クリニックの窓教えて、開業医のホント

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多摩ファミリークリニック

 神奈川県川崎市多摩区は1972年に川崎市が政令指定都市になったのを受けて誕生した区である。川崎市の最北端に位置し、北は多摩川を境に東京都と接している。南には多摩丘陵が広がっており、生田緑地では森林浴を楽しめるほか、日本民家園や岡本太郎美術館などもあり、川崎市内最大の都市公園となっている。また、多摩川梨の産地としても知られている。
 多摩ファミリークリニックは多摩区の登戸新町に2010年に開業した。小田急小田原線の登戸駅から徒歩5分の恵まれた立地で、「Total Family Care」をコンセプトに、「家族みんなのお抱えの医者」であるべく、一人一人の生活や思いを踏まえた診察、検査、治療を提供している。一方、総合診療医を目指す後期研修医の教育にも力を入れている。
 今月は多摩ファミリークリニックの大橋博樹院長にお話を伺った。

大橋 博樹 院長

大橋 博樹 院長プロフィール

1974年に東京都中野区で生まれる。2000年に獨協医科大学を卒業後、武蔵野赤十字病院で研修を行う。2002年に聖マリアンナ医科大学病院総合診療内科・救命救急センターに勤務する。2004年に筑波大学附属病院総合診療科に勤務する。2005年に亀田総合病院家庭医診療科に勤務する。2006年2月に川崎市立多摩病院の開院準備に参画し、開院から総合診療科医長として勤務する。2010年4月に神奈川県川崎市多摩区登戸新町に多摩ファミリークリニックを開業する。


日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医、日本プライマリ・ケア連合学会理事、東京医科歯科大学臨床准教授、聖マリアンナ医科大学非常勤講師など。

開業に至るまで

病院風景02

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 祖父が医師で、茨城県の過疎地域で診療所を開業していました。祖父の診療所がなくなると、その地域の医療は崩壊しますから、祖父は何でも診ていました。祖父の姿はまさに家庭医という感じで、子どものときからいいなあとおぼろげながら思っていたのが医師を目指したきっかけです。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 祖父の姿に憧れながらも、どういう勉強をすべきなのか、分かっていなかったので、何も考えていない大学生でした(笑)。しかし、学生生活は楽しかったですね。大学祭の実行委員長を務めたことが思い出に残っています。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 旅行に行ったり、ドライブやバーベキューを楽しんだりと、それなりに遊んでいました。アウトドアが好きでしたね。


◆ 専攻を家庭医療に決められたのはいつですか。
 祖父の姿がいつも頭にあったので、医師を目指したときから家庭医志望だったのです。消化器内科や循環器内科などの専門を持てと言われることもありましたが、カテーテルなどに取り組むのは祖父の町医者姿に結びつかないので悩んでいました。大学5年生になり、実習が始まりましたが、そこでお世話になった指導医の先生が沖縄県立中部病院から帰ってこられたばかりの方だったんです。その先生に「大学はストレート研修だけれど、スーパーローテートで研修できる市中病院があるから、大学を出るといいよ」と言っていただき、武蔵野赤十字病院で研修を行うことに決めました。


◆ 研修後に聖マリアンナ医科大学病院に行かれたのですね。
 研修後も専門をどうすべきかに迷いがあったのですが、ミシガン大学の家庭医学科におられた佐野潔先生からお誘いをいただき、ミシガン大学に行ってきました。そこでは赤ちゃんや子どもの患者さんも含め、祖父がやっていたような診療が行われ、なおかつアカデミックでした。医学生がシームレスなコースで学んでいることが羨ましかったです。ミシガン州には6,000人規模の日本人コミュニティがありましたが、佐野先生はそういった日本人にも診療をなさっていました。こういうキャリアもあるのだと気づかされましたね。当時の日本には総合診療のプロフェッショナルはいませんでしたが、私は日本でやってみようと思ったんです。そこで、亀谷学先生が准教授を務めていらした聖マリアンナ医科大学病院の総合診療内科に勤務することにしました。亀谷先生はもともと循環器内科医だったのですが、アメリカで家庭医療に出会い、「これからは家庭医療の時代だ」と聖マリアンナ医科大学病院に総合診療内科を立ち上げられたのです。


病院風景03

◆ 筑波大学附属病院、亀田総合病院にも勤務されたのですね。
 筑波大学附属病院では前野哲博先生、亀田総合病院では岡田唯男先生の教えを受けました。お二人をロールモデルとして、国内留学をしたのです。臨床にあたっては、プラクティス以上に理念が大事であるという考え方を教わることができました。


◆ 川崎市立多摩病院の参画に携われたきっかけをお聞かせください。
 聖マリアンナ医科大学の亀谷先生が川崎市立多摩病院の初代院長に就任されることになったからです。川崎市立多摩病院で後期研修医を地域で養成していくプログラムを作ることになり、主任医長として、お手伝いすることになりました。プログラムは徐々に軌道に乗り、10人ほどの教え子の後期研修医が川崎市立多摩病院を巣立ちました。


