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坂根Mクリニック

坂根 みち子 院長

坂根 みち子 院長プロフィール

1962年に東京都府中市で生まれる。1988年に筑波大学を卒業後、筑波大学附属病院、筑波記念病院、きぬ医師会病院、茨城西南医療センター病院などで内科研修を行う。大学院修了後、筑波学園病院に勤務する。その後、総合守谷第一病院、おおたかの森病院に勤務する。2010年10月に茨城県つくば市に坂根M クリニックを開業する。日本循環器科学会専門医、日本内科学会認定内科医、日本体育協会公認スポーツドクターなど。

 茨城県つくば市は1960年代から筑波研究学園都市として開発が進み、現在は国内最大の学術都市となっている。つくば市が誕生したのは1987年で、筑波郡谷田部町、大穂町、豊里町、新治郡桜村の3町1村の合併による。さらに 1988年に筑波郡筑波町、2002年に稲敷郡茎崎町を編入し、現在の市域になった。市の北端に日本百名山の一つである筑波山、東には我が国第2位の面積を有する霞ヶ浦を擁していることから、水郷筑波国定公園に指定されている。また多数の研究機関も立地しているため、茨城県での主要な観光地になっている。2005年に首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスが開業し、市の中心部から最短45分で東京の都心部と結ばれている。
 坂根M クリニックはつくばエクスプレスのつくば駅からタクシーで7分程の場所にあり、市民の憩いの広場である洞峰公園に近接する。坂根みち子院長は循環器内科を専門にし、茨城県や千葉県の病院でキャリアを積んできたが、2010年10月に坂根Mクリニックを開業した。開業後は循環器内科のみならず、内科全般を扱っている。迅速な検査や診診連携、病診連携が充実していることが大きな特徴である。
 今月は坂根Mクリニックの坂根みち子院長にお話を伺った。


開業に至るまで

病院風景 ◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 小学校の卒業文集にも「医師になる」と書いていましたが、その頃は特別のきっかけがあったわけではありません。高校生のときに母が乳がんになったのが大きいですね。私は年子の三兄妹の3番目なのですが、上二人が学校や部活動で忙しかったので、母の入院中はお弁当や夕飯作りなどの主婦業を担っていました。その頃に兄から医学部受験を勧められたんです。当時の筑波大学の入試は1日目は科学論文を5時間半かけて読んで、論文を書き、2日目はグループディスカッションで、3日目が個人面接というユニークなスタイルでした。東大の理IIIなら受けていなかったですが、理系にはいましたけれども、中味は文系の私にはぴったりの内容でしたね。私たちは9期生で、まだできたばかりの大学でしたので、そういう入試が可能だったんでしょう。

◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 ユニークな入試を経て入学してくる人たちはきっと面白いだろうという予感があり、それも筑波大学を選んだ理由の一つでしたが、本当に面白い人が多かったですね(笑)。私はバレーボール部に入り、部活動か、皆で遊ぶかという大学生活でした。皆、学生宿舎に住んでいるので、共同生活みたいな感じなんですよ。料理を作って、皆で食べたり、楽しかったですね。

◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 部活以外は、とにかく仲間とワイワイ過ごす日々が楽しくて。勉強もあまりしませんでした(笑)。

◆ 卒業後はどのような研修を受けられたんですか。
 筑波大学は当時、ジュニアレジデント2年間、シニアレジデント2年間、チーフレジデント2年間というシステムを作っていました。私はチーフレジデントコースには行かずに、大学院に進学したのですが、最初の4年間で関連病院を回りながら内科研修を一通り行いました。最初の2年間ではすべての科を幅広く回って、次の2年間で重要な科を回り、自分の進む科での研修が始まります。今の臨床研修制度のはしりですね。医局も当時から既にナンバー内科がなく、臓器別に分かれていましたので、系統立てた勉強ができましたし、先進的な大学でした。

◆ 専門を決められた経緯をお聞かせください。
 ジュニアレジデントを終える頃に医局から勧誘が来るんですが、循環器内科はオーベンの先生方が魅力的でした。私は人の役に立ちたい、人が倒れていたら助けてあげたいという気持ちが強かったので、全身管理を行う循環器内科に惹かれました。医師である以上は全身を診たいですし、いわゆるマイナー科には興味がなかったですね。

◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 循環器内科はすごく忙しい診療科です。子どもが小さい頃は非常勤勤務でしたが、それでも夕方になると、病院を出てからの段取りを考えながら、常に走っていましたね。夫も勤務医で帰宅が遅いですし、仕事もしながら、一人で家事や育児もやっていました。いつでも寝たいという欲求がありましたよ(笑)。
 常勤に戻ったときに、オンオフがはっきりしないと無理だと気付きました。日中働いて、夜にまた呼ばれて、家では家事と育児があるわけですからね。それは女性医師のみの問題ではないと訴え、最後の勤務先では6人のシフト制を敷いたんです。オンコールも当番制にしましたが、お互いに不満を持たずに気持ち良く働けるようにするためにはシフト制しかないと思います。ただ、医局人事で動いている病院ではシフト制を敷くとなると、医局に負担がかかりますので、難しいですね。

◆ 各病院が循環器内科には力を入れていますしね。
 どの病院も生き残りに必死ですし、365日24時間体制で行っていますが、PCIは集約するしかないのではないでしょうか。自宅から遠い病院に勤務するとなると、呼ばれてもすぐには行けず、できる範囲でということになってしまいます。せめて夫が帰ってくれば当直に行けますが、それも難しかったですね。「女医さんはなあ」と言われますが、働く方も心苦しいんです。今後、男女ともにシフト制を敷いて、オンオフのはっきりした働き方を作っていかなくてはいけないでしょう。


開業の契機・理由

病院風景 ◆ 開業の動機をお聞かせください。
 循環器内科医としてシフト制をひいてオンオフのはっきりした生活をしたいというのは、医局にとってまだ時期尚早だと思ったからです。ただ、循環器内科は勤務医か開業医かで仕事の内容は全く異なります。勤務医は救急やインターベンションが中心で、開業医は生活習慣病の予防が中心です。勤務医はとても忙しいのですが、その分、遣り甲斐も大きくなります。そこを割り切る決心は必要ですね。
 私の場合は勤務医としての遣り甲斐を諦めてでも、開業医としてやりたいことが多くありました。狭心症や心筋梗塞の人がいたら、その原因である糖尿病や脂質異常症、高血圧のコントロールや禁煙指導をします。主婦や母親としても食育がポイントだと痛感していたので、そういった教育に関わりたかったですし、病気の種を見付けて予防する仕事もしたかったのです。祖父母の代からの遺伝的要因や環境要因を見極め、ご家族ごと引き受けて教育させていただくという仕事ですね。
 それから勤務医の負担を軽減したいという思いもありました。カテーテル治療後の患者さんやペースメーカー、DCの入った患者さんをお引き受けしています。心筋梗塞や狭心症の患者さんは大抵糖尿病や高血圧等の基礎疾患を持っていますので、果てしなく仕事はありますね。ただ、一人一人の患者さんに時間をかけてしまうのは今の日本の診療システムでは成り立たないんです。合併症が多いと診療に時間がかかりますが、それでは数が診れず、経営が成り立ちません。やればやるほど矛盾も目に付きますね。

◆ 開業地はどのように選ばれたのですか。
 自宅の近隣の土地が売りに出ていたので、購入しました。この土地が売られていなかったら、開業への決心はつかなかったと思います。研究学園都市内で環境もいいですし、つくばエクスプレスのつくば駅とJR常磐線のひたち野うしく駅を結ぶバス路線から少し入ったところですから、バスのほか、車でも自転車でも歩いてでも来ていただきやすい場所ですね。
 私の最後の勤務先は千葉県内で、つくば市内の病院ではありませんでしたので、患者さんを連れての開業は不可能でした。いわゆる落下傘開業ですね。それでも、子育て経験の中で学童保育やPTA、授業参観後の懇談会など、医師としての仕事以外に社会とさまざまな接点があり、バランス感覚が養えたと思います。そこに自信がありましたので、落下傘開業でも不安はありませんでした。

◆ 開業するまでにご苦労された点はどんなことですか。
 苦労したのは時間がないことでしたね。勤務先の病院でフルに働き、少し時間があると打ち合わせをしてという繰り返しで、打ち合わせしながら眠りそうになったこともありました(笑)。ベースラインとなるところはほぼ自分で設計しました。主婦ですから、無駄のない動線を考えることは得意なんですよ。

