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王子北口内科クリニック

船木威徳 院長

船木威徳 院長プロフィール

1971年に北海道で生まれ、兵庫県神戸市で育つ。1996年に旭川医科大学を卒業後、1997年に札幌徳洲会病院に勤務する。その間、クイーンズメディカルセンター、与論病院、湘南鎌倉総合病院、茅ヶ崎徳洲会総合病院でも臨床研修を行う。2000年に東京女子医科大学東医療センターに勤務し、内科、血液浄化部を兼任する。2011年2月に東京都北区に王子北口内科クリニックを開業する。貴友会王子病院腎疾患診療部長、透析診療部長、東京女子医科大学東医療センター内科非常勤講師を兼任する。日本内科学会認定医、日本透析医学会認定医、日本腹膜透析学会施設会員、社団法人生活習慣病コーディネーター協会理事など。

 東京都北区王子本町はJR京浜東北線、東京メトロ南北線王子駅の西側に広がる街である。早くから住宅地として開けているエリアだが、北区役所があるため、北区の行政上の中心地でもある。地名の由来となった王子神社も町内にあり、8月の例大祭に奉納される田楽舞は北区無形民俗文化財に指定されている。
王子北口内科クリニックはJR、東京メトロの王子駅から徒歩2分、都電荒川線の王子駅前停留所からも徒歩5分ほどの立地に、2011年に開業したクリニックである。船木威徳院長は慢性腎臓病の治療を専門とし、東京都北区、荒川区、足立区の病院でキャリアを積んできた。開業後も慢性腎臓病を中心に内科全般を広く診ているほか、在宅医療にも携わっている。
 今月は王子北口内科クリニックの船木威徳院長にお話を伺った。

開業に至るまで

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 幼稚園の年少組の頃まで身体がとても弱く、病院が身近な場所だったということがまずありますね。中学生になって将来の進路を考えるときに、私には公務員のように決まりを作る仕事や決められたことを黙々とくり返す仕事は向いていないと思いました(笑)。父は造船会社でエンジニアをしており、父のように技術を持って働くことへの憧れもあり、医師を目指しました。技術職という点で、最初から外科医になりたかったです。中学のころから鉄道旅行をくり返し、日本の各地のすばらしいところを見てきたことで、できれば田舎に住みたいと考えていました。医師はどこでも住めるというのも良かったですね。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 旭川医科大学に行ったのは北海道生まれということもありますが、田舎暮らしをしてみたかったからです。好きな場所に住める仕事は医師、看護師、芸術家ぐらいではないでしょうか(笑)。旭川は性に合っていましたね。大学では茶道部に入り、2年もの間、部長を務めていました。流派は裏千家でした。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 鉄道が好きなので、色々なところに旅行に行きました。日本中、行っていないところはないぐらいです。どこへでも行きましたね。


◆ 最初は徳洲会に行かれたのですね。
 当時はストレート研修でしたし、北海道内には3大学しかありませんので、関西のように自由に大学病院を選べるわけではありません。私としては折角、北海道の大学に進学したのですから、すぐに関西に戻ったり、東京に行くのは癪に障りました(笑)。一方で、私はどんな専門分野を選ぶにせよ、心臓が止まっている人などに、初期治療ができる医師になりたかったんです。そのためのトレーニングはストレート研修の大学病院では無理ですし、かと言って、そういったトレーニングを積める病院は当時の北海道には徳洲会か、民医連の病院ぐらいしかありませんでした。それで、年間2000台もの救急車が来る札幌徳洲会病院を選びました。


◆ 札幌徳洲会病院での研修はいかがでしたか。
 3日に1日の当直で、連直もありました。先輩は最初のうちしかついてくれませんでしたね(笑)。ですから、私の原点は救急医療なんです。そのうち整形外科の手術や外来、内科外来も担当するようになりました。1年ぐらいするうちに、ほとんどの症状を経験できましたよ。その中で、外科や泌尿器科に興味を持つようになりました。


