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芝皮フ科クリニック

須階 富士雄 院長

須階 富士雄 院長プロフィール

1962年に東京都中央区で生まれる。1989年に聖マリアンナ医科大学を卒業し、東京慈恵会医科大学皮膚科に入局する。東京慈恵会医科大学附属病院での研修を経て、1992年に東京慈恵会医科大学附属柏病院に勤務する。1993年に町田市民病院に勤務する。1996年1月に芝皮フ科クリニックを開院する。1999年に医療法人化し、医療法人社団珠玉会理事長に就任する。日本皮膚科学会会員、日本温泉気候物理医学会員など。

 東京都港区芝はJR山手線と京浜東北線の田町駅、都営地下鉄浅草線と三田線の三田駅を中心に栄えているエリアである。最近では再開発が活発に行われており、セレスティンホテル、中央三井信託銀行本社、NEC本社などの大型ビルが立ち並んでいるほか、賑やかな飲食店街も広がっている。
 芝皮フ科クリニックは田町駅、三田駅から徒歩3分程の場所に1996年に開業したクリニックである。「その方の持っている力を最大限に発揮できるような治療」を方針とし、一般皮膚科診療のほか、アトピー性皮膚炎などの難治性皮膚炎にも積極的に取り組んでいる。
 今月は芝皮フ科クリニックの須階富士雄院長にお話を伺った。

開業に至るまで

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 父が医師だった影響でしょうか。父は聖マリアンナ医科大学で循環器内科の教授を務めていました。母方の祖父も医師でしたし、医学部進学者が多い高校に通っていたことも大きいですね。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 ラグビー部に入っていました。勉強もそれなりに頑張っていました。私はなぜかマルチプルチョイスの試験が得意でしたね(笑)。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 中学生のときから空手を習っていたのですが、大学時代にも打ち込んでいました。全日本の大会に出場したこともあります。空手は今も続けています。


◆ 専門を皮膚科に決められた経緯をお聞かせください。
 大学時代に皮膚科の試験の成績が良かったこともあって、選びました(笑)。


◆ 東京慈恵会医科大学に入局を決められたのはどうしてですか。
 母校は父が勤務していたので避けたかったということがあります。慈恵医大を選んだのは父が慈恵医大出身で、皮膚科の教授を紹介してもらったからです。当時の聖マリアンナ医科大は慈恵医大出身の先生方が多かったこともあって、慈恵医大に入局するのは自然の流れのような感じでした。


◆ 慈恵医大の柏病院も経験されていますね。
 本院と分院を両方、経験するのは楽しいです。分院は本院に比べると雑用が少ないというメリットがありました。本院よりも医師数も少ないですから大変ではありますが、実地訓練になりましたし、経験を積むことができました。人間関係も密になりましたね。上司の先生をはじめ、下の先生方とも仲良くなりましたよ。


◆ 町田市民病院に異動されたのは医局人事ですか。
 そうです。町田市民病院ではかなりの数の手術をさせていただいたので、スキルアップに繋がったと思っています。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 大学病院では病棟管理も行っていましたので、時間内にきちんと終わることがなく、忙しかったですね。町田市民病院でもカンファレンスの準備などが大変でしたが、充実した勤務医生活を送ることができました。

開業の契機・理由

◆ 開業の動機をお聞かせください。
 皮膚科は開業するのが当たり前のような雰囲気もありましたし、私も入局したときから開業志向がありました。勤務医時代からアトピー性皮膚炎など、難治性の疾患に興味があり、都心の中で密度の濃い医療を行いたいと考えたのが開業にあたっての動機です。


◆ 開業地はどのように決められたのですか。
 地方で開業すれば患者さんの数は確保できるのでしょうし、当時は郊外で開業する方も少なくありませんでしたが、私は難治性疾患にじっくり取り組みたかったので、アクセスの良い都心での開業を目指しました。港区は空洞化が進んでいましたし、皮膚科専門医が少なく、内科や小児科の先生方が皮膚科も診るというケースが多かったのです。そこで、港区内で場所を探しているうちに、医療コンサルタントの方からこの物件を紹介していただきました。オーナーが医療ビルにしたいというヴィジョンをお持ちでしたので、オーナーから熱心なお誘いも受けました。


