クリニックの窓教えて、開業医のホント

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患者中心の理念に基づく、心配りにあふれた医院

染谷 貴志 院長

染谷 貴志 院長プロフィール

 診察室に入ると、書斎のような部屋でYシャツ姿の医師が迎えてくれ、落ち着いた空間の中で診察や説明を受ける。待合室にはアロマオイルの香りが流れ、喉が渇けばお茶を飲む設備も整う。神奈川県川崎市にあるそめや内科クリニックは、患者がリラックスして快適に過ごせるような工夫が随所に施され、「患者中心」の発想でクリニックの運営が行われている。「病んでいる臓器だけを診るのではなく、患者さんの生活背景まで考慮して、その方のライフサポートをしていきたい」と語る染谷貴志院長に、開業の経緯や内装へのこだわり、後輩医師へのアドバイスなど、お話を伺った。

 1970年に千葉県に生まれる。1995年に東京慈恵会医科大学を卒業後、虎ノ門病院に11年間、勤務する。2006年4月に「そめや内科クリニック」を開設し、現在に至る。
 日本内科学会認定医、専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本医師会認定産業医など。


開業前後

病院風景

 染谷院長は東京慈恵会医科大学を卒業後、幅広い疾患を診たいと考え、虎ノ門病院に入職した。その当時からスーパーローテート方式を採用していた虎ノ門病院では、最初の2年間で全ての科をまんべんなく回り、次の3年間は興味のあった消化器を中心に経験を積む。そして、6年目からは肝臓を専門として、勤務医を続けていた。

 しかし、入職してから9年ほど経つと、「病院での仕事は、自分が医者になったときに持っていた理想と微妙にずれているのでは」と考えるようになったという。

 「私の大学の創始者は『病気を診ずして、病人を診よ』という言葉を残しているのですが、その言葉通り、私には『病んでいる臓器だけではなく、病に苦しむ人全体を診たい』という思いがありました。病院にいたら肝臓病についてはスキルが上がっていきますが、患者さんが普段どんな生活をしているかといったことまでは分かりません。しかし、地域密着型のクリニックでは、患者さんの家族も通って来たり、その人の生活背景も見えてきます。そうしたバックグラウンドまで理解して、ライフサポートをしていくためには、開業した方がいいのではと思うようになったんです。」

病院風景  それから、医療コンサルタントと相談をしながら準備を進めていったが、クリニックのオープンまでには1年以上の月日を費やした。

 「コンサルタントに『いいなと思う物件は数多くあっても、ここしかないというところは100軒のうち1軒しかないから、そういう物件が見つかるまでは、焦らずに探しましょう』と言われ、じっくり検討しました。梶が谷には以前、通っていた虎ノ門病院の分院があり、土地勘があります。また、患者さんが入院しなくてはならないときなど、病診連携が取りやすいということもあって、今の場所に決めました。」

 東急田園都市線の梶が谷駅から3分ほどの建物には、CDショップが入っていたが、そこを医院用に改装した。内装はコンサルタントが推薦する設計士など、4社から見積もりを取り、最終的に自宅の設計も担当し、自分のコンセプトを一番よく理解してくれていた企業に依頼することにした。

 改装を終え、2006年3月に新聞折込とポスティング、内覧会を行い、年度初めの4月にオープンした。インターネット上でのPRとしては、開院前にブログを始め、その後しばらくしてからホームページを立ち上げた。

 「職場で調子の悪い人がクリニックのサイトを見ることがありますよね。そのとき、突然、音が鳴ったら困るし、ムービーが流れて目的の情報になかなか辿り着かないと、いらいらします。そのため、トップページには音やムービーが流れないなどの配慮をしたり、クリニックの雰囲気を伝えるために、内部の写真を多く載せるようにしました。その後、ツイッターが出てきたり、YouTubeで動画配信が手軽にできるようになったりして環境が変わったため、4年ほど経った頃に全面的にリニューアルしました。」

 患者数は当初、1日13人ほどだったが、こうしたPRや口コミで半年後に30人、1年後に50人程度と、順調に伸びていった。


クリニックの内容と特徴

病院風景

 染谷院長は、「患者中心」の理念を掲げ、患者が気軽に安心して受診できる雰囲気づくりを心がけている。

 「診療のときに意識しているのは、専門用語を多用せずに、できるだけ分かりやすく話すということです。患者さんは用語が理解できなくても、ついうなずいてしまい、実は内容が伝わっていないということがよくあるからです。また、説明の際には資料も一緒に見せて、納得しやすいように工夫しています。例えば、薬については『今日の治療薬』というCD-ROMを用意して提示するなど、求められればできるだけ『No』とは言わずに、要望に応じるようにしています。」