◆ 専門を慢性腎臓病にされた理由をお聞かせください。
 外科はがん治療が嫌だったので、泌尿器科を希望するようになったのですが、泌尿器科は医師が少なかったので重宝されたんです。北海道では腎臓内科医があまりいませんので、透析は外科医と泌尿器科医の担当なんですね。私も一人前の泌尿器科医になるためには透析を理解しておかないといけないと思い、本を読んだり、先輩に教わりながら勉強していきました。そのうちに透析を面白く感じるようになったんです。亡くなりそうだった患者さんが2、3日のうちに復活するのを目の当たりにして、これを専門にしたいと考えました。


◆ 東京女子医科大学東医療センターに移られたのはどうしてですか。
 札幌徳洲会病院では3年間の研修を終えたら、1年は病院が基本給を出してくれて、ほかの病院で1年間の研修ができるという制度がありました。今後、北海道に戻るにせよ、一度は東京で勉強した方がいいと思い、札幌徳洲会病院の上司が女子医大の医局出身ということもあって、女子医大にお世話になることにしました。東医療センターは当時はまだ東京女子医科大学附属第二病院という名称で、教授も第二病院に移られたばかりでしたので、医師数が少なく、多彩な勉強ができそうでした。


◆ 透析をメインでなさっていたのですか。
 驚いたことに、透析室がなかったんです(笑)。ICUの設備も古かったのですが、その1床を透析用に改修しました。そこから透析に張り付きになりましたね。ほかの医師も忙しくしていましたから、私がメインで行い、後には透析室のマネージメントも担当しました。着任してすぐに、腹膜透析も始めたのです。


◆ 腹膜透析を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
 着任して1カ月後の5月に教授が腹膜透析の手術をすることになり、私は見たこともありませんでしたが、一緒に入ったのです。女子医大の本院から8人の患者さんがいらっしゃいました。当時の私は東京の医師は腹膜透析も血液透析も診ているのだと思っていましたが、数年して違うと気づきました。腹膜透析に関わっている医師は非常に少ないのです。それで、最初は1年という約束でしたが、それが2年になり、3年になりと、長く関わることになりました。外来も、透析手術も一人でやりましたし、腹膜透析や血液透析のトラブルもほぼ経験しましたね。きちんとした教育を受けたわけではありませんが、医師間の仲間意識が強かったので、皆で頑張りました。


◆ 在宅医療に興味を持たれたきっかけはどんなことだったのでしょう。
 腹膜透析は在宅でできますが、血液透析は終末期には向きません。透析の患者さんは脳卒中のリスクが高くなりますし、骨折で入院されることもあります。腹膜透析の患者さんは在宅で透析できるし、ご家族もできるのですが、血液透析の患者さんは動けなくなると入院せざるをえません。しかし、腹膜透析の患者さんも薬剤の処方は医師でないとできないので、ご自宅に誰かが診にいかなくてはいけないんですね。転院した途端に亡くなる方もいますし、透析を途切れさせることはできませんから、私がクリニックのレベルでできることをやろうかなと思うようになりました。国は在宅医療や訪問診療に力を入れるという政策を打ち出していますが、透析を行っている医師はゼロに近いですね。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 勤務医は勤務医で楽しかったです。仲間がいて、先輩がいて、一体感がありました。透析には正しさの根拠も乏しく満点もありませんが、皆で知恵を凝らして何とかしようと思っていましたね。透析は教授であっても、見落としがないかどうか、細かくチェックをします。だから、腎臓内科には偉そうな人はいないんです(笑)。


開業の契機・理由

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 勤務医生活に不満があったわけではありませんが、在宅での透析治療をサポートしていきたいという気持ちが強くなったんです。特に腹膜透析の領域に関してはほとんど全てのトラブルに対応できますし、外来に関しても毎日のお仕事の帰りに気軽に立ち寄れるクリニックにしたいと思いました。


◆ 開業にあたっては腹膜透析をメインにしようと考えていたのですか。
 腹膜透析の患者さんは絶対数が少ないんです。そのため、ビジネスとして回していくことは難しいと思いました。土地勘のないところで開業するリスクも取れなかったですし、最低限の資金で利益を出すことを考えました。そのため、最初は勤務医との二足のわらじを履くことにしました。王子病院は以前からのアルバイト先でしたし、腹膜透析を行っています。それで、東医療センターを退職し、王子病院で腎疾患部長と透析診療部長に就任したんです。平日の昼間は王子病院で勤務医をして、平日の夜は開業地で外来を行い、土・日曜日に訪問診療を行うという計画を立てました。


