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西戸山クリニック

原武史 院長

原武史 院長プロフィール

1966年に神奈川県川崎市で生まれる。1991年に山梨医科大学(現 山梨大学)を卒業後、東京医科大学病院第二内科に入局する。1991年に東京医科大学病院、1992年に東京医科大学八王子医療センターで研修を行う。1994年に東京医科大学病院に勤務を経て、1996年に東京医科大学霞ヶ浦病院(現:東京医科大学霞ヶ浦医療センター)に勤務する。1998年に東京医科大学病院に勤務する。2005年3月に東京医科大学病院を退職し、東京都新宿区の厚生中央医院を承継する。2013年6月に東京都新宿区に西戸山クリニックを開設する。
日本内科学会内科専門医、日本循環器学会専門医など。

 東京都新宿区百人町は新宿からも徒歩圏であるため、オフィスが多く、各種の専門学校も集まっている。JR山手線の新大久保駅、JR中央・総武線の大久保駅周辺は繁華街であるが、駅から少し離れると都営住宅が建ち並ぶなど、住宅街が広がっている。現在は新宿区内で最も外国人居住者の多いエリアであり、大久保と並んでコリアンタウンとなっているが、韓国のみならず、中国、タイ、ミャンマーなどの料理店や雑貨店も数多い。
 西戸山クリニックは新大久保駅から徒歩8分、大久保駅から徒歩10分ほどの場所に2013年に開業したクリニックである。開業にあたってはメディカルモールとしてのビルを建設し、調剤薬局や耳鼻咽喉科が入居している。原武史院長の専門は循環器内科であるが、開業後は小児科も標榜し、日曜日も診療を行っている。
 今月は西戸山クリニックの原武史院長にお話を伺った。

開業に至るまで

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 人に直接、接する仕事がしたかったからです。また、技術を身につけることができる仕事だということにも魅力がありました。私は小さい頃は病弱でアレルギーがあり、喘息やアトピーに苦しんでいたんです。それで、近所のクリニックによく行っていたので、医師が身近な職業でもありました。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 あまり勉強しなかったですね(笑)。テニス部と水泳部に入っていました。どちらの部でも先輩に恵まれて、色々な指導を受けることができました。東医体では背泳ぎで4位に入ったことが思い出です。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 テニスのほかは友達とドライブに行くことが多かったです。中央自動車道を使って清里に行ったり、スキーに行ったりもしました。山梨はアウトドアの魅力が一杯あるところでしたね。


◆ 循環器内科を選ばれたのはいつですか。
 6年生になってからです。当時の患者さんの主訴は腰痛と血圧が多かったので、私は血圧を診ることができるようになりたいと思ったんですね。ちょうどPTCAが始まった頃で、循環器治療に革新的な変化が起こっていました。人工心肺装置を使わないカテーテルは画期的でしたし、内科医でありながら外科医のような仕事ができるということに憧れました。


◆ 東京医科大学の第二内科に入局されたのはどんな理由からですか。
 患者さんの多い都市部で研修したいと思ったからです。東京医科大学を選んだのは内科のローテート研修をしていたことが挙げられますね。私は漠然とですが、開業志向があり、浅く、広く診るトレーニングを積んでおかなくてはと考えていました。


◆ 第二内科に入局されてみて、いかがでしたか。
 内科を消化器、循環器、血液、内分泌と4つに分けて、ローテートしました。私は他大学出身でしたが、色々な先生方と知り合えたのが良かったですね。症例も多かったですし、様々な患者さんと接する勉強ができました。
 2年目の後半は東京医科大学八王子医療センターで外来をしていましたし、3年目の後半にはカテーテルもしていましたので、検査は得意になっていました。今の研修システムからは考えられないスピードですね。でも、本院に長くいると、カテーテルの経験をほとんど積めません。そんな先輩が八王子に来られたら、私が教えたりもしていました(笑)。


◆ 循環器内科の魅力はどんなところにあったのでしょうか。
 勝負が早いことですね。医師がここ一番というタイミングで頑張ると、止まっていた心臓が動き出します。患者さんが後遺症のない生活を送れるようになるのを見るのは遣り甲斐になりましたね。自分がやったことが正しかったんだという実感を得られます。しかしながら、手を尽くすこともできず、命を落とされることもありました。また、以前はがん告知をしなかったので、がん告知をしないまま診療するというストレスもありました。今は告知できますから、以前とは大きく違っていますね。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 2年目から外来を担当させていただいたり、豊富なチャンスをいただけた勤務医生活だったと思います。先輩方からは診療以外のキャリアビジョンといったことも教わりましたし、多くのアドバイスや失敗談を伺いましたね。東京医科大学は私のような他大学出身者にも優しいんですよ。私は中学、高校が私立で、大学が国立なんですが、私立の雰囲気の方が自分に合っているような気がしていたんです。研修医時代に一緒にローテートした仲間とも仲がいいですし、楽しかった勤務医時代でした。


