ドクタープロフィール
ドクター神津
神津院長は昭和52年に日本大学医学部を卒業後、同大学第一内科に入局され、その後、神経学教室が新設されると同時に同教室へ移られました。医局長、病棟医長、教育医長を長年勤められ、昭和63年、アメリカのハーネマン大学およびルイジアナ州立大学へ留学。帰国後、特定医療法人佐々木病院(内科部長)を経て、平成5年に神津内科クリニックを開業された。神津院長の活動は多岐にわたり、その動向は常に注目されている。
2003年10月号 -カクテルについて- backnumberへ
 sky divingというカクテルがある。大空を背中に両手両足を広げて飛行機から飛び降りるようなイメージだ。薄暗いバーでやや低めのダウンライトがカクテルグラスにスポットライトを当たって、透き通るようなブルーが浮かび上がる。あたかもこれを飲んだら、空高く舞い上がって、空の青さに溶けてしまうのではないかと思う、そんなカクテルだ。私のかつて患者であり(ヘリコバクター・ピロリの治療をしてからは治ってしまって患者ではなくなってしまった)友人のSさんがバーテンダー兼店長をしている恵比寿の「Django」というバーで教わった。これを二杯飲むと、まるで宙に浮いたようになるから、そのnamingもまんざら根拠が無い訳ではないようだ。

私が留学していたニューオルリンズには有名なカクテルがいくつもあった。ハリケーン、ブラッドアンドマリー、マルガリータ。それを片手にフレンチクオーターをそぞろ歩くのが、ニューオルリンズのやり方だ。気持ち良く歩いていると、街角のあちらこちらからジャズの音色が聞こえてくる。昨年の暮れから正月にかけて久しぶりに第二の故郷を訪れたのだが、以前と全く変わりがなかった。面白かったのは、バーでカクテルやビールを買うと、「トイレ引換券」というのを2-3枚くれることだ。アメリカでは、日本のように自由にトイレを借りることが出来ない。というのも、トイレが犯罪の温床になっていて、自由にトイレに入ることが出来なくなっているのだ。ガソリンスタンドでも、頑丈な鍵をわざわざ借りてトイレを借りるのが当たり前の国だから、自由に入れる公衆トイレはない。カクテルを飲めば、新陳代謝が良くなり、腎糸球体に入る血管は拡張するから、腎臓はフルに尿を作るために活動をしなければならない。膀胱に尿がたまれば尿意を感じる。感じるだけでなく、出たくなる、出したくなる。飲んでいれば急速にその尿意が高まる。しかし、どこにもトイレはない。そうした時に、酒飲みはどうするかといえば、皆さんご想像のように立ち小便ということになるが、年末年始でどこにでも人があふれているという状況ではそれも出来にくい。ということで、「ここで飲めば、トイレに入れる券を上げるよ!」ということになる。なかなか面白い社会だ。私も、「Can I use bathroom?」と、しこたま飲んだ後にハリケーンを頼んでトイレを借りた。幸せな放尿感覚を味わったことは皆さんの想像の通りだ。

昔、池袋のプリンスホテルのバーで、行くと必ず頼んでいたのが「レインボーカクテル」だ。長めの小さなグラスに七色のリキュールを混ぜずに綺麗に層になるように注ぐので大変な技術がいる。比重が違うので層になるのだが、ちょっとした揺れで混ざってしまうから、そうなったら捨ててまたやり直さなければならない。そんなカクテルを頼むのは意地悪だと思われそうだが、実は客とバーテンダーとの間の丁々発止の気合、というのがまた双方に楽しいのだ。銀座で「double o sevenが飲むドライマティーニをお願い・・・」といったら、「お客さん、007は小説の中で三種類のドライマティーニを飲んでいるのですが、どれにしましょうか?」といわれてギャフンとしたことがあった。これもまた一興だ。

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