神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年 世田谷区医師会副会長就任
2000年 世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年 日本臨床内科医会理事就任
2004年 日本医師会代議員就任
2006年 NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年 昭和大学客員教授就任


1950年 長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年 日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、
運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年 米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年 特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年 神津内科クリニック開業。

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「Neurogenesis神経再生」

 最近TED(Technology Entertainment Design)の講演で興味ある発表があった。 神経再生( Neurogenesis )というのがそれだ。我々が医学生だった40~50年前には、脳神経細胞は再生しないというのが一般的な考えだった。それが今覆されようとしている。

 末梢神経に関しては、傷害された神経軸索が活発に再生する事が分かっていて、むしろその再生が旺盛なために、再生後の神経支配を誤ってしまう事がある。 顔面神経麻痺の後に生じる病的共同運動(眼輪筋を収縮させる際に、口輪筋も動いてしまう)などは、もともと支配していた表情筋と違う表情筋に顔面神経が迷入してしまうために生ずるもので、患者にとっては招かれざる結果(後遺症)として悩む事になる。 しかし、神経細胞そのものが傷害され消滅してしまえば、その細胞が再生する事はない。

 一方、胎児や新生児には神経細胞やグリア細胞をどこにどの程度の量で構築するかをコントロールしていると考えられる神経幹細胞があり、これによって神経再生が起こる。

 Sandrine Thuret (King's College London)氏が、TEDで講演していたのは、「You can grow new brain cells. Here's how」という題で、成人でも記憶を司る海馬において神経再生が起こるという話だった。調べてみると、東京大学でも同様の研究がなされており、薬学部分子生物学教室のHPには、以下の記載がある。

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 神経幹細胞は、発生期だけでなく成体の脳にも存在し、一生の間ニューロンを作り続けていることが明らかになってきた。 この成体における新生ニューロンは、ある種の学習や記憶、また本能的・生得的な行動において必須の役割を果たしていることが示されて来ている。 そして新生ニューロンの数の減少は、学習能力の低下や鬱などの精神疾患との相関が示されている。更に脳の損傷時には神経幹細胞が活性化して、 損傷修復に寄与する可能性も示唆されている。そこで我々は、成体における神経幹細胞がどのように制御されて長期間維持され、 必要に応じて正しい数と種類の新しいニューロンを作っているのか、を明らかにすることを目指している。これらを通じて、 正しい脳の働きの理解につなげたいと考えている。以上の神経幹細胞に関する研究は、我々の脳に対する理解につながるだけでなく、 神経幹細胞を用いた再生医療や精神疾患治療への重要な基盤となるであろう。

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最近の研究では、脳梗塞後に同側の前脳室下帯から病巣へ向かって遊走する増殖細胞が確認されている。この細胞は脳梗塞巣周辺部へ遊走後、成熟神経細胞になるのだが、残念ながら2週間をピークとして殆どは死滅し、6週間後には0.2%程度しか生存しないようだ。しかし、脳梗塞で壊された病変は再生しないという従来の考え方を覆すもので、この現象を最大限に増幅する事が出来れば、脳梗塞による後遺傷害を最小限にすることが出来るかもしれない。

 Wikipediaによれば、「神経発生とうつ病との関係を示唆する研究結果は多く発表されており、原因や治療法を求めて様々な研究が行われている。うつ病は遺伝的な原因を除けば、ストレスが最も大きな要因になると考えられ、またストレスは海馬内の神経発生を減少させる要因ともなる。ラットを使った実験では、副腎を取り除くことで神経発生の量が増加することが示されている。副腎はホルモンを生成する臓器であるが、ストレスに反応するとコルチゾールを分泌することでセロトニン受容体の活性を抑え神経発生も減少する。またストレスに反応する別のホルモンであるコルチコステロンを与えることでも神経発生は減少する。最も一般的な抗うつ薬は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であることからも、神経発生との関係を示唆している。さらに神経細胞が成熟するまでには3~6週間かかるが、これは抗うつ薬によってうつ症状が改善するまでの期間と一致する」とある。

 脳の中では、こうした神経細胞の傷害とそれを補填するための神経再生が絶えず起こっているようだ。以前我々が教わった「脳の神経細胞は一生生まれたままの数で、あとは失われるだけ。一旦傷害された神経細胞は再生しない」という科学的知見は、見事に新しい研究によって塗り替えられてしまった。

 こうした事実をふまえ、Sandrine Thuret氏はさらに「神経再生」を促すLife style(記憶やうつと関連して、何を摂取し、何をしない方がよいか)について指摘した。

 この図には、神経再生を促進するものと阻害するものとが書かれている。白くハイライトされているものは「促進する」ものであり、それ以外は「阻害する」ものである。文字の大きさがその影響の強さを示す。大きい文字は影響が大きく、小さい文字は影響が少ないが、それぞれが生活の中で注意すべきものである。

 最も強く神経再生を阻害するものは、飽和脂肪の摂り過ぎ、柔らかい食べ物、アルコール摂取であり、ビタミン欠乏特にAとBの不足、砂糖の摂り過ぎが良くないと指摘している。その反対に、神経再生を促進するものとして、カロリー制限、時々の絶食、フラボノイドやレスベラトロール、ブルーベリーなどの摂取が推奨され、オメガ3脂肪酸、クルクミン(ウコン)、葉酸、亜鉛、カフェインなども良いとした。

 フラボノイドはポリフェノールの1種で、多くの植物に含まれている。抗酸化作用があり赤ワインに多く含まれているとして、地中海食ダイエットでは赤ワイン1、2杯を推奨している。フレンチパラドックスの説明にも赤ワインは良く出てくるが、アルコール摂取の害と比較すると、素晴らしく良い飲み物だとは言いがたい。何事もほどほどが肝要なのだ。レスベラトロールもブドウに多く含まれ、アーモンドやココアにも含まれている。
 亜麻仁(あまに)と呼ばれる植物の種子から採れる亜麻仁油(アマニオイル)にはオメガ3脂肪酸が多く含まれており、紫蘇から採られるエゴマ油、くるみなどにも多く含まれている。クルクミンはカレーのスパイスであるウコン(ターメリック)の黄色い色素のこと。クルクミンを食品として摂取するのは問題ないが、サプリメントとして大量に摂取すると肝障害が生じるので注意が必要。

 自然界生物界には微妙なバランスがあり、何をするにもいいかげん(良い加減)さが大切だ。世界の平和も、微妙なバランスの上に成立っている。


(資料)
1) Sandrine Thuret (King's College London): You can grow new brain cells. Here's how:https://www.ted.com/talks/sandrine_thuret_you_can_grow_new_brain_cells_here_s_how#t-545031
2) Biomaterials for nerve regeneration:http://chen2820.pbworks.com/w/page/11951452/Biomaterials%20for%20nerve%20regeneration
3) 東京大学薬学系研究科・薬学部分子生物学教室: http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~molbio/japanese/project.html
4) 川原信隆「内在性神経幹細胞用いた脳虚血損傷後の再生医療」:http://www.cbfm.jp/journal2/contents/assets/018020098.pdf
  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15335441
5) 金子奈穂子「成体脳におけるニューロン―グリア相互作用と新生ニューロンの移動制御機構」:http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/igak.dir/nmj-pdf/51-4/P203-209kaneko.pdf
6) 神経再生:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%99%BA%E7%94%9F
7) フラボノイド:http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/flavonoid/
8) 元気な美的ライフ:http://monclerindre.com/polyphemol-416.html

2015.11.01 掲載 (C)LinkStaff

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