ドクタープロフィール
ドクター神津
神津院長は昭和52年に日本大学医学部を卒業後、同大学第一内科に入局され、その後、神経学教室が新設されると同時に同教室へ移られました。医局長、病棟医長、教育医長を長年勤められ、昭和63年、アメリカのハーネマン大学およびルイジアナ州立大学へ留学。帰国後、特定医療法人佐々木病院(内科部長)を経て、平成5年に神津内科クリニックを開業された。神津院長の活動は多岐にわたり、その動向は常に注目されている。
2007年7月号 「エドとリズ」
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 「エドとリズ」

 世田谷区の奥沢に「奥沢病院」という小さな病院がある。小さくても志は高く、地域の大切な医療センターになっている。昭和大学医学部出身の若い医師たち(30歳台後半から40歳台前半)が、自分達の理想を実現しようと頑張っている病院だ。この病院は、元々は個人病院であったのが、いろいろなトラブルから経営権を維持出来なくなり、中央病院グループに買い取られたという経緯がある。古くからの住民はそこらへんの胡散臭さを知っていて、初めのうちは警戒していたが、今はその懸念も払拭された。病院の建物は旧態依然としているが、気持ちは若くてエネルギーに溢れている。そのうち、建物自体も建て直されるに違いないが、その時には、さらに良い病院になるだろうと思う。

 そこの院長である松村光芳医師は、実は歌手でフォークグループの「ハックルベリーフィン」のメンバーである。というと、やわな青年を想像すると思うが、どっこいそんなことはなくて、鋭い眼光を放つ、サムライ医師といった風貌である。心根はどこまでも優しく、それは小児外科を自分の専門として選択したという姿勢にも現れている。

 その松村医師がここ数年に渡って行っているのが、外国人医学生の研修受け入れだ。彼は大学卒業後にニュージーランドで小児外科の研修を受けたのだが、そのホスピタリティー溢れるニュージーランダー達の親切さに感動し、自分が日本に帰ったら、外国人の医学生を受け入れてあげたいと思ったという。その思いが募って、数年前にカリキュラムを作って正式な受け入れ先として登録をした。インターネットでも英語で相談を受け、もうすでに、イギリス、カナダ、香港、などの医学生を六組ほど受け入れた。ベースは奥沢病院と昭和大学医学部で、それに私のところのような新しいタイプのクリニックが何軒か協力している。

Mr. Mark Ashton (Manchester University)

 この写真は、イギリスのマンチェスター大学から来た、当時5年生だったマーク・アシュトン君(イギリスでは5年生が最高学年で、翌年試験を受けて医師の資格を得る)が、右片麻痺と失語症を患った患者さん宅で訪問診療実習をした時のものだ。患者さんの家族とのコミュニケーションもうまく取ろうと努力していた。
 彼が残したレポートを読むと、日本の地域医療システムがイギリスよりずっと進んでいるという新しい発見がある。

 「I found the clinics to be better equipped than English general practitioner’s surgeries that I have seen. In particular, both Japanese clinics had X-ray equipment installed, so patients who required an X-ray received one and the result was available within five minutes. This is an improvement on the English system where a general practitioner hands a patient a card to take to the radiology department of a hospital, the patient has their x-ray and the result is available to the doctor in perhaps a week.」
 「On the subject of equipment I noticed that both clinics were equipped to serve the speciality of the doctor. For example, the first doctor I visited was a neurologist. His treatment room was equipped with an electroencephalography and traction table as well as the more conventional equipment. So although these doctors are generalist in as much as they will see any patient who walks into their clinic, they also continue to function as specialist.」(日本で経験したクリニックは、私が今までイギリスで見たGPのクリニックよりずっと設備が良い。特に、神津内科クリニックも島津メディカルクリニックもレントゲン装置が装備されていて、患者が診断結果を聞くまで5分とかからないですむ。イギリスでは、患者に照射録を渡して放射線科のある病院に行かせ、持って来させるのだが、結果は一週間後、というのが当たり前になっている。日本のシステムの方が、イギリスより進歩している)」「医療機器に関していえば、二つのクリニックとも医師の専門性に合わせて装備していることに注目したい。私が訪問した医師は神経内科医であるが、治療室には脳波計があり、牽引装置もあって、患者に便利なように設えてある。かれらは一般総合医としてクリニックに来た患者を診察するが、必要があれば同時に専門医としてその患者を続けて診療することになる」)