◆ 家庭医療専門医をお持ちなのは珍しいですよね。
 指導医として仕事をしていくうえでも、自分の中でクリアしないといけないと考え、2008年に取得しました。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 最初は道なき道を歩き始めた気がしていましたが、祖父のような医療をやっていきたいというヴィジョンがあったので、ぶれずに進むことができました。後期研修医を地域で養成するプログラムを立ち上げたことで、地域医療のニーズがあることが分かりましたね。大学の同級生も以前は「大丈夫か」と心配してくれていましたが、今では「教えてよ」と言ってきます(笑)。キャリアに正解はないですし、面白いなと感じています。


開業の契機・理由

病院風景04

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 祖父の開業スタイルに近い形で、自分の医療を具現化したいと考えたからです。若手医師への教育にしても、病院で行うのはもちろんですが、病院の中だけでは限界があり、地域の最前線のクリニックで行うことが大事なのです。しかし、教育ができるクリニックの数は足りていません。私が作って、後期研修医を受け入れようと思いました。


◆ 開業地をどのように選ばれたのですか。
 川崎市立多摩病院の近くの場所を探しました。私が行う医療にしても、教育の観点からも、同じ患者さんを違う立場から診ることが必要だからです。クリニックの患者さんが急性期病院に入院して退院し、クリニックに戻り、訪問診療やお看取りまでを診ていきたかったんですね。そして、同じ考えを持った医師が急性期も慢性期も診れば、「顔の見える医師」となり、患者さんも「見たことある先生が診てくれる」と安心されます。現在、川崎市立多摩病院の勤務医のうち、3分の2が私どもでの勤務経験がありますから、病院とクリニックをシームレスに繋ぐことができており、我々も安心して医療を行えています。


◆ 開業地の第一印象はいかがでしたか。
 以前はスーパーだった場所ですが、登戸駅から少し距離がありますし、人通りが少なく、クリニックとしては微妙かなと思いました。ただ、川崎市立多摩病院から平坦な一本道であること、広さが十分だったことが良かったです。開業するタイミングとしては早かったのですが、いい物件に出会えましたので、開業に踏み切りました。


◆ 開業にあたって、マーケティングはなさいましたか。
 診療圏調査をすればするほど悪い結果が出て、業者さんから同情されました(笑)。人の流れは登戸駅の反対側に集中していましたし、内科も小児科も競合が多いのです。私どもは内視鏡のような特徴もないですし、近所の方からも「大丈夫ですか」と心配いただいていました。しかし、数年後に近隣にマンションができ、人通りが増えてきました。


◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 何の売りもなく、幅広く診るクリニックだということをいかに特徴づけるのかということです。内科メインでついでに子どもを診るわけでも、小児科メインでついでに大人を診るわけでもない、家族単位で診ることへの思いをどう伝えるのかなど、ホームページでの伝え方に苦心しました。


病院風景05

◆ 医師会には入りましたか。
 もちろん、川崎市医師会に入りました。総合診療科は医師会に入ることが極めて大切です。川崎市から委託されている介護の審査や乳幼児健診など、これまで医師会の先生方が担ってこられたことにきちんとコミットすることに努めています。


◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 医師は私だけで、非常勤の看護師が2人、常勤の事務が3人です。看護師の1人は患者さんだった人なんですよ。新規のクリニックだと看護師は集まりやすいですが、開業後は大変です。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 HbA1c・CRP測定器、レントゲン、心電図に加え、スペースに余裕があったので、上部内視鏡も導入しました。超音波は扱うとなると、その間の診療がストップしてしまいますし、費用対効果の面からも開業時には導入しませんでした。開業して2年後に導入しました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 どの世代の患者さんがいらしてもいいような内装を心がけました。中でも待合室はスペースと費用をかけています。患者さんがいる時間としては待合室が一番長いので、居心地の良さは大切です。機械にお金をかけずに済んだので、待合室の椅子にはお金をかけています。キッズスペースはボーネルンドにプロデュースをお願いしています。ボーネルンドの社員の方と父が知り合いだったことがきっかけなのですが、ボーネルンドがクリニックのキッズスペースをプロデュースするのは初めてだったそうです。「内科のついでに小児科も診ます」というスタンスに抵抗があったので、小児科もきちんと行っているというメッセージがこのキッズスペースから伝わればと思っています。
 家族でかかることができるクリニックが理想ですから、診察室も通常のクリニックの1.5倍の広さを確保しました。机をL字型にし、患者さんと面と向かって話せるようになっています。バリアフリーで、ベビーカーや車椅子でもそのまま入っていただけます。


