ドクタープロフィール
ドクター神津
神津院長は昭和52年に日本大学医学部を卒業後、同大学第一内科に入局され、その後、神経学教室が新設されると同時に同教室へ移られました。医局長、病棟医長、教育医長を長年勤められ、昭和63年、アメリカのハーネマン大学およびルイジアナ州立大学へ留学。帰国後、特定医療法人佐々木病院(内科部長)を経て、平成5年に神津内科クリニックを開業された。神津院長の活動は多岐にわたり、その動向は常に注目されている。
2005年9月号  -プライマリ・ケア臨床研修奮戦記 そのIII-
backnumberへ
 研修医を指導していて気付くことは、医師になって30年余りのうちに、自分の中に培われた医師の技量の確かさについてである。血圧一つ測る行為にしても、実は奥深いいろいろなノウハウがあるのだと、研修医は気付かせてくれる。とにかく、マンシェットを正しく巻く、という行為、患者にその値を知らせる、 という行為。患者に安心を与える言葉と態度。これらが、skillというものにならず に、バラバラで不安定なもので、まだ未完成である、ということが如実に分かるのだ。アイススケートで、規定演技をスムーズにこなすためには、筋力、瞬発力、判断力、持久力など、今までの練習の結果が必要になる。今まで約2万人の患者を診てきて、何万回と血圧測定をしてきた修練が、初心者とはこれだけ差がついてしまっているのか、と愕然とする思いである。しかしまた、一ヶ月研修医を教えた後に覚える感慨は、きちんと教えれば、短期間の間に我々のノウハウを素直に、しかも正確にキャッチアップする潜在能力が、研修医にはあるのだ、というものだった。
  研修最後の木曜日には、医局で発表会を開くスケジュールにした。power pointを用いて、主治医になってもらった在宅患者さんを通じて、何を学んだか、症例報告をしてもらったのだが、その中に私の期待した苗が着実に植えられたことを示す証拠があった。以下は、N先生とO先生の発表の総括である。彼らに許可をもらってここに載せることとする。
「脳梗塞後遺症による在宅管理の1例」

~神津内科クリニックの研修を終えて~
・在宅医療に関しての知識が増えた。
・頚椎や腰椎の牽引療法や吸入ネブライザー治療、温熱療法、外来検査では肺機能検査、ABI脈波計測、HbA1c、溶連菌の迅速診断キットによる検査、胸部レントゲン撮影等を実際にやって体験し、覚えることができた。
・漢方薬に対しての意識が変わった。
・ダイモンやカルボカイン等注射の使い方を覚えた。
・外来での診察テクニックや外来診療の難しさを自分が外来を実際にやらせて頂き、わかった。今後も自分の足りない所を少しずつ埋めていきたい。
・神津先生から教わった「き・め・こ・ま・か(気配り、目配り、心配り、真心を持って、考える)医療」という言葉を忘れずにやっていきたい。
・この地域の医療連携の良さと、診療を見せていただいた開業医の先生方や地域病院の先生方の医療に対するパッションに感銘を受けた。
・保険に対しての知識が増えた。
・医療はチームで行うものだと再認識した。

「脳梗塞患者の在宅医療」

~振り返って~
 私が今回見させていただいた症例のお家では、ご家族が同居しており、娘さんが一日中家にいて介護をしている状態でした。ヘルパーの入っている時間が多いものの、娘さんなしではやっていけない状態でした。これでは家族の誰か一人が自分の生活を介護に捧げなければやっていけないではないか、それでは一人暮らしの老人はどうするのか・・・という印象を受けました。
 今日の日本では、核家族化が進み、自宅に日中いる人が少なくなったためにこのような問題がどんどん大きくなってきているのだと思えます。昔は、誰かしら家族が家に残っており、老人を看る時間もあっただろうし、老人もまたそういうものだと思っていたと思います。高齢者を自宅で誰かが看るというのは“介護”という特別な言葉を使わなくても、日常行われてきたことだと思います。
 しかし現在の日本では、これが自然にはいかなくなってきています。一つ屋根の下に住む家族の人数が減少し、一人か二人の介護者が、たいてい自分の仕事をやめるか生活内容を大幅に変更して介護にあたることになります。時には家族が介護できない場合も。このために介護保険制度はできてきました。その中心が家族であるというのは、自然なことであり、そうであってほしいと思います。家族でなければできない介護というものがある、そう思いました。
 しかし、介護者の負担は大きいもの。要は、どこまでやるのかというのが問題になります。介護は完璧を目指そうと思えば、どこまでもやる事は山積みです。際限がないといっていい。介護者は被介護者を思うあまり、心身ともに疲弊してしまうケースが少なくないといいます。実際に私も在宅で患者さんを診て、これこれの病気でこれこれの状態なのだから、状態把握をするためには、この検査をやったほうがいい、この治療もやらなければならない、いややっても意味ないかも・・・など色々考えて悩んでしまいました。これは家族も同じ、いやそれ以上に悩むはずです。
 それを“これでいいんだよ”と医師が言うだけで、家族の心はぐっと軽くなると思うのです。何気ないことですが、これが在宅医療における医師の役割のなかでも最も重要なことのひとつではないか。そしてその状態が適切であるか否かの判断は、ただ単に医学知識があればよいというものではなく、長年の経験こそが必要とされると思いました。
 この研修を通して、他では学べなかった様々なことを学ぶことが出来ました。
神津先生、神津内科クリニックの方々に深く感謝いたします。本当に有難うございました。

 このように、大学病院の研修では得られないものを得たという思いは、今後の彼らの医師としての人生に大変良い影響を与えるだろう。それは間違いない。しかし、この地域医療研修というのは、日本の卒後臨床研修教育の長い歴史の中でも初めてのことだ。五年、十年という長いスパンでこの成果を見極めていかなくてはならないだろう。我々のような、欧米でいうところの臨床教授(残念ながら大学からはそんな称号は頂いていないが・・・)が、医学教育の中で大いに働くようになれば、この国の医療は必ず良くなると確信した。
 この十年ほどの間に、医学部教育の中で実地医療研修が行われていたが、学生という制約があるために、今一つ踏み込んだ医療内容に関わらせることが出来なかった。しかし、医師になって二年目の研修医は、すでにいろいろな入院患者の診療を経験し、外科系の医師はある程度の手術手技を実際に実施してきているので、外来患者の診療の一部を任せたり、在宅患者の主治医になったり、発熱患者の往診をしてもらうことも可能なのだ。今回の研修では、自分の背中を見せながら、Dr. KOZU styleを大いに吸収してもらったと思う。良い医師のあり方とは何か、少しずつ「気付き」を見せながら一つ一つ吸収していく彼らを見ると、この実地医療研修が大変役に立っている、とあらためて感じる。
 確かに、研修医が私のような小さなクリニックの外来に出て、未熟な医療技術で患者さんを困らせることは、一時的な医療サービスの低下である。神津内科クリニックを開設以来、「大学病院にも負けない、最良の医療サービスを提供します!」とパンフレットにも謳って、毎日の診療に研鑽努力してきた我々(スタッフも含めて)としては、なんとも歯がゆい。しかし、彼らに接する患者さんの多くは「頑張ってくださいね」「良い先生のところで研修できて、皆さん幸せですよ」「良い先生になってくださいね」とエールを送ってくれる。そんな患者さんをがっかりさせないためにも、何とか、良い研修と、神津内科クリニックにおける医療サービスの質の担保とを両立させなければならないと思っている。
 5月からの研修医の受け入れも9月で4人目になる。さあ、日本の医療を良くするために、がんばるっきゃないか(^o^)/