmed caseのテントに移されるか、退院となります。テントを移されることを知ると、当然のことながら患者は怯えおののきます。我々のチームには心理学者もカウンセラーも衛生推進専門家もいるのですが、それにしても患者が多すぎて手が回りません。

 エボラウィルス病の標準治療は、支持療法に限られます。水分補給を行い、酸素濃度、血圧を維持し、良質の栄養を与え、合併症としての感染症に対して抗生物質を投与します。支持療法は患者が生き残る期間を長め、そうして得られた時間で患者の免疫系がウィルスに対して戦いを開始することが出来るかもしれないのです。

 最も重症な患者を収容するテントがあります。私は他のテントより長くそこに居ようと努めていました。ただ患者の手を取り、痛み止めをあげるだけだとしても、彼らのベッドの脇に座って、そう、あなたは一人じゃないのと知らせたかったのです。しかし、時間をそこで費やすことは難しいことでした。助けを求めている患者があまりにも多すぎたのです。

(中 略)

 エボラウィルス病の大流行はこの数か月抑えられていません。しかし、国際保健に関連する共同体は反応するのに長い時間がかかっています。先週、感染者に接触した250名の接触者追跡調査が明らかになりましたが、診断確実例は1500名以上に上るはずです。警報システム、suspected caseや死亡例が報告された時に、調査チームが派遣される(必要なら救急車で)といったシステムがきちんと機能していません。毎日のように確実にエボラウィルス病が原因の死亡者が各地で出ていますが、保健省は検査結果がはっきりしないからと数えていないのです。疫学調査システムが機能していません。私たちはエボラウィルス病の伝染の連鎖を中断するための知識が必要ですが、私たちにはそのカギになるデータが抜け落ちているのです。

 単一の組織では、この大流行を止めるのに必要なすべてを管理するための力はありません。その他の多くの組織がすべての面でこの大流行に対して攻撃を仕掛けるべきです。しかしながら、反応が本当に遅いのです。我々は現場で実地に働く人が必要です。我々はこの大流行の一歩先にいなければいけないのに、今は5歩も後ろにいるのです。

 先月4月11日のNHKスペシャル「新型コロナウィルス 瀬戸際の攻防~感染拡大阻止 最前線からの報告~」で、水際作戦の次の対策であるクラスター対策の実態が紹介されていた。

 その中で、担当者が「現場の保健師さんたちは、こう、細かく情報を取ってくれてはいるんですけれども、そもそもやっぱり夜の街、特にそういう夜のお店に行く方は社会的地位もあって、お金もあって、お店の方も特にある程度その高級ラウンジとかに関していうと、まあ大事なお客さんを守らなきゃいけないっていう意識がよけい強いですよね。なのでそもそも語ってくれないと・・・」といっているのを聞いて唖然とした。「社会的地位もあってお金持ちの人」こそ社会貢献すべきなのではないか。店の経営者にしても、守るべきは日本国民の命であるという意識をもって、守秘義務条件を付けてでも追跡調査をやるべきだったのだと思う。

 Sierra LeoneでAnja Wolz看護師が語った「毎日のように確実にエボラウィルス病が原因の死亡者が各地で出ていますが、保健省は検査結果がはっきりしないからと数えていないのです。疫学調査システムが機能していません。私たちはエボラウィルス病の伝染の連鎖を中断するための知識が必要ですが、私たちにはそのカギになるデータが抜け落ちているのです」という、そのままの姿が今の日本に重なって見える。

 日本の医療者たちの奮闘努力の結果、我々の社会は辛うじてその機能を保っている。しかし、彼ら彼女たちを後方支援する大きなパワーがなければ、彼らは疲弊し、その力も萎えてしまう。これ以上医療者に重荷を背負わせてはならない。

〈資料〉

1) “Perspective” Face to Face with Ebola — An Emergency Care Center in Sierra Leone Anja Wolz, R.N.August 27, 2014DOI: 10.1056/NEJMp1410179:
https://bit.ly/2KErJE5
2) Doctors Fear Bringing Coronavirus Home: ‘I Am Sort of a Pariah in My Family’:
https://nyti.ms/3ePQ9bI
3) 13 deaths in a day: An ‘apocalyptic’ coronavirus surge at a New York City hospital:
https://bit.ly/3aJOL7c
4) People Are Dying’: 72 Hours Inside a N.Y.C. Hospital Battling Coronavirus.(By Robin Stein and Caroline Kim, March 25, 2020)An emergency room doctor in Elmhurst, Queens, gives a rare look inside a hospital at the center of the coronavirus pandemic. “We don’t have the tools that we need.”:
https://nyti.ms/2Y7V5Tp
5) NHKスペシャル「新型コロナウイルス 瀬戸際の攻防~感染拡大阻止 最前線からの報告~」:
https://youtu.be/L5KwvLJGqsM

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