神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年 世田谷区医師会副会長就任
2000年 世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年 日本臨床内科医会理事就任
2004年 日本医師会代議員就任
2006年 NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年 昭和大学客員教授就任


1950年 長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年 日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、
運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年 米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年 特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年 神津内科クリニック開業。

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「熊本地震と災害医療派遣」

「熊本県の医療供給体制について情報提供頂けましたら幸いです!」
と知り合いの医師からメールが入った。4月19日の朝だから、地震が発生してから4日以上が経っていた。地震についての報道は毎日あったが、医療や介護に関する情報が少なかったのは確かだ。私のようにnetから情報を積極的に取れる医師は良いのだが、一般的なメディアにはそうした情報は少なかった。


 4月14日、私は日本臨床内科医会の総務担当常任理事として、埼玉県内科医会(畑会頭)が第一ホテル東京で行う第33回日本臨床内科医会総会の会議資料の吟味と、報告事項、決議事項のプレゼンの準備をしていた。何気なく見ていたテレビに、地震速報が映り、テレビ局の室内が大揺れに揺れるのが分かった。熊本市内の道路を俯瞰する映像には、何気なく移動する車が映っていたので、それほどの被害は出ないのではないかと思っていたが、実際には必死になってハンドルを握っていたのだと後から聞いた。夜の21時半頃だった。

 

 昨年の10月には、第29回日本臨床内科医学会が熊本市で開催され、学会の合間に、通潤橋の放水や水前寺成趣園を見て回った。懇親会の夜は熊本城のライトアップを見ながらそぞろ歩き、楽しい時間を過ごした。熊本内科医会の先生方にとても感謝していたので、正直この地震には驚いた。何よりも気掛かりなのはその先生方の安否と、地域医療に支障が出ないかということだった。

 4月16日の理事会には、熊本、大分の先生方は欠席となっていた。熊本空港は閉鎖となり、新幹線も運休、幹線道路は軒並み寸断されて身動きが取れない。おそらく現地での医療活動や医療機関自身の安全確保のために奮闘されていたことだろう、遠く離れている地域では計り知れない状況だった。日本臨床内科医会会長の猿田享男先生も、理事会の冒頭に熊本地震のことに触れて挨拶をされた。理事会を取り仕切る司会を務める私からも、以下のような説明を述べさせていただいた。


この度、一昨日4月14日21時26分ごろに熊本に地震がありました。これに引き続き本震と見られるマグニチュード7.3の強い地震が本日16日1時25分ごろにあり、甚大な被害が生じております。昨年熊本医学会で眺めた熊本城も一部倒壊し、負傷者・死亡者の数も時間を追って増加しているようです。当会会員への被害についてはまだご報告出来る情報が集まっておりませんが、先生方の健康被害、地域での医療活動に支障はないかと心配をしているところであります。今後情報が集まり次第先生方にはご報告させていただきたいと考えております。また、東日本大震災の時に被災された会員へ行いました、義援金の提供等支援を検討しているところです。今後余震が続き、明日からの雨で地滑りなども懸念されているところですので、九州の先生方におかれましては大過なきよう望んでおります。

総務担当常任理事  神津 仁


■DMAT、JMAT、DPATとその他の災害医療派遣チーム

 今回の地震については、医療系メディアの活躍が目立つ。詳細なレポートが日経メディカルの増谷記者やm3の橋本記者によって書かれた。しかし、両者とも全文を読むには事前の登録が必要であり、それが出来ないと、最初のメールを頂いた先生のように情報過疎ということになる。やはり、ITリテラシーは医師にとっても重要なのだと思う。

 詳細については読者ご自身が登録してお読みいただきたいが、一部ニュアンスが伝わる記事内容を載せておきたい。


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 4月14日から熊本県を中心に相次いでいる地震を受け、被災地では随所で災害医療活動が展開されている。災害時派遣医療チーム(DMAT)は、17日22時時点で157隊が活動中。さらに80隊が移動中で、294隊が待機中となっている。

 厚生労働省の報告によれば、4月17日21時時点で厚労省が直接確認した医療施設62施設中、建物損壊のリスクがある医療機関4カ所、ライフライン(電気、ガス、水道)の供給に問題がある医療機関19カ所、連絡が取れない医療機関4カ所、問題がない医療機関38カ所だった。ただし、熊本県内において、患者受け入れ困難に陥っていた基幹病院の診療機能も、DMATの支援などにより、徐々に改善傾向にあるという。