開業の契機・理由

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 いつかは開業してみたいという漠然とした思いはありましたので、認定医や専門医の資格を取得したりといった準備をしていました。大学病院はどうしても専門科に紹介しますが、なるべく広く、浅く診て、自分の知識を増やすことも心がけていました。その点、総合診療科の初診外来は勉強になりましたね。丁寧に診て、それから紹介した専門科で「答え合わせ」をしていました。咳が出て、体重が減少していた患者さんがエイズだったり、首が痛いという主訴の患者さんが髄膜炎だったりと、自分の所見を確かめていたんです。
 そういった開業医へのトレーニングを積んでいたときに、自宅から歩いて5分程度の場所に閉院している医院があることを知りました。そこで、この物件で開業しようと決意しました。


◆ その物件はどのような状態だったのですか。
 管理会社に問い合わせたところ、閉院して1年以上が経っているということでした。開設者は同じ方なのですが、院長は何人か変わっていたようで、以前は内科だったり、整形外科だったりでした。ただ、パーテーションもできていましたし、レントゲンがあったのは良かったですね。厚生中央医院という名称もそのまま引き継ぎました。


◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 スタッフもすぐに集まりましたし、いわゆる居抜きに近い形での開業でしたから、ほとんど苦労はありませんでした。


◆ 医師会には入りましたか。
 新宿区医師会に入りました。同じマンションに医師会の偉い先生がいらっしゃったので、快く迎えていただきましたよ(笑)。その息子さんが東京医科大学の学生さんで、私が教えたこともあるらしく、周囲からは「ラッキーなことが続くね」と言われていました。


◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 常勤は看護師1人、事務スタッフが1人です。非常勤の事務スタッフが2人いて、どちらか1人が入るという形ですね。これは今も変わっていません。


◆ 2013年に今の場所に移転されたのはどうしてですか。
 この近辺に長く住んでいましたし、子どもも3人いますので、小児科にニーズがあることをほぼ掴めていました。近くの東京山手メディカルセンターの外来は午前中だけですし、小児科を診る医師が少なかったんです。それで、小児科を診たい、土曜や日曜も診療しようと思ったんです。それにはクリニックを拡充する必要がありますので、土地を探していました。土地を購入したのは開業の5年ぐらい前ですが、そろそろ建物をということで新築しました。


◆ 移転先をご覧になっての第一印象はいかがでしたか。
 以前の厚生中央医院は裏通りだったのですが、移転先は表通りに面していますので、患者さんを誘導しやすいと思いました。交通量も多く、都営住宅や公務員住宅、西戸山小学校の近くですので、第一印象はとても良かったです。


◆ 最初からメディカルモールとしての開業を考えていらっしゃったのですか。
 小児科の場合は自院で調剤すると時間がかかるんです。それで1階を薬局に入っていただきたかったんですが、私どもだけしか入居していないビルに入ってくださる薬局はないだろうと考えたんですね。それで、子どもを診る診療科ということで、耳鼻咽喉科に絞って募集をしたところ、すぐに応募をいただきました。結果として、1階に調剤薬局、2階に私ども、3階にユキクリニック耳鼻咽喉科が入り、4階はカンファレンスルームです。カンファレンスルームはメーカーさん主催の勉強会や近隣の医師と一緒の勉強会など、知識をアップデートする場として役に立っています。


◆ 小児科医としてのトレーニングをどのように積まれたのですか。
 厚生中央医院時代に、内科と小児科で開業している先輩のクリニックに週に1回、2カ月ほど通いました。また、東京都が主催している開業医向けの研修にも参加しました。研修先を選べるので、古巣の東京医科大学病院を選び、救急外来で研修させていただきました。


◆ 移転にあたって、マーケティングはなさいましたか。
 目安として、無料の診療圏調査をお願いしたぐらいでしょうか。悪くない結果を得ましたし、開業後も特にズレはないですね。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 エコー、心電図、レントゲン、電子カルテが主な設備ですが、ほぼ全てを厚生中央医院から持ってきました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 置きたいものを採寸してから設計しましたので、デッドスペースがありません。また、私が座る位置がクリニックの中央に来るように配置しています。中央ですと、電話にも出やすいですし、スタッフに指示も出しやすいですね。それに、待合室にもすぐに顔を出せますから、設計には満足しています。


クリニックについて

◆ 診療内容をお聞かせください。
 内科、循環器内科、小児科を標榜していますが、内科の患者さんにはプライマリケアを行っています。私はずっと新宿区に住んできましたし、新宿区の病院に勤めてきましたので、どの病院のどの勤務医がどの時間帯にいるといったことを熟知しています。「この患者さんにはあの先生は敷居が高いだろう」といったことも分かっていますので、適切にご紹介できるのが強みですね。
 循環器内科の場合は心電図、ホルター心電図、エコーを使っています。近隣の開業医の先生方からのご紹介の患者さんが多いですね。こちらからも丁寧なお返事を書くよう、努めています。
 小児科もプライマリケアです。数を診ていくうちに慣れてきました。お母さんや保護者の方とうまく話すことで、スキルアップしてきたように思います。今も小児科医会での勉強会やオープンカンファレンスで小児科医としての考え方に触れています。教科書に書いていない知識をいかに入れて、患者さんにお返しするかですね。