◆ 当初はどういったスタッフ構成でしたか。
 事務スタッフをうちでは医療秘書と呼んでいるのですが、医療秘書が2人、常勤の看護師が2人、非常勤の看護師が1人でした。看護師のうち1人は面接を行いましたが、あとの2人はもともとの知り合いに来てもらったんです。うちのクリニックは朝7時30分から診察を行いますし、仕事帰りの患者さんも対象にしていますので、拘束時間が長いんです。でも、スタッフ集めには苦労がありませんでした。

◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 急性期から慢性期までの患者さんを診るために、かなりの設備投資を行いました。急性心筋梗塞の方がいらっしゃっても、1時間以内に治療が開始できるようにつなぎます。メタボチェックや緊急採血も即座に結果を出せますね。レントゲン、心電図、心エコー、ホルター心電図、DCのほか、点滴用のベッドなども完備しています。
 開業コンサルタントは「最初は身軽に」とおっしゃるようですが、場所とニーズによると思います。このあたりは開業医も多く、医療過疎地域ではありません。そこで地域で何が求められるかを考え、医療圏予測や資金の借入限度を調べてもらうほかは全て自分で決断しました。医師としてのどれだけのキャリアがあるのか、どれだけ仕事をしてきたのか、どれだけの患者さんを呼べるのかということは自分が一番よく分かっているものですよ。

病院風景◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 全室に床暖房を設置し、もちろんバリアフリーにしています。採血スペースや自費診療の患者さん用の個室2室のほか、整形外科のための手術室も完備しています。待合室の上にある木は茨城県内の古民家から求めたけやきの古木です。地域振興のために、できるだけ地元の業者にお願いしたんですよ。クリニックのロゴは中学生の娘がデザインしてくれました。
 待合室にはBGMを流し、コーヒーなどのドリンクサービス(有料)を行っています。患者さんが「こういったサービスがあるし、先生にゆっくり話を聞いてもらいたいから、待ち時間があってもまた来たいです」と言ってくださるのは嬉しいですね。


クリニックについて

病院風景 ◆ 診療内容をお聞かせください。
 内科一般は何でも診ています。冬の時期はインフルエンザなどの感染症も多いですね。心がけているのは診診連携です。お蔭様でつくば市内の医師に知り合いが多いので、それぞれの専門性を理解しています。日本の開業医は専門性がありますし、勤務医の負担を軽減する意味でも、胃カメラなどは極力開業の先生にお願いしています。私も開業医の先生からご紹介をいただくことがありますが、心臓を診たらすぐに紹介元の先生にお返ししています。その積み重ねで信頼関係ができていくのではないでしょうか。
 更年期の女性を多く診ているのもうちのクリニックの特徴です。現在のアラフィフ女性は男女雇用機会均等法の第一世代です。彼女たちは仕事にも悩みが多く、まだ男性の家事参加が少ない世代なので、家事もして介護もして、子どもも思春期で大変、と四面楚歌なんです。病院に行っても、どこも悪くないと言われた人たちがうちの外来に来て泣かれるんです。精神科外来のようです。私自身も同世代ですし、彼女たちの悩みに寄り添うことができますし、鬱になる前に個々のケアを行わないといけないですね。女性の力がもっとうまく利用できれば、日本はずっと伸びるはずです。私としてはそのブレイクスルーをお手伝いしたいと思っています。

◆ 自費診療も行っていらっしゃいますね。
 サプリメントを点滴する外来やプラセンタ注射、ピアス外来等を行っています。点滴サプリに対するニーズは高く、つくば市外からもいらっしゃっています。自費診療で経営基盤を確保することは、やりたい医療を実現するためにも必要です。むしろ保険診療で無駄な点滴するほうが問題だと思います。

◆ 「せぼね外来」について、ご紹介ください。
 整形外科医である夫が月曜日の午前中のみ行っています。循環器内科にかかる高齢の患者さんは身体のあちこちが痛い方が多いので、整形外科診療はニーズがありますね。日本人は首が悪い人が多いですし、「せぼね外来」で専門的な診断や治療を提示させていただいています。