◆ 開業地はどのように決められたのですか。
 東医療センターに通いやすいので、ずっと北区に住んでいたんです。王子は行き帰りの通り道でしたので、王子で探すことにしました。私は鉄道が好きなのですが、乗降客が乗り換えたり、バスに乗ったりするという流れに興味があるんです。銀座や青山でしたら分かりませんが、王子には馴染みがありますから、人の行動が読めました。飲み屋さんもほぼ全て行ったことがありますしね(笑)。この場所は不動産屋さんからの紹介です。以前は歯科医院が入っていたのですが、院長先生がご病気になられたということで、空き物件になっていたのです。


◆ 開業地をご覧になっての第一印象はいかがでしたか。
 歯科医院ですからレントゲンのシールドもできていましたし、もとあったパーテーションも容易に外せたことも良かったですね。ただ、王子駅からの坂道は少し気になりました。でも、大家さんから「歯科は競争相手が多いから、今回は是非、医科に入ってほしい」と熱心に言っていただき、この場所に決めました。


◆ マーケティングはなさいましたか。
 最初は夜だけの開業でしたから、患者さんの数は全く見込めませんでした。患者さんは線路をまたがないものだとも聞いていましたが、データはありませんしね。ただ、王子病院での外来を10年以上してきた中で、若い患者さんから「夜8時、9時までやっているクリニックがあれば」と聞いていたことはヒントになりました。医療圏調査をすることはなく、とにかく通勤している方に来ていただければと思っていました。


◆ 開業までに、ご苦労された点はどんなことですか。
 苦労のし通しで、開業の9カ月前あたりからの記憶がないほどです(笑)。開業についてのノウハウを全く知らなかったので、レントゲンにしても問屋さんに連絡するのではなく、メーカーに直接、電話したりしていました。そういった取引先にばらばらに当たっていったので、とても時間がかかってしまいましたね。一番、苦労したのは薬の値引きの交渉です。自分が悪人になったかのような気がしました(笑)。銀行との交渉も大変でした。腹膜透析を専門にしていたり、夜だけの診療を行うクリニックへの融資は前例がないし、成功する根拠はと問われましたが、私にも根拠はありませんでしたしね。でも、最低限の融資をお願いできました。


◆ 医師会には入りましたか。
 東京都北区医師会に入りました。北区の場合は加入料が安い方でしたので、良かったです。最近、機能強化型の在宅療養支援診療所になりましたので、東京都や北区の行政の方々との交渉が多くなりました。


◆ 開業当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 私と非常勤の事務スタッフが1人です。看護師は非常勤で4人いて、1日1人ずつ入っていました。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 レントゲン、心電図、尿検査装置、遠心分離器、電子カルテといった最低限のものを揃えたぐらいです。電子カルテに一番、お金がかかりました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 弟が設計・施工の仕事をしていますので、相場の半分ぐらいで仕上げてもらいました。若い患者さんを想定した内装にしています。女性の患者さんが来やすい雰囲気にしたのがこだわりでしょうか。女性が来れば、男性は勝手に来ますからね(笑)。ただ、女性と男性の部屋を分けるわけにはいきませんから、女性と男性が見合うことがなく、滞在時間も短くできるような動線に気を配って設計しました。


クリニックについて

◆ 診療内容をお聞かせください。
 内科診療を行っています。中でも、血圧の異常、コレステロールの異常、血糖値の異常、メタボリック症候群などの生活習慣病のほか、慢性腎臓病の治療を専門にしています。慢性腎臓病については、進行をできるだけ食い止めるための治療に加え、腎臓移植、血液透析、腹膜透析などの将来的な腎不全の腎代替療法の計画を立てていくサポートを行っています。腹膜透析は治療の全てを私どもで対応可能です。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 地域貢献のため、午前は朝7時30分から、夜は10時までの外来を行っています。都内で一番早く開けようと思って、7時30分に設定しました。スタッフ一同が医療の原点を「癒し」にあると考えています。明るく、優しい笑顔を何よりも大切にしています。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 時間帯によりますね。夜は若い方が中心です。小学生、中学生もいらっしゃいますよ。若い方は風邪で来られることが多く、40代、50代の方は生活習慣病が多いですね。