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 災害時の医療については、日常診療ではなじみのない用語がいくつも出てくる。よい機会なので整理してみたい。


 DMATはDisaster Medical Assistance Teamの略で災害時派遣医療チームのことだ。大規模災害及び航空機・列車事故などの発生時に、被災地に迅速に駆けつけ、救急治療を行うための専門的な医療チームの事。 専門的な訓練を受けた医師、看護師、業務調整員(救急救命士・薬剤師・臨床工学技士・臨床検査技師・理学療法士・作業療法士・放射線技師・社会福祉士・コメディカル・事務員等)で構成される。


 日本DMATは2005年(平成17年)4月に、厚生労働省によって発足された。 主に大規模災害時に全国から派遣され、広域医療搬送・SCU(臨時医療拠点、Staging Care Unit)・病院支援・域内搬送・現場活動などを行う。


 都道府県DMATは2004年(平成16年)に、東京DMATが発足、2006年(平成18年)には大阪DMATが発足し、その他の道府県でも配備が進んでいる。 主に域内災害時において現場医療活動を行う。発足の2005年には300人程度だったが、2011年には6,000人、2014年には9,000人となった。


 厚生労働省の日本DMAT活動要領によれば、その初動要件は以下の如くである。


[初動]

1.DMATの派遣要請
・ 被災地域の都道府県は、当該都道府県外からの医療の支援が必要な規模の災害に対応するため、DMATの派遣を他の都道府県、厚生労働省、国立病院機構等に要請する。
・ 被災地域の都道府県は、以下の基準に基づき、管下の統括DMAT登録者等の意見を聴いて、必要に応じて速やかにDMATの派遣要請を行う。
① 震度6弱の地震又は死者数が2人以上50人未満若しくは傷病者数が20名以上見込まれる災害の場合:管内のDMAT指定医療機関に対してDMATの派遣を要請
② 震度6強の地震又は死者数が50人以上100人未満見込まれる災害の場合:管内のDMAT指定医療機関並びに被災地域の都道府県に隣接する都道府県及び被災地域の都道府県が属する地方ブロックに属する都道府県に対してDMATの派遣を要請
③ 震度7の地震又は死者数が 100 人以上見込まれる災害の場合:管内のDMAT指定医療機関並びに被災地域の都道府県に隣接する都道府県、被災地域の都道府県が属する地方ブロックに属する都道府県及び被災地域の都道府県が属する地方ブロックに隣接する地方ブロックに属する都道府県に対してDMATの派遣を要請
④ 東海地震、東南海・南海地震又は首都直下型地震の場合:管内のDMAT指定医療機関及び全国の都道府県に対してDMATの派遣を要請
・ 厚生労働省は、被災地域の都道府県の派遣要請に応じ、都道府県、文部科学省、国立病院機構等に対してDMATの派遣を要請する。
・ 被災地域外の都道府県は、被災地域の都道府県の派遣要請に応じ、厚生労働省と連携し管内のDMAT指定医療機関及び日本赤十字社支部に対してDMATの派遣を要請する。
・ 厚生労働省は、当分の間、被災地域の都道府県の派遣要請が無い場合においても、緊急の必要があると認めるときは、被災地域以外の都道府県に対して被災地域へのDMATの派遣を要請できる。


 今回は、初動①または②に該当し、熊本県内でDMATが起動されたものと思われる。


 発災から約72時間が経過すると、急性期の患者数も落ち着いてくるため、この頃になるとDMATは被災地からの撤退時期の検討を始める。しかし災害の種類や規模によっては、被災地の医療体制が回復しない場合もある。このような場合には、日本医師会が統括するJMATが、撤退するDMATと交替するようにして被災地に派遣され、地域の医療体制が回復するまでの間、医療支援を続けることになる。

 JMATとはJapan Medical Association Teamの略で日本医師会災害医療チームのこと。2010年3月、日本医師会長の諮問機関である救急災害医療対策委員会は、救急災害医療における連携のあり方と、医師会の災害時医療救護対策に関する諮問への審議結果を発表した。
 この報告書においては、日本医師会が最大の医師の職能団体であり、また全ての地域医師会を束ねる立場にあるにもかかわらず、災害発生直後において、被災現場等での災害医療活動を実行する能力に欠けることが指摘されるとともに、日本医師会として災害への対応を遂行するための方策として、医師会JMATが提言された。しかしその検討途上の2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震およびこれに伴う津波等による東日本大震災が発生した。


