石井正教授コラム『継続可能な地域医療体制について』(毎月15日掲載)
石井 正 教授

石井 正 教授

1989年
東北大学卒業
1989年
公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修医となる
1992年
東北大学第二外科(現 総合外科)入局
2002年
石巻赤十字病院第一外科部長就任
2007年
石巻赤十字病院医療社会事業部長に異動
2011年2月
宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱
2011年3月
宮城県災害医療コーディネーターとして石巻医療圏の医療救護活動を統括
2012年10月
東北大学病院総合地域医療教育支援部教授就任
2022年
卒後研修センター副センター長、総合診療科科長、漢方内科科長兼任
2021年6月号
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東北大学診療所を開設する

先生はどのタイミングで新型コロナウイルスのニュースを聞かれたのですか。

 一般の方々と同じですよ。2020年2月のダイヤモンド・プリンセス号で集団感染が起きた頃に知りました。印象としても一般の方々と同じです。ダイヤモンド・プリンセス号の頃は直接、関与していませんでしたが、日本災害医学会の総会・学術集会を開くか、開かないかの討議の末、何とか開くことになり、神戸に行ったことは覚えています。しかし、その学会での懇親会が中止になったり、そういう集まりが一切なくなってきて、我が事になってきた感じです。そして3月末か4月の初めに宮城県の新型コロナウイルス感染症対策医療調整本部の搬送コーディネーターに委嘱されました。

どういう経緯で搬送コーディネーターの委嘱を受けられたのですか。

 国から搬送コーディネーターの業務に統括DMATをあてるという通知が出たので、宮城県も従ったのです。私が宮城県の統括DMATを務めていたので、指名されました。4月10日に新型コロナウイルス感染症対策宮城県調整本部「患者搬送コーディネーター」会議があったのですが、そこでPCR検査のキャパシティが非常に小さく、滞っているという話になりました。そうしたら、その翌日に東北大学大学院医学系研究科長の八重樫伸生先生からお電話があり、「東北大学でも何かした方がいい」というアドバイスをいただいたので、東北大学病院の冨永悌二院長とも相談のうえ、4月13日に宮城県庁を訪問しました。宮城県の保健福祉部で次長をされている高橋達也先生は第二外科での2つ上の先輩なのです。高橋先生に「どうしましょう」と意見交換をしていたら、突然村井嘉浩知事に呼ばれ「ドライブスルー型のPCR検査外来を東北大学でやってくれませんか」と言われました。それで大学に持ち帰ったところ、私が担当するということに決まり、そこから本格的な関与がスタートしました。

ドライブスルー型のPCR検査外来をどのように整備されていったのですか。

まず建て付けからお話しします。当初は医療機関ごとに帰国者接触者外来として、PCR検査を行っていたのですが、全く足りていなかったのです。そこで宮城県から「簡易型帰国者接触者外来の形でドライブスルー型の検査をしたい」と言われ、建て付けとしては検査外来になりました。場所に関しては大学病院の敷地内も検討しましたが、そこまで広い場所を確保できないことが分かりました。そうしたら、病院の事務の方が知恵を絞ってくれて、「東北大学診療所」を急遽、大学病院とは別の場所に開設することになったんです。すぐに東北厚生局に開設を申請しました。この場所については公表していませんので、宮城県内の某所ということにしておきますが、宮城県から「この場所でやってください」と言われた場所に新たに東北大学診療所を開設するという奇想天外なアイディアでした。

すごいですね。

 そうなんです。それを東北厚生局に申請し、認可がすぐに降りたので、私が東北大学診療所の所長に就任しました。東北大学の大野英男総長のお名前で「診療所長に任ずる」みたいな任命状をいただきましたよ。そして、医療施設ではない某所で、救急外来を専門とする簡易型の検査を行う東北大学診療所を開設しました。4月13日に言われた話ですが、スタートしたのは21日です。その間に業務の内容やフロー、マンパワーの確保、財源などを考えていきました。救急外来ですので、診療行為をするわけですから、診療にあたっては問診をしますが、検査自体は行政検査です。そしてルール上、初診料は東北大学診療所の収入になります。

カルテはどうなるのですか。

 東北大学診療所として、きちんと認可申請したものの、バーチャルに近い診療所なわけですから、電子カルテは東北大学病院の電子カルテに間借りする形となりました。電子カルテに関しては東北大学病院医事課が全て対応してくれました。宮城県や仙台市からの受診者リストや来所される方が乗ってくる車のリストなどを東北大学病院の医事課に送ると、東北大学病院のIDが発行されます。そうして東北大学診療所での診療が可能となるわけです。電子カルテをテント内に持ち込むのは清潔、不潔といった面から難しいので、とりあえず、テンポラリーな紙カルテを医事課に作ってもらい、毎日その日の分をドライブスルー会場のテント内に持ち込みます。テント内での検体採取時に、受診者に対して実施した問診内容をその場で紙カルテに一旦記載します。一方、東北大学病院では職員がCOVID-19の濃厚接触者となり自宅待機になった際に自宅などから業務支援することを想定し、携帯型電子カルテ端末を準備していました。それを借りて、テント脇の事務局にて統括医師が次々と紙カルテの記載内容を「東北大学診療所電子カルテ」に転記入力します。要するにテントの中に電子機器を持ち込まずに電子カルテに入力する方法を考案しました。

ほかに、どのような配慮をされましたか。

 例えば、予約リストと保険証の番号が間違っていたりすると、診察料をいただきそこねることもあり得るので、保険証の写真撮影をすることにしました。細かいことですが、検体を入れるチューブを取り違えたり、なくしたりすると最悪の事態になるので、それをどうするかも考えました。そうしたら、そういうことをほぼ絶対に間違えない職種があることに気づきました。看護師です。看護師は毎日、そういう仕事をしているので、まあ、間違えないんです。医師は間違えかねません(笑)。それで絶対に間違えない看護部のご協力をいただき、毎日検査会場に人を出してもらって、受診者への説明もしてもらいました。ほかに歯科医師も手伝ってくださるとのことでしたので、問診をお願いしました。一方で、初期研修医には強制できませんので、手上げ方式にしました。来てもらえる人に来てもらって、保険証の写真撮影をしてもらいました。そうしたシステムを1週間で作り、4月21日にスタートしたのです。

(7月号に続く)

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