ドクタープロフィール
神津 仁 院長
 
1999年 世田谷区医師会副会長就任
2000年 世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年 日本臨床内科医会理事就任
2004年 日本医師会代議員就任
2006年 NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年 昭和大学客員教授就任


1950年 長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年 日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
      第一内科入局後、1980年神経学教室へ。医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年 米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年 特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年 神津内科クリニック開業。
2009年2月号
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ジタク・ハワイ


「先生、いつも元気ですね。顔色いいのはハワイですか?」と、患者さんに正月明けに声をかけられた。
 お年寄りの先生方は、借金も返して悠々自適だ。日常診療も、後継者に譲るか、後継者がいない場合でも「もうそろそろ店仕舞いをするので患者さんをたくさん診ないでもいい」と割り切って、ハワイでも北欧でも長い休みをとって行ってしまうようだ。しかし、我々のような中堅医師にはそんな暇もお金もない。
 患者さんは意外と海外旅行をしている。年金をもらう年になって、余生を楽しんでいる方が多いのだが、中にはそこまで年をとらなくても毎年ハワイへ行くという方も少なくない。羨ましい限りだ。在宅医療をしていると特にだが、長い休みを旅行の為に取るということは不可能だ。精々が韓国止まり。
 我々夫婦がハワイに行ったのは、新婚旅行と2006年に結婚30周年で行ったきりだ。夢のハワイである。しかし、30年経つとハワイも随分と変わるものだ。上の写真は新婚旅行の時に行ったレストランの「Top of Waikiki」のメニューカバーから取ったWaikikiの風景だ。下が30年後に行った同じレストランのメニューカバーの写真だが、ホテルやマンション、ビジネスビルなどが林立していて昔の面影はない。

 

 

 今回ハワイに行った時に、「30年前に新婚旅行で来た日本人だが、昔はこのレストランくらいしか高い建物はなかったと記憶している。当時のメニューに写真が載っていたと思うのだが、ありますか?」と尋ねると、こちらへ来い、とオーナーとおぼしき老紳士が入り口のテーブルに案内してくれて、リウマチで節ばった手で、昔のメニューを出してくれた。
「もうこれしかないけれど、良かったら持って行ってもいいよ」と手渡してくれたのがこれ(左のもの、右は新しいメニュー)である。思い出とともにしっかりと取っておきたい品になった。

 

 

 さてご存知のように、東京地方の今年の正月は、毎日晴天が続いて快適な毎日だった。1月3日の日に明治神宮にお参りに行った以外は特に出かけることもなく、一日中家で過ごしていた。書きかけの原稿や学会誌に載せる論文の整理、読み残した情報誌の資料を読んだり、日々の診療や日常業務に忙殺されて出来なかった余裕を取り戻す良い機会となった。
 さて、「先生、いつも元気ですね。顔色いいのはハワイですか?」というこの患者さんの問いかけに、「お正月は随分天気が良かったですからね」と笑って答えたのだが、色の黒さには私の日曜日の日課に大いに関係がある、とはなかなかいえない。というのも、日曜日の天気が良い日には、私は一日ベランダで日光浴をして過ごすことにして、それを私の家族は「ジタク・ハワイ」と呼んでいるからだ。
 お察しのように、自宅でハワイと同じ格好で一日過ごすから、自宅ハワイ、というわけだ。夏はとても暑くて炎天下に日光浴というわけには行かない。自宅ハワイは春から夏、秋から冬にかけてが旬だ。冬の日差しは低い角度で部屋の中まで入ってくる。寒風は南向きの窓からは吹き込むことはなく、パンツ一枚で一日過ごすことが出来るのだ。好きなコーヒーを入れ、音楽を聴く。最近はTOKU(フリューゲルホーン奏者、ハスキーボイスでジャジーなオリジナル曲を歌い、演奏する)やJack Johnsonを聴くことが多い。

 

 

 10時からはInter FM (76.1Mhz)の「Lazy Sunday」という番組を聴いている。このDJのGeorge Cockleがとても良い選曲をしてくれる。作詞家であるらしく、歌詞の内容についてすてきな解説をしてくれる。曲のバックグラウンドが分かると、聴いている脳が深みを持って受け止めるようで、さらに心地良さが増すようだ。開放された心地良さを感じながら、うとうとと日差しの中でまどろむ。この時、脳はリフレッシュして、PCでいえばメモリーが回復して、働ける脳の機能容量が増加するように思う。そして、ある時ピンと良いアイデアが浮かぶ。無意識でいながら、アイデアの周囲をいろいろと角度を変えて触っているような脳の活動があるのだ、といえば理解されるだろうか?
 小説家の五木寛之氏が、あるTV番組で密着取材を受けていた。五木氏は、自宅から新聞社に行くなり、連載の原稿をすらすらと書き出した。それに驚いた記者が「どうして何も下書きがないのにそんなにすらすらと原稿が書けるのですか?」と尋ねた。五木氏は質問に答えて「私は、外から見ると、音楽を聴いたり、家でボーっとしているように見えるのですが、その時に、実は頭の中で文章を構築しているんです。ですから、原稿用紙に書くという動作は、頭の中にあるものを字にするだけなので、どうということはないんです」と話していた。
 私にも似たようなことがいえる。この連載もそうだが、多くの仕事を同時にこなしているので、「よくいろんなことができますね。寝る暇もないでしょう?」といわれるが、実は人より睡眠時間は多いし、日曜日もゆっくりと過ごしている。私は、医師が疲れているような顔でいては患者さんに元気を与えることは出来ないと考えている。ゴルフで疲れて翌日診療をするのでは事故も起こるだろう。好きでもない会議や宴会が多くてはストレスもたまる。自分の好きなことをやって、しかも、医療のプロフェッショナルとして自分の能力の、出来る限りを表現することが出来れば、それ以上何を神様は望むというのだろうか?同業者とつまらない会話をするよりも、オバマ大統領の演説を聴いたほうがよっぽど社会の役に立つ、と誰かがいっていた。日本の医療を良くするためには、地域医師会の仲良しクラブの飲み会などには出なくても一向に構わない。ジタク・ハワイで、患者さんの為にエネルギーを充電して、明日の診療に備える事の方が大事だ、と思う今日この頃である。

 

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