Mr. Peter Pavlovich (University of British Columbia Medical School, Vancouver, Canada)

 この写真は、カナダのブリティッシュコロンビア大学から来たピーター・パブロビッチ君のもの。彼はカレッジで物理学を専攻して修士を取り、その後医学部に入った。社交ダンス部に入っていたという、なかなかハンサムな学生だ。彼もまた、日本の開業医システムの素晴らしさに感銘を受けたというレポートを残している。
 
 「The Kozu Medical Clinic, owned and operated by Dr. Hitoshi Kozu, features an organizational system similar in nature to that of Yoga Urban Clinic, and design that once again focuses both on patient comfort and medical functionality. Despite overseeing a very active general practice, Dr. Kozu also sets aside time to visit a number of homecare patients who are under his medical supervision, and I was fortunate enough to accompany him on several home visits during my time at the clinic. Given Dr. Kozu’s primary training as a neurologist, a good number of patients seen during clinic hours presenting with neurological symptoms of varying complexity and severity; as such, my participation in these sessions served as a wonderful primer in the art of diagnosing neurological abnormalities. In fact, Dr. Kozu and I would often set aside time after a particular interesting case to discuss the methodology behind his diagnosis and treatment of the patient.」 ( 「神津内科クリニックは用賀アーバンクリニックと同じく、患者に対してやさしく、同時に優れた医療サービスを提供するために機能的なシステム作りを追及している。非常にアクティブに一般外来診療をしながら、神津先生は多くの在宅患者の訪問診療も行っていて、幸いに私も彼に付いて何人かの患者を訪問する機会を得た。神経内科医としての神津先生は、外来時間内に神経症状の出方も重症度も異なるかなり多くの患者を一緒に見せてくれた。この場で、神経学的異常を診断するのに必要な芸術的なコツを教えてもらえたことは、学生の自分にとって素晴らしい臨床体験となった。実際、神津先生と私は、特に興味深い患者を見た後にはしばしば時間をとって、先生の診断や治療を決定した背後にある理論的な裏づけに付いて話し合った」)

 日本の開業医は、専門性と一般性をバランスよくその機能として持っているといえる。私の場合も専門医(神経内科医)としての働きと、コミュニティーのfront lineで多くの一次診療を受け持つ両方の機能を兼ね備えている。こうした総合的な機能は、イギリスのGPには無いものなのだと。多少のリップサービスがあることを割り引いても、日本の地域医療の現状というものが、決して悪くないということを我々は知っていなければならない。この状況を悪くすることは、決して日本の国民にとって良いことではないのだ。

 そして、6月19日に今度はイギリスのシェフィールド大学から、エドワード・ブライアンとエリザベス・ブライアンの医学生夫婦(やはり5年生)がやって来た。エドワード25歳。お父さんは車のエンジニアで板金塗装などもやるらしい。お母さんはナース。26歳のエリザベスのお父さんは香水を売り歩くセールスマンで、彼女の弟が自閉症だったことからお母さんはそのケアに大変だったとか。二人はいかにも若夫婦、という様子だが、真面目に我々の説明を聞き、日本語を交えながら笑顔で応えてくれる様子は大変好感が持てた。松村先生からの情報では、日本食は何でも食べられる、との事だったので、三軒茶屋の「赤鬼」という居酒屋を予約して食べに行った。ここは100種類以上の日本酒が常時用意されている、呑み助には有名な店だ。店の日本酒ソムリエが「取っておき」といって出してくれた十四代山形の濁り酒を、日本酒のシャンパンだ、と美味しそうに飲んでくれた。最後は「達磨正宗」の23年ものの古酒。ブランディのような色と香りに、日本酒の奥深さを知ったことだろう。

 今、日本大学から山田先生という可愛らしい女医さんが研修医として1ヶ月のトレーニングに入っている。来月も女医さんが来る。加えて、東邦大学から4年生が実習に3日間来ることになっている。神津内科クリニックは、地域医療の実習病院(clinic)として、その機能を存分に発揮している。

EdとLizとDr. Kozuとスタッフと。