クリニックについて

病院風景06

◆ 診療内容をお聞かせください。
 総合診療科と標榜したかったのですが、内科、小児科、外科を標榜しています。外科は手を包丁で切ってしまったりという怪我や異物が入ったなどの処置が中心です。子どもさんが多いですが、高齢の患者さんから「おできを取ってください」と依頼されることもありますね。「ここなら一カ所で済む」と言われるのが、私にとっても有り難いです。
 睡眠時無呼吸症候群は病診連携の中で始まった治療です。外来での初診はクリニックで、精査が必要なら聖マリアンナ医科大学病院でという住み分けができています。聖マリアンナ医科大学病院ではCPAP療法ができますが、2、3回の治療のあとは紹介元に戻すことになっているんです。私どもでは90人ぐらいの患者さんを抱えていますので、勉強会などで知識のブラッシュアップに努めています。こうした連携がほかの疾患でもできるといいですね。
 私どもは予防を重視していますので、禁煙外来は必須です。「お父さんが禁煙しないと、子どもさんの咳が治らないよ」と伝えられるのもファミリークリニックとしてのメリットでしょうか。
 また、常勤で薬剤師が在籍していることも強みです。私どもは高齢の患者さんが多いので、ポリファーマシーの危険性が伴います。しかし、薬剤師が院内にいることで処方内容を常にチェックしてくれますから、外来でも在宅医療でも安心して処方できています。


◆ 訪問診療もなさっていますね。
 開業2年目から始めました。常勤医師が3人で夜間も対応していますので、体制を保つのが大変です。お看取りも行っています。今は3世代のご家庭が100軒、4世代のご家庭が15、6軒あります。この辺りはもともと地主さんだった方がいらっしゃるので、ひいおじいさんから曾孫さんまでの4世代のご家庭になるんですね。高齢の方の禁煙外来や睡眠時無呼吸症候群、子どもさんの予防接種のニーズもそういったご家庭から生まれます。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 「その家にお抱えの医師になる」ことです。家族構成、就いている仕事、嫁姑の仲まで、その家のことを一番知っている存在でありたいです。エビデンスはもちろん大事ですが、一方ではこういったことが分かったうえでのオーダーメイドの方針を立てて、治療や予防に繋げることを心がけています。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 外来は半分が子どもさんです。開院時は高齢の患者さんは本当に少なく、口コミで広まっていった感じです。開院時にはまだお若かった方も高齢者になられましたしね。家族内紹介もあります。キーパーソンがお母さんで、ご主人や子どもさんがいらっしゃるようになるケースが多いです。


◆ どのような内容の健診を行っていらっしゃいますか。
 川崎市の特定健診、川崎市の後期高齢者医療制度の健康診査、がん検診、骨粗しょう症検診、乳児健診、乳幼児検診、自費の健康診断、企業の健康診断などをお受けしています。その際、生活習慣のカウンセリングを行うこともあります。


病院風景07

◆ 病診連携については、いかがですか。
 やはり川崎市立多摩病院が中心です。そのほかは聖マリアンナ医科大学病院、武蔵野赤十字病院ですね。小児科は国立成育医療研究センター病院と連携しています。


◆ 経営理念をお教えください。
 働いているスタッフとその家族がハッピーであることが大事です。そして、働いているスタッフとはミッションを共有できるかということですね。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 患者さんにはご迷惑をかけていますが、月に1日、午後の診療を臨時休診とし、全体ミーティングを行っています。何を話し合うかについては現場のスタッフが決めています。一つの問題にどう取り組んでいくのか、ビジネスミーティングのような雰囲気で行っています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 ホームページは重要ですので、全面改訂に着手しました。診療内容を整理し、機能性を高めたいです。最近、非常勤医師が増えていますので、スタッフの顔が見えるような内容にしていきたいですね。
 また、電柱広告も20本以上、出稿しています。登戸駅周辺から私どもにかけて、道案内を兼ねた広告になっています。


開業に向けてのアドバイス

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 開業する前に理念を持つことです。自分は何をしたいのかということですね。しかし、それは地域のニーズに合っているのかを考えてみましょう。大学病院並みの検査機器を揃えていますと言っても、都心に住んでいる方なら大学病院に行ってしまいます。地域のニーズとのマッチングをよく見たうえで、軌道修正する勇気も必要です。

プライベートの過ごし方(開業後)

 ゴルフなどはなかなかできないですね。子どもが5歳とまだ小さいので、近所の公園に行ったりしています。夏休みは家族で那須に行ってきました。

 私どもではオンオフの区別をしっかりつけるためにワークシェアリングを進めていこうとしています。そのためには人材を増やしていきたいですね。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図
多摩ファミリークリニック
  院長 大橋 博樹
  住所 〒214-0013
神奈川県川崎市多摩区登戸新町337 
  医療設備 上部内視鏡、超音波、心電図、レントゲン、HbA1c・CRP測定器、電子カルテなど。
  スタッフ 26人(院長、常勤医師3人、非常勤医師6人、常勤看護師5人、非常勤臨床検査技師2人、非常勤放射線技師1人、常勤薬剤師1人、常勤ソーシャルワーカー1人、常勤事務6人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 63坪(1階48坪、3階15坪)
  敷地面積 48坪
  開業資金 6,000万円
  外来患者/日の変遷 開業当初30人→3カ月後40人→6カ月後60人→現在120~150人
  URL http://www.tamafc.jp/

2017.11.01 掲載 (C)LinkStaff

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