神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年 世田谷区医師会副会長就任
2000年 世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年 日本臨床内科医会理事就任
2004年 日本医師会代議員就任
2006年 NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年 昭和大学客員教授就任


1950年 長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年 日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、
運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年 米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年 特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年 神津内科クリニック開業。

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「念ずれば通ず」ということ

 最近知ったのだが、東京の環状七号線の速度規制がいつの間にか「50km/h」となっていた。以前にもここで「環七40km/h速度規制の矛盾」について書いたことがあって、私にとっては、現状にmatchしない行政施策のやり玉に挙げていた問題だった。

 それで「看護実践の科学」という月刊誌にこんなことを書いた。

 東京に住んでいる人にとって、「カンナナ」といえば「環状七号線(環七)」とすぐ分かる。ちなみにカンロクは環状六号線。環状五号線はカンゴとはいわないで「明治通り」と呼んでいる。皇居を中心にぐるっと回り込むように走っている大きな道路を環状線と呼び、実際には環七は都道318号線なのだが、誰もその名前を呼ぶ事はない。都内で「都道318号線はどっち?」と聞いても、答えられる人はごく少数だと思う。

 さて、その環七の制限速度が40km/hだということを知っているだろうか? 恐らく、こうした国道並みの広い一般道を40km/hで走っている車は稀だろう。実際に、環七の車の流れは平均50〜60km/hだ。私がアメリカから帰ってきて、アメリカは違反に厳しい国なので、その癖で40km/hで走行していたら、後ろにずらりと車が並んでしまって、クラクションを鳴らされてしまった。まさにひんしゅくをかう、という行為だった。その後はすぐに日本の走り方に慣れて、「ねずみ取り(交通取り締まり)」が行われている区間以外は、環七の車の流れを妨げる事無く運転が出来るようになった。しかし、道路の車の流れを妨げるような制限速度が適正か、という疑問が残る。昔々、恐らく道路の舗装も良くなくて、車道と歩道との区別も明確ではなく、車の性能も良くない時代に、トラックなどが町中で走行する際には、歩行者保護の意味からも40km/hが適正だったのだろう。しかし、今は道路の舗装も良くなり、車の性能も飛躍的に進歩している。経済効率からいっても自動車輸送に社会が依存している状況だ。しかも、実際には誰も40km/hで走っていないのだから、この速度制限は50km/hに変更しても良いはずである。

 なぜ? 変更しないのか? それは昭和35年に出来た道路交通法を変更せずに、規制はすべて現場の警察官の裁量に任せるという慣習を改めていないからだと思われる。地方では一般道は60km/hとなっているから、「環状七号線最高速度制限40km/h規制」がいかに異常かが分かる。誰の目から見てもおかしい事がまかり通っているのは、警察でさえそのルールに重きを置いていないという事なのかと勘繰りたくなる。春、秋の交通運動週間の時だけはしっかりと取り締まって、後は警察の予算が無くなった時に「ねずみ取り(交通取り締まり)」をして稼ぐのに丁度良いか、と理解しているのかもしれない。区民も「捕まるなんて運が悪い」と、普通の日常生活では忘れているほどのルールだということになろう。だから、捕まった時にはそのルールの不合理性よりも「やれやれ運悪くやられてしまったか」と、少しの間ゲームで負けた時のようなバツの悪さを感じるだけですぐに忘れてしまうということになる。(後略)

(「看護実践の科学」2010年9月号)

 そこから派生した問題として、こんなことも書いた。

 環七が40km/hの制限速度になっているのはおかしい、と言い続けてきたが、最近になって、この速度制限が見直されると決まったらしい。「実勢速度」に合わせた速度制限にするという。それは当り前だろう。環七を40km/hで走っている車など見たことがない。車の性能もこの50年で飛躍的に向上したし、運転者のマナーも向上した。警察がネズミ捕りをするのに都合がいいからと、いつまでもそのままに制限速度をしているのは「愚の骨頂」だと気づいたのだろう。
 医療の世界でも、この制限速度は不具合を呈している。医療に関する法令は戦後に大きな改革がなされて以来、そのままになっている。病院の医師、歯科医師、看護師、薬剤師などの数は、昭和23年に定められた「医師等の人員配置標準」がそのままになっていて、今の日本の医療の「実勢速度」にまったく合致していない。