 「患者中心」の考えは、内装の様々な面にも現れている。

 「クリニックに改装する際は、なるべく病院らしくなく、緊張しないですむ落ち着ける空間を目指しました。設計士には北欧のホテルのイメージでデザインをお願いしています。」

病院風景  診察室はダークブラウンの木を多く使用し、ベッドもグレーのソファーベッド、照明も少し暗めにしてあり、落ち着いた書斎のような雰囲気だ。壁にはシルクスクリーンのブルーの絵が掛けられ、緊張感を持たれないように院長も白衣を着ていないので、患者は家に招かれたような感じがする。

 大きな木の机は弓形になっていて、医者と患者さんが気軽に話せるように、横に並んで座る形だ。患者さん用の椅子もよくある丸椅子ではなく、肘掛がついていてゆったりと座れるものを用意した。患者さんの前には、大きなパソコンのモニターが2つ置かれ、そこで電子カルテや資料を見られるようになっている。また、診察室のドアは引き戸ではなく、内側に開くドアが付けられている。

 「引き戸だとスペースは節約できますが、音が漏れやすいので、あえて開け閉めするドアにしました。内開きにしたのは、私が自分で開けて患者さんを招き入れるようにするためです。そうすると、一人呼ぶ度に待合室で待っている人が見えるので、患者さんの様子がすぐ分かります。特に調子が悪そうな方がいるときには、看護師に『処置室で休ませてあげて』と指示を出すこともできますしね。」

 待合室も書棚があったり、グリーンが置かれていたりと、リラックスできる雰囲気だ。アロマオイルの香りが流れ、お茶が飲める給水設備も備えている。壁際に並ぶブルーの椅子は北欧から取り寄せたものだが、日本人の体型に合わせて、お年寄りでも立ちやすいよう、足を4cmほど切って高さを調節した。このようにインテリアにも随所に患者への細かい配慮がされている。

 そして今後は、今も行っている訪問診療を強化していく考えだ。

 「日本は将来、高齢化が確実に進みますが、今の情勢ではお年寄りが満足いくようなホームに入所できるとは限らず、在宅で療養する人が増えていくでしょう。そのため私も今後は訪問診療のスキルをアップさせていくつもりです。しかし、自分一人で行うのは無理があるので、信頼できる医師同士で協力し合い、当直などを順番に行えるチーム医療のようなシステムができないかと模索しています。」


院長のプライベート

病院風景 開業医になってからプライベートの時間がある程度、とれるようになったので、休みの日は学生時代からやっていたラグビーを続けています。子ども向けのラグビースクールのコーチもしていて、子どもたちの成長を見るのがとても楽しいですね。また、読書も趣味で、経済関係の硬いものから雑誌や漫画まで、幅広い分野の本を読みますよ。美味しいものを食べたり、お酒を飲みに行くのも好きで、各種の交流会にも顔を出すようにしています。


開業に向けてのアドバイス

病院風景 セミナーなどでよく話すのは、「勤務医に疲れたから開業」という消極的な気持ちだと、必ず失敗するということです。今は開業医の数も増え、患者さんの需要も大きく伸びることは期待できません。以前だったら、経営が軌道に乗るまで2、3年だったのが、5年かかることもありますし、それ相応の覚悟が必要です。また、人を雇う立場になり、人間関係の調整も自分で行わなくてはならないため、勤務医時代にはなかった苦労も多くなります。そういうメンタル面のストレスも大きく、自分が体調を崩せば継続していけないというリスクもあります。そうしたことを全て覚悟した上で懸命にやれば、患者さんはついてきてくれますので、開業する意義はあると思いますね。


タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

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平面図

クリニック概要

そめや内科クリニック

  院長 染谷 貴志
  住所 〒213-0013
神奈川県川崎市高津区末長45-1
  医療設備 -
  物件形態 -
  延べ床面積 -坪
  開業資金 -万円
  URL http://www.someya-clinic.jp/

2010.09.01.掲載 (C)LinkStaff

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