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腎機能低下を防止し、最先端の透析治療で「元気に長生き」

生井 明治 院長

菅沼 信也 院長プロフィール

 1971年に静岡県で生まれる。1997年に国立旭川医科大学を卒業後、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター腎臓内科に入局する。その後、新宿石川病院内科、東日本循環器病院(現・海老名総合病院)腎膠原病センター勤務などを経て、2008年10月に「腎内科クリニック世田谷」を開設し、現在に至る。臨床腎臓病学を専門とし、特に慢性腎不全の治療を得意分野としている。

 2009年末現在、日本では末期腎不全のために透析治療を必要とする患者は29万人を超え、増加の一途をたどり、透析患者の総人口に対する比率は台湾に次いで世界第2位となっている。こうした現状を変えるには糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防や治療、そして慢性腎臓病の対策が重要だ。1997年に東京女子医科大学の腎臓病総合医療センターに入局後、一貫して腎臓病、透析医療に携わってきた菅沼信也院長は2008年に東京の世田谷区烏山地域で初となる保存期慢性腎不全への加療と維持透析も可能な「腎内科クリニック世田谷」を開設した。開設以後、腎機能低下を防止する治療やAFD(無酢酸透析)、HDF(血液透析濾過)療法など最先端の透析療法で目覚しい実績を挙げている。


開業前後

病院風景 菅沼院長が腎臓内科に興味を持ったのは旭川医科大学に在学中、日本の透析医療は世界一と聞き、「この分野で日本のトップを目指せば、世界一になれるのでは」と思ったのがきっかけだ。人工臓器にも興味があり、その中でも特に発達していた人工腎臓には先進性を感じていた。そして東京女子医科大学に見学に行き、立派な透析設備があるのを見て、さらに勉強してみたいという意欲が湧いたという。

 「透析医療がなかった時代は末期腎不全になってしまうと、腎臓移植でもしない限り、その患者さんを救う道はありませんでした。透析によって、そうした患者さんの命が救われるようになったというのは素晴らしいことです。また末期でない方もできるだけ透析をしなくて済むように、進行を遅らせるお手伝いをできればと思いました。」  

病院風景 開業については、入職した東京女子医大で学位や専門医の資格を取って、一段落したところで考えるようになった。

 「大学病院には研究、臨床と教育という3つの機能がありますが、自分が何に興味があるかを考えたら、やはり臨床が一番好きだったんですね。また腎臓内科は開業してから腎生検は不可能ですが透析医療もできますし、大きな病院と同じような仕事を続けられます。私のこれまでのキャリアを生かせると思い、独立することにしました。」

  菅沼院長の実家は長野県飯田市にあり、両親が内科の病院を経営している。そのため、開業地として飯田市も検討したが、人口がわずか10万の地域に透析施設が4施設もあることが分かる。次に検討した世田谷区烏山地区には透析施設が一つもなく、診療圏調査でも非常に良好な数字が出た。透析施設には多くのベッドを並べる広いスペースが必要で、週に3回通わなければならない患者さんに便利なように、駅から近い場所が望ましい。しかし、京王線の千歳烏山駅周辺は小さな建物が多く、なかなか適当な物件が見つからなかった。その間に埼玉県での開業も検討したが、2、3年かかって結局、駅から5分の今の場所に落ち着くことになる。「透析施設は投資額が億単位になるので、普通の開業よりもリスクが大きいため、失敗は許されません。場所はとても大事なので、妥協はしない方がいいですね。」  

 開業時のPRはホームページやブログを開設し、ポスティング、内覧会を行った。内覧会の数日前には、新聞の折込チラシも配布している。「最初は1階の透析室だけでオープンし、7床からスタートしています。その後、患者さんが増えたので、エレベーターをつけて2階を増築するなど、少しずつ改装を行い、ベッド数は今では29になりました。」

クリニックの内容と特徴

病院風景  腎内科クリニック世田谷は腎臓内科、人工透析内科、糖尿病内科を標榜しており、腎機能低下(透析)防止のために、食事療法、薬物療法を中心としたあらゆる治療を実施している。また、透析が必要となった患者さんには、AFD(無酢酸透析)、間歇補液HD(血液透析)、HDF(血液透析濾過)療法などの質の高い透析療法を行っている。

  施設の特徴は、道路から駐車場、院内に至るまで完全なバリアフリー設計にしていることだ。また、受付カウンターを挟んで右側が一般の患者用、左奥が透析患者専用と待合室が2つに別れ、透析患者のプライバシーが守られるように配慮されている。さらに除湿、加湿、脱臭、集塵という4つの機能を備えた空気清浄機および加湿専用器を複数設置し、感染症の予防にも努めている。