 このことから、日本医師会はこれまでの検討結果をもとにしたJMATの結成の検討に入り、3月15日、同会災害対策本部はJMATの派遣を決定し、43の都道府県医師会(被災した岩手・宮城・福島・茨城の4県を除く)に対して派遣の要請を発出した。また3月17日には、厚生労働省医政局長より日本医師会長に対し、被災地への医師等医療従事者の派遣が正式に要請された。前述のように、JMATは、このDMATを引き継いで、避難所・救護所における医療を担当することを主たる役割とした。また、被災地域の病院、診療所の診療への支援も、重要な役割の一つであった。またこのほか、(1)避難所の状況把握と改善、(2)在宅患者・避難者の医療・健康管理、(3)地元医師会を中心とした連絡会の立ち上げなどの役割が想定されている。
日本医師会災害対策本部の4月18日19時30分発の日本医師会ニュース「平成28年度熊本地震」情報提供第三報によれば、17日時点ですでに11チーム33名が初動任務を終え、派遣終了となっている。その後次のJMATに引き継がれて活動していることを考えると、現時点では戦略的成功を収めているといえるだろう。

 DPATはDisaster Psychiatric Assistance Teamの略で災害派遣精神医療チームのこと。大規模災害などで被災した精神科病院の患者への対応や、被災者のPTSDを初めとする精神疾患発症の予防などを支援する専門チームである。自然災害の他に航空機・列車事故、犯罪事件なども想定している。東日本大震災に際して、自治体や医療機関から精神科医を中心とする「こころのケアチーム」が派遣され、被災地住民のメンタルヘルスのための「こころのケア」活動を行った。しかし、事前に組織化された活動ではなかったため、現場での活動に課題を残した。そこで国(厚生労働省)は、全国的に統一したDPATの名称や定義を定めた。
 チーム構成は、精神科医、看護師、業務調整員を基本とするが、必要に応じて児童精神科医、薬剤師、保健師、精神保健福祉士、臨床心理技術者などを加えることができる。活動期間は、1チーム1週間(移動日2日・活動日5日)を標準とし、必要があれば一つの都道府県等が数週間~数か月継続して派遣する。
 活動原則として、(1)Support:名わき役であれ。被災地域の支援者が主体であり、その応援を行うのであり、主役はあくまでも被災地の支援者である。(2)Share:自己完結型の活動。DPAT活動本部、他の医療チームとの情報共有と連携を行う(3)Self-sufficiency: 自給自足の活動。被災地域に負担をかけない自立した活動と自己管理を行う

 その他に、全日本病院協会災害時医療支援活動班(AMAT)、徳洲会医療救援隊(TMAT)などがあって、独自の活動を行っている。米国にも同様のUS-DMATが2012年の9.11以後に出来ており、the National Disaster Medical System(国家災害医療システム) の一部門となっている。その指揮は the Department of Health and Human Services (保健福祉部)が執ることになっている。Fuse Aらによれば、日本のDMAT(J-DMAT)は、米国のDMAT(US-DMAT)と比較すると、国土が1/25であることから、陸上での展開が容易で、チーム編成が小さく(1隊は医師1人、看護師2人、業務調整員1人からなる)、機敏に動けるのだと説明されている。今回の熊本地震についても、その能力を思う存分発揮して被災した人々を救ってくれるものと信じている。


<参考資料>
1) 熊本地震発生(震度7)の瞬間の熊本のKKT熊本県民テレビ報道局!(You tube):https://www.youtube.com/watch?v=X4tJduBGI8k
2) 熊本観光のおすすめスポット40ヵ所(Find travel):http://find-travel.jp/article/4691
3) 水前寺成趣園:http://www.suizenji.or.jp/
4) 災害派遣医療チーム:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%81%BD%E5%AE%B3%E6%B4%BE%E9%81%A3%E5%8C%BB%E7%99%82%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%A0
5) 日本医師会災害医療チーム:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E4%BC%9A%E7%81%BD%E5%AE%B3%E5%8C%BB%E7%99%82%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%A0
6) 災害派遣精神医療チーム:http://www.sanno.ac.jp/univ/library/publication/rakc1q0000001u6p-att/48_04.pdf
7) Fuse A, Yokota: H. An analysis of Japan Disaster Medical Assistance Team (J-DMAT) deployments in comparison with those of J-DMAT's counterpart in the United States (US-DMAT). J Nippon Med Sch. 2010 Dec; 77(6):318-24.

2016.5.1 掲載 (C)LinkStaff

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