 地域医療が大切で、かかりつけ医としてどんな病気でも見てもらえるような、総合的な医療を提供する医師を望むという。内科医はいろいろな医療を提供したいと思う。ネブライザー吸入をしたり、頚椎牽引をしたり、温熱療法をしてあげたい。しかし、これらの処置をすると、内科医が診察料の一部として割り当てられている「外来管理加算」が取れなくなるという仕組みに診療報酬上の制度はなっている。やればやるほどマイナスになるというこの制度も「実勢速度」にあっていない。おかしいことが多い。
(本連載2009年6月号 http://www.e-doctor.ne.jp/contents/kozu/0906/)

 今、環七の速度制限が50km/hになるように何年も念じていた私にとって、「念ずれば通ず」という言葉通り、信念を持って長くその主張を繰り返せば、必ずや社会は変わっていくのだという、多少opportunisticな感覚を持つことが出来ている。

 さる5月19日、20日と「第9回国際疾病分類学会」が東邦大学医療センター大橋病院の臨床講堂で行われた。第1回が2002年なので今年が10年目にあたる。昨年の3.11東日本大地震による被害で多くの学会が中止になったのと同じように、国際疾病分類学会も中止としたので、来年の2013年が第10回の国際疾病分類学会となり、これが節目の学会になる。当初coding specialistを日本に根付かせ、その学術的back boneとしての学会を目指していた。もちろん、International classification of diseases (ICD)という国際ルールを日本に根付かせ、これをもって日本の医療の座標軸を世界の中で求めていく、医療の羅針盤とすることが大きな目標であった。

 しかし、日本という島国は、携帯電話でも「ガラパゴス携帯」といわれるように国際的な基準から大きく外れた発達の仕方を好んでしてしまう可笑しな国だ。ICDという100年の歴史のある国際ルールを使わずに、日本独自のレセプトコンピューター用の「標準病名マスター」を力技で作り上げたが、レセプトコンピューターそのものがすでに理論的に破綻をきたしていることは西山氏によって指摘されているところだ。
(本連載2008年6月号http://www.e-doctor.ne.jp/contents/kozu/0806/)
 以下は第六回国際疾病分類学会の時に、厚生労働省の技官と「レセプトとICD」についての講演で来られた西山氏とが控え室で会った時の会話だ。

西山:「レセプトオンラインなんていったって、こんなに日本のレセコンが問題を抱えているのに、どうやってやるんですか」
技官:「えっ? 何の話ですか?」
西山:「韓国なんか、きちんとICDに準拠してcodingも含めてデータウエアハウスの構築が出来てますが、日本は全くもって遅れているんですよ。」
技官:「いえ、知りません」
西山:「ええっ? 知らんのですか?」
技官:「誰もそんなことを我々にいう人はいません。中医協でもそんな話は出ませんから」

 今はもう私のクリニックでも2、3年前からレセプトオンライン請求になっている。若い開業医が増えれば、当然IT化が急速に進む。しかし、その中身自体、構築された理論的根拠のないままに、古い家屋をそのまま使って、建て増し建て増しで今に至っている状況だ。外からは新しくてきれいに見えても、中身は迷路のようなもの。一旦火事が起これば大惨事になりかねない。それが理解できているのなら、一度「TIME OUT」して性急に動くのを止め、各人の持ち場で現状が正しいかどうかを確認すべきではないだろうか。DPC(Diagnosis procedure combination)にしても、国際基準のDRG(Diagnosis related group)分類を採用せずに、欧米よりさらに複雑にしてしまったDRG/PPS(prospective payment system)であるDPC/PDPS(Per-Diem Payment System)について、お役所お得意の「足きり」をして「監査の道具」に使おうなどという邪な気持ちを捨てて、真の世界標準医療を目指すためのツールとして、正しい制度管理をすべきではないかと考える。このことについて、私は何度でも念じたいと思う。その思いが通じるまで、何度でも。

2012.06.01.掲載 (C)LinkStaff

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