◆ どのような健康診断を行っていらっしゃいますか。
 雇入れ時健康診断、定期健診などの企業健診、受験や入学時に必要とされる健診のような一般的な健康診断のほか、北区民を対象とした北区特定健康診査も実施しています。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 明理会中央総合病院、板橋中央総合病院、帝京大学医学部附属病院と連携しています。開業前にはご挨拶に伺いましたよ。急な入院などをお願いすることがありますが、スムーズな連携が取れています。


◆ 経営理念をお教えください。
 私どものミッションは「私たちは、地域のひとびとが、今日をよりよく生き、明日にさらなる希望を持ち続けられる社会の実現を目指し、医療人として私たちが提供しうる医療サービスを常に考えつづけ、常にそれらを実行し続ける」というものです。
 また、「行動の理念」も設定しています。「私たちは誠意を尽くす」、「私たちは時間を大切にする」、「私たちは決断した計画を実行する」、「私たちは職員相互に最大限の評価を与え合う」、「私たちは医療の職にあることを誇りとする」の5つです。特に「時間を大切に」に拘っています。患者さんの中には待ちたい方や特定の従業員と話したい方もいらっしゃいますが、基本的にはお待たせしないようにしています。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 開業前に徹底したのが道順の案内です。カーナビに入力しても、きちんと案内されないこともありますので、電話での案内は大事ですね。マニュアルを作ってしまうと、マニュアル通りの言葉遣いになってしまいますから、スタッフには時間があるときには近辺を歩いて、自分の言葉で道案内ができるようにと伝えています。
 クリニックはラーメン屋さんと似ていると思います(笑)。お腹が空いたからラーメン屋さんに入るように、急にお腹が痛くなったり、熱が出たからクリニックに行くんです。そのためには立地が良く、常に開いていて、待たなくてもいいことが前提です。ラーメン屋さんで味噌ラーメンと塩ラーメンを2杯食べる人はまずいません。味噌ラーメンがまずかったら、もう次はないんですね。クリニックも同様です。進んでファンになっていただく必要はありませんが、患者さんを不快にさせないような対応が必要です。7割は受付で決まると思っています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 患者さんの来院動機の95%がホームページからですので、キーワードの設定には工夫をしています。お蔭様で「王子 内科」や「北区 内科」では上位に表示されるようになってきましたし、観光や出張で池袋や新宿にいらしている方が「京浜東北線 内科」などのキーワードで検索されて来院されることもあります。


開業に向けてのアドバイス

 私は開業にあたっては誰にも相談しませんでした。相談したら、きっと止めておけと言われたような気がします(笑)。実際に、この付近にも10軒ほどのクリニックがあり、その半数が内科です。それでも、自由に働くことが自分に向いていると思っていたので、開業に踏み切りました。開業後はどのぐらい休めるか、家族と旅行に行けるかといった心配したり、開業したら儲かりそうだから、在宅医療は良さそうだからというぐらいの理由なら勤務医の方がいいですよ。給料が半額になっても、休みがなくなっても、やりたいことを追求したいという方が開業すべきだと思います。私は週に110時間働いていますし、職員に給料を出し続けなくてはいけないという責任もありますが、外来はもちろん、訪問診療では色々な施設やご家庭に行くことでの面白さや楽しみがあり、興味が尽きません。

プライベートの過ごし方(開業後)

 上の子どもは高校3年生なのですが、下の子どもは5歳なんです。最近は下の子どもとピカソやゴッホの画集を見て、一緒に模写する時間を楽しんでいます。子どもが描く絵を見るのは面白いですね。土曜日の朝や日曜日はできるだけ一緒に過ごしたいと思っています。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

王子北口内科クリニック
  院長 船木 威徳
  住所 〒114-0022
東京都北区王子本町1-24-8
エスポワール王子1階
  医療設備 尿検査(定量)装置、デジタルレントゲン装置、心電図、腹膜透析装置、遠心分離器、電子カルテなど。
  スタッフ 11人(院長、常勤看護師1人、非常勤看護師4人、常勤事務1人、非常勤事務4人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 19坪
  敷地面積 19坪
  開業資金 1500万円
  在宅患者数の変遷 開業当初0人→3カ月後5人→6カ月後8人→現在30人
  URL http://www.oknaika.com/

2015.01.01 掲載 (C)LinkStaff

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