◆ 開業地をご覧になっての第一印象はいかがでしたか。
 三田駅、田町駅から徒歩3分程度と近いので、アクセスは申し分なかったです。医療ビルは構想の段階でしたし、まだ3階の内科しか開業していませんでした。院外処方が私どもの条件の一つでしたので、1階に調剤薬局が入居しているのは良かったです。ビルのオーナーがその調剤薬局は経営されていましたので、私どもとしては処方箋を出すだけでよく、負担が軽くなりました。2階に私どもが入り、その後、5階に耳鼻咽喉科、4階に歯科が入居し、医療ビルとしての形になりました。医療ビル内のほかのクリニックともいい連携ができており、患者さんをご紹介し合っていますよ。


◆ マーケティングはなさいましたか。
 診療圏調査を行いましたが、結果は芳しくありませんでした。1日の外来患者数の見込みが70人ぐらいと言われたのですが、都心ですから想定内でしたし、私としては一人の患者さんにじっくり向き合いたかったので、適切な数だという認識でいました。


◆ 開業するまでにご苦労された点はどんなことですか。
 資金調達でしょうか。銀行を回るため、事業計画書を作成したりという作業が大変でした。私の父は保証人にならないという決意をしていた人だったので、私の保証人にもなってくれませんでしたね(笑)。それで、母にアドバイスをもらい、銀行に定期預金の通帳を見せたりして、資金調達を行いました。
 それから保健所とのやり取りも苦労しました。最初は「三田皮フ科クリニック」という名称にしようとしていたのですが、こちらの住所が芝なので、「芝皮フ科クリニック」にするようにと言われました。また、妻が形成外科での自費診療を行うにあたっては別の入口を作るように指示されましたし、カルテ庫の位置なども細かく指導されました。


◆ 医師会には入りましたか。
 入っていません。医師会の趣旨には賛同できませんし、メリットを感じなかったからです。皮膚科は行政や学校の健診がありませんので、あまり関係がないんですよね。ただ、情報が入りにくいというデメリットがありますので、個人的なネットワークを大事にしています。


◆ 当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 看護師が1人で、事務が2人です。事務スタッフのうち1人がアルバイトでした。求人雑誌などで募集しましたが、スタッフ集めには苦労がありませんでしたね。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 顕微鏡、滅菌器、炭酸ガスレーザーぐらいでしょうか。ちょうど閉院されるクリニックから医療設備をかなりお安く譲っていただけることになり、鑷子や膿盆、挿管セットなどを頂戴しました。私どもとしては特殊な鑷子を購入するぐらいでしたので、幸運でしたね。かなりリーズナブルに済みました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 空手の師匠が「テーマカラーはイエローだ」と直感で決められたので、それに従いました(笑)。私どもの前は携帯電話会社のオフィスが入っており、スケルトン状態だったのですが、妻の高校の同級生がインテリアデザイナーをしていたので依頼しました。クリニックは消防法の制約を受けます。たとえば、カーテンと天井の間を空けないといけないといった細かい制約まであるのです。そういった意味では彼女は従来の仕事以上に神経を使ったと思います。最終的に、そういう細かいことは私たちも手探り状態で一緒に考えました。
 こだわりは待合室をダウンライトにしたことです。クリニックの待合室にしては暗いのですが、アトピー性皮膚炎などの患者さんは明るいところで他人の視線にさらされたくないのです。今ならLEDのライトが豊富にありますが、当時はまだありませんでしたので、かなり特殊な電球を使用することになりました。


◆ 自動ドアに布が貼ってありますね
 診察時間を過ぎてからいらっしゃる患者さんと目が合うと、ご案内しなくてはいけません。医師は患者さんを診たいですし、好感度も上げたいですから、スタッフにご案内するように指示してしまうんですね。ところが、スタッフは医師と同じメンタリティではありませんので、その繰り返しが離職原因の一つになるようです。そこでスタッフのことを考えて、一定の線引きをするようにしました。

クリニックについて

◆ 診療内容をお聞かせください。
 皮膚科と形成外科を標榜しています。皮膚科はアトピー性皮膚炎、イボやウオノメ、ニキビ、水虫などが多いですね。アトピー性皮膚炎では遠いところからも来院されますし、セカンドオピニオンのお申し出もあります。難治性疾患は一つの治療法だけでは解決しませんので、私もアプローチを変えながら取り組み、常に新たなステージへとステップアップを図っています。
 形成外科は週に4日、完全予約制で妻が担当しています。ホクロやおでき、皮膚科で治癒しない抵抗性のイボや芯の取れないウオノメに外科的治療を行うなどですね。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 近所にお勤め先やお住まいのある方が多いですし、アトピー性皮膚炎は遠くからも来られます。開業初日は雪が降ったこともあって、お一人もいらっしゃらなかったんですよ(笑)。皮膚科は天候に左右されますし、内科とは逆で、夏に多く、冬に少ないという傾向がありますね。ただ、私どもは1月に開業しましたので、患者さんが少ないときに慣れていきながら花粉症の季節を迎えることができたのは良かったです。