◆ 病診連携については、いかがですか。
 筑波大学附属病院、筑波メディカルセンター病院、筑波学園病院、筑波記念病院などと連携しています。筑波メディカルセンター病院は外来は極力かかりつけ医でという方針ですので、そこの受け皿となっています。また、この地域は東京に通勤される方が多く、東京の病院での手術を希望される方もいらっしゃいます。そのため、榊原記念病院や三井記念病院、葉山ハートセンターなどと連携することもあります。

◆ 経営理念をお教えください。
 「必要な人に必要な医療を」ということに尽きますね。過剰医療は次の世代に借金を残すことになりますので、行いたくはありません。

◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 クリニックの理念、私の考えを繰り返し伝えています。お金のためではなく、人のために働いているんだということですね。もちろん、お金がないと経営基盤が成り立ちませんが、営利企業と違うのはやはり人のためだということです。
 受付で印象が左右されますので、敬語の使い方や電話での受け答えといった接遇トレーニングには力を入れました。医師と話す時間は限られてしまうので、スタッフと話したいという患者さんは多いです。採血のところで話して、受付で話してという方もいますよ(笑)。これからも教育には力を入れていくつもりです。
 スタッフの子育てを応援したいと思っていますので、産前産後休暇や育児休暇などもきちんと保障しています。今の課題は一人の医療秘書が産休に入りますので、その期間だけ来てくれるスタッフを確保することです。

◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 最初はスタッフとチラシのポスティングを行い、仕事の終わりにミーティングして作戦を練っていました。かかりつけ医を決めていらっしゃる方は来られないでしょうから、まだ決めていらっしゃらない方がターゲットでしたね。
 ホームページの充実も心がけています。これも地元の企業にお願いしているので、リーズナブルですね。ただ、ブログを書く時間がないのが残念です。
 来院動機に関しては毎月、アンケートを集約しています。ホームページ、口コミ、ほかの医療機関からの紹介が多いです。医療関係者が多いのも私どもの特徴ですね。循環器ですから、特に看護師さんは知っている男性の先生だと抵抗があるようで、私どもを選んでくださっています。アンケートのみならず、自費の集計なども全てスタッフと共有し、きちんとフィードバックしています。


開業に向けてのアドバイス

 一番大事なのは、医療に対するぶれない信念だと思います。ただしコミュニケーション能力はとても重要です。特に患者さんの背景を聞き出す力がないといけません。そして地域に骨を埋める覚悟がないと、厳しいですね。一人の患者さんがクリニックを気に入ってくれると、ご家族やお友達が来てくれるようになります。そのためにも、専門だけを診て、ほかを診ないというのはいけません。多くのポケットを持っておいて、専門外でわからなければ積極的に他院を紹介しましょう。
 うちのクリニックでは胃内視鏡などで他クリニックに紹介するときは胃内視鏡の検査予約を取るように手配します。そうすれば、患者さんは直接検査に行くことができます。逆に私どもで心エコーやホルター検査をお受けする場合は1回目から検査に入ります。そうすることで患者さんの利便性を上げ、医療費も節約でき、長い目で見るとリピーターを増やします。
 私は開業にあたって、周囲の開業の先生方のところへ直接ご挨拶に伺い、診診連携をお願いしました。クリニックそれぞれが特徴を持つことはもちろんですが、ほかのクリニックの特徴を知っておく姿勢が大切ではないかと思います。


プライベートの過ごし方(開業後)

 朝7時30分からの診察ですので、夜は早く休みたいと思っています。そうすると、夜は食事の支度や家事などで忙しく、寝る前のひととき本を読むぐらいで終わってしまいます。時事問題に関する本や雑誌などを読んでいます。


タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

坂根Mクリニック
  院長 坂根 みち子
  住所 〒305-0056
茨城県つくば市松野木162-7
  医療設備 レントゲン、心電図、ホルター心電図、エコー、呼吸機能検査、血管年齢検査、呼気一酸化炭素濃度測定検査、睡眠時無呼吸症候群用簡易検査、電子カルテなど
  スタッフ 8人(院長、非常勤医師1人、常勤看護師2人、非常勤看護師1人、常勤事務2人、非常勤事務1人)
  物件形態 戸建
  延べ床面積 約480平米
  敷地面積 約660平米
  開業資金 約1億5千万円
  外来患者/日の変遷 開業当初 5人 → 3カ月後 10人 → 6カ月後 20人 → 現在 80人
  URL http://www.sakanemclinic.com/

2013.03.01 掲載 (C)LinkStaff

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