◆ 禁煙外来もなさっていますね。
 循環器内科では再発予防のために禁煙を勧めています。以前はできることが少なかったのですが、ニコチンパッチが出てきて変わりましたね。最初は自費診療でしたが、保険適用になり、チャンピックスも始まりました。保険適用になり、煙草が値上げになったときは患者さんが増えたのですが、今は落ち着いています。禁煙のタイミングによって陥りやすい悩みや失敗が違うので、それぞれの段階でカウンセリングさせていただいています。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 患者さんの求めていることにできるだけ応えることです。医学的判断からかけ離れていることは無理ですが、例えば80歳以上の患者さんの薬の増減などはご本人の意志を尊重するべく、積極的に考えてさしあげています。


◆ 土曜、日曜も診療なさっていますね。
 循環器内科で仕事をしていると、病院から連絡が来れば土曜、日曜はないのが普通でしたので、私としては抵抗ありませんでした。開業後もそういう循環器内科医に負けたくないという思いもありました(笑)。しかしながら、開業医には呼び出しはありませんので、その負担はありません。また、患者さんからもとても喜ばれています。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 0歳から90歳まで、幅広い年齢層の患者さんがいらっしゃいます。子どもさんが5割弱、高齢者が3割、子どもの親御さんが残りといったところでしょうか。親御さんも同時に診ることができるので、「1カ所で済むのは有り難い」と言われますね。お互いに理解し合える、話しやすい患者さんばかりですよ。


◆ 健診はどのような内容で行っていらっしゃいますか。
 新宿区の区民健診をお受けしています。私は新宿区の介護認定審査会委員を8年やっていますので、行政の業務を分かっています。行政からの通知が来ていない方には関係機関の電話番号をお伝えしたり、私自身が新宿区に住んでいるからこそできることを大切にしています。
 私は予防接種の勉強をずっとしてきましたが、予防接種はこの10年で大きく変わりました。このあたりは外国人はもちろん、公務員住宅があり、海外から帰ってきた方々も多いですので、予防接種にも力をいれています。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 紹介先としては東京医科大学病院と東京山手メディカルセンターが多いですが、患者さんが「昔、行っていたから行きたい」、「家族を亡くした病院だから行きたくない」といったご希望を話されるので、お話をよく伺っています。また、新宿区の事業である在宅療養者の緊急一時入院病床についても積極的に関わり、相手先の病院にも喜んでいただけるようにしています。


◆ 経営理念をお教えください。
 「会社は誰のものか」と言われるように、「クリニックは誰のためにあるのか」ということですね。もちろん、患者さんのためにあるものですし、患者さんを蔑ろにしていることは決してありませんが、私はやはりスタッフのためにあるものだと思っています。スタッフの生活を預かっているのだと意識し、お互いが助け合って仕事をしていきたいものです。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 気づいたことをその場で伝える程度ですね。仕事のための仕事は極力しないようにしています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 土曜、日曜の集患に関してはホームページでできていると思います。そのほかは特に何もしていません。あちこちの病院や医院を回ってこられた患者さんであっても、お話をゆっくり聞いて、「うちに来てくれたら、診ますよ」というスタンスを徹底すれば、それが口コミに繋がっているようです。


開業に向けてのアドバイス

 自分に何ができるのかというスキルを把握したうえで、何をしたいかというヴィジョンを持たない限りは開業には向いていないのではないでしょうか。開業後にこういうことをしていきたいというビジョンは必要です。また、開業するタイミングとしては勤務医時代にマネージメントの経験を積んでからの方がいいですね。卒後15年前後が目安だと思います。私は勤務医時代に2つの大きなマネージメント経験がありました。一つは内科外来のパーテーションの設計です。どのように診察室をレイアウトするのか、悩みましたね。もう一つは入院の患者さんのデータベースの構築です。検査台帳の番号を入力すればサマリーを読めたり、プレゼンのフォーマットになるように、ファイルメーカーで作成しました。こういった経験は開業にあたっても役に立ちます。

プライベートの過ごし方(開業後)

 子どもは高校生の長女、中学生の長男、小学生の次男です。他愛のない会話をしながら食事をする時間が楽しいですね。土曜、日曜も診療日にしていますので、平日にできるだけコミュニケーションを取るように心がけています。最近の趣味はサックスの演奏ですね。長男が吹奏楽部に入り、サックスを吹いていますので、私も習い始めました。お酒を飲むのも好きで、自宅で飲んでいます。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

西戸山クリニック
  院長 原 武史
  住所 〒169-0073
東京都新宿区百人町3-7-8 原ビル2階
  医療設備 心臓超音波、血管超音波、心電図、24時間心電図、レントゲン、呼吸機能検査、電子カルテなど。
  スタッフ 5人(院長、常勤看護師1人、常勤事務1人、非常勤事務2人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 56.61㎡
  敷地面積 56.61㎡
  開業資金 承継時は800万円、新規開業時は2億円
  外来患者/日の変遷 開業当初20人→3カ月後35人→6カ月後40人→現在45人
  URL http://www.e-doctors-net.com/shinjyuku/kousei/

2015.03.01 掲載 (C)LinkStaff

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