◆ 自由診療もなさっていますね。
 男性型脱毛症やビタミンC誘導体、にんにく注射、プラセンタ注射、シワの治療、ヒアルロン酸やボツリヌス菌注入などを行っていますが、ベースは保険診療です。自由診療は景気に左右されますので不確かなんですよね。今後はレーザーでも病的なものを除去するといった保険診療をさらに充実させていくつもりです。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 皮膚科は東京慈恵会医科大学附属病院、東京都済生会中央病院、国際医療福祉大学三田病院といった近隣の病院が中心です。形成外科は聖路加国際病院ですね。担当医が知人ですし、小児のレーザーがあるので、紹介する機会が多いです。また、美容外科にご紹介するケースもあります。


◆ 経営理念をお教えください。
 非常勤職員を雇用せず、全て社員化しています。雇用形態が様々ですと、雇用する側にもストレスがかかりますし、雇用自体も難しくなります。また、私どもは昼休みがなく、11時から19時までの勤務となっています。スタッフは昼休みを順番にとっています。朝9時からの方がいい面もありますが、スタッフがラッシュに遭うこともなく通勤できますから、募集にあたっては11時からの方が集まりますね。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 第二土曜日の午後は勉強会を行っています。全員が集まる貴重な機会ですね。私どもで受診できるピーリングなどを皆に受けてもらっていますし、私が興味を持っている最新の治療法を講義したりしています。
 私も年齡を重ね、丸くなってきたようで、少々のことでは動じなくなりました(笑)。これからも患者さんのために、自分自身も学び、進歩していきたいと思っています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 問診票の来院動機の欄を工夫し、患者さんが丸をつけやすいような質問項目や選択肢にしています。そこで来院動機をまとめてみましたら、ホームページ、電柱広告、口コミが多かったです。麻布地区には皮膚科専門医が少ないので、電柱広告は麻布地区を中心に出稿しています。三田地区、芝浦地区なども合計して30本ほどですね。電車の車内広告や駅の広告は効果に乏しかったので、行っていません。口コミに関しては、紹介元となってくださった患者さんにはお礼状を出しています。私どもは三田地区の皮膚科クリニックの中ではパイオニア的な存在でしたが、今は競合もでき、追われる立場になりました。ただ、競合のクリニックとはうまく住み分けができているようです。それでも、一人一人の患者さんに親切に、全力で診察に当たることが最大の増患対策ではないでしょうか。

開業に向けてのアドバイス

 こういう治療をしていきたいというヴィジョンを持ち、どこまでやるのかという線引きをしておくべきです。そのうえで、都心なのか、地方なのかといった場所を選定したり、専門に特化するのか、地域密着でいくのかといったスタンスを決めないといけないでしょう。皮膚科の場合は教科書に載っているようなスタンダードな治療だけではなく、原因不明の疾患も少なくありません。そうした場合に自分で工夫しなくてはいけませんので、勉強が大事です。まずは開業医に見学に行ったり、開業医での非常勤医師を経験するのがいいでしょう。
 開業のメリットは自分の城の中で自分の考えで治療を行えることにあります。勤務医時代は患者さんになんて不親切だったのだろうかと思えるほどですよ(笑)。難しさは人をお雇用することですね。医師は接遇のプロではないのに、接遇対策も行っていかないといけませんし、今も失敗しながら取り組んでいるところです。

プライベートの過ごし方(開業後)

 ビルの6階に格闘家の方が経営されているジムがあるので、週に2回、トレーニングに行っています。サウナに行くこともありますね。空手や古武道も続けており、教えてもいます。武術を極めるための修練は診療に通じるところがありますね。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

芝皮フ科クリニック
  院長 須階富士雄
  住所 〒108-0014
東京都港区芝5-16-1 千代ビル(SENDAI BLD)2F
  医療設備 顕微鏡、滅菌器、各種レーザー機器、レセコンなど
  スタッフ 7人(院長、副院長、常勤看護師2人、常勤事務3人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 約35坪
  敷地面積 約35坪
  開業資金 約1500万円
  外来患者数の変遷 開業当初10人→3カ月後30人→6カ月後50人→現在100人
  URL http://www.shiba-clinic.com/

2014.02.01 掲載 (C)LinkStaff

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