病院風景 透析医療にも様々な特徴があるが、腎内科クリニック世田谷では、患者さんに食事をしっかりとってもらい、その分、透析を多めに行うという方針をとっている。

 「日本の透析医療は世界一と言われていますが、透析患者さんの平均余命は一般の方の半分くらいしかありません。それを少しでも伸ばすためには患者さんにしっかり食事をとっていただき、その分、透析をきちんと行うことが大切です。透析患者さんによく『食事の制限をしなさい』と言う人がいますが、それは間違いです。肥満指数のBMIは通常、22の人が最も長生きすると言われています。しかし、透析をされている方はBMIが24~26と、22より高い人の方が余命が長いというデータが出ているんです。そのため、私は『よく食べなさい』と言うようにしています。そうすると、尿素窒素、カリウム、リンなどのデータが上がったり、血液が酸性になったりしますが、それに対しては透析量を増やすことで対処します。透析量が多い方がより長生き出来る事も良く知られていま
す。」

 透析は最先端の方法で行われる。まず、血液透析液として、代謝性アシドーシス(血液が酸性になる事)の改善に優れ、透析中の血圧低下や透析後の疲労感をきたしにくい 酢酸(アセテート)フリーの最新透析液カーボスターを使用している。そして、計画逆濾過補液も可能な生理食塩水の代わりに、エンドトキシン測定感度未満の超純水逆濾過透析液を用いる全自動透析装置を採用している。この透析装置を使用し、間歇補液血液透析を無酢酸透析液で行ったところ、非常に優れたデータが出た。菅沼院長はこの結果を2010年6月に行われた日本透析医学会総会などで発表している。

 こうした最先端の治療の結果、「元気で長生き」という医療理念が単なる言葉だけに止まらず、データとしても現れている。

 「日本透析医学会が毎年実施している『わが国の慢性透析療法の現況』という調査で、全国平均の年間粗死亡率が公表されますが、当院はそれを下回る、とてもいい成績を出しています。当院外来維持透析患者さんは現在90名に達していますが、これまでにお亡くなりになったのは既に透析歴30年を超えていた方や末期がんだった方など3名のみです。世の中には透析を行っている施設は非常に多く、どこも同じような治療をしていると思われていますが、それは大きな間違いです。今は糖尿病など生活習慣病が増えたことにより、専門医の供給が需要に追いついていません。クリニックによっては専門医でない医師が雇われ、看護師や技師さんが透析を行うだけと思われるようなところもあります。レベルに大きな差があるので、患者さんにはきちんとしたところを選んでいただきたいですね。」


院長のプライベート

 以前、勤めていた病院の院長がゴルフが好きで、誘ってくださっていたので、勤務医の頃は行くこともありました。今は残念ながら、忙しくて出かける暇がありませんが、いずれ落ち着いたら、打ちっぱなしなどに行きたいですね。



■ 開業に向けてのアドバイス

病院風景06  当院ではHD(血液透析)以外に、HDF(血液透析濾過)という方法を導入しています。HDFの方が生命予後が良いと言われていますが、高価な透析装置を使う必要があったり、保険上の制約があるんです。また、HDFは主にオフラインHDFとオンラインHDFがあり、2010年オンラインHDFも保険請求可能になりました。ところが、保険点数はスタンダードのHDが一番高くて、オンラインHDFが一番低くなっています。つまり、最も優れた透析方法の一つであるオンラインHDFが保険点数上最も利益が少なく、スタンダードのHDしか行っていない普通の透析施設が最も利益を上げることができるんですね。HDFを行っている患者さんは現在、全国平均で5%程度しかいらっしゃいません。
  当院は利益が少なくても、この平均値をはるかに上回る形でHDF療法を行っています。開業を考えている先生には利益だけにとらわれず、患者さんにとって最善と思われる方法で治療を行っていただきたいですね。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

腎内科クリニック世田谷

  院長 菅沼 信也 氏
  住所 〒157-0062
東京都世田谷区南烏山4-21-14
  医療設備 尿自動分析装置、各種血液検査装置、心電図測定装置、レントゲン装置(CRシステム採用)、超音波診断装置(カラードップラー)、血圧脈波検査装置(動脈硬化の程度が分かります)、レセプトコンピューター、自動対外式除細動器(AED)、空気清浄機及び加湿専用器
  物件形態 -
  延べ床面積 透析室は215㎡
  開業資金 -
  URL http://www.jinnaika.com/
地図

2010.08.01.掲載 (C)LinkStaff

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