ドクタープロフィール
神津 仁 院長
神津院長は昭和52年に日本大学医学部を卒業後、同大学第一内科に入局され、その後、神経学教室が新設されると同時に同教室へ移られました。医局長、病棟医長、教育医長を長年勤められ、昭和63年、アメリカのハーネマン大学およびルイジアナ州立大学へ留学。帰国後、特定医療法人佐々木病院(内科部長)を経て、平成5年に神津内科クリニックを開業された。神津院長の活動は多岐にわたり、その動向は常に注目されている。
2008年6月号
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「ここまで成り下がった日本が危ない」


「年寄りに早く死ね、というんですかね」
「お金がかかるから、あまり先生のところにきちゃいけないんですか?」
 この言葉は、実際に私の外来で患者さんから発せられた言葉だ。
 新聞やテレビでよく見るこの類の言葉は、編集者のつけたキャプションだと思っていたが、そうではないことに驚く。お年寄りにこんな言葉を吐かせるような国にいつ日本は 成り下がってしまったのか、情けないことだ。


 先日、日本青年館で第六回国際疾病分類学会が開かれた。私が理事長をしている学会の一つだが、今回の講演者の方々からはいろいろな啓示を受けた。
 柳韓大学保健医療福祉研究所日本事務局所長の西山孝之氏によると、日本のレセコンはいわば「バベルの塔」だという。一つ一つはしっかりとつくられているようだが、全体像を見ると、歪(いびつ)で不気味な形をしているのだと。
 西山氏は講演の中で、「日本のレセプトというのは、旧来から厚生労働省がつくり続けている『無秩序なルール』に基づいている。そのため、IT化する時代になっても、昔の紙ベースで行われていた診療報酬請求のやり方を、ただ単に電算化したというのに過ぎず、その計算方法そのものは各企業に野放図に任されている。ソフトの開発はその場しのぎだ。
 というのも、診療報酬の改正は、年度の最後の最後になって行われ、最近などは改正した後でも訂正や削除が行われるので、計算ソフトを作る方はとにかく医療機関の要望に応じて、その月から請求事務が可能なようにやりくりしてきた。その結果が、『バベルの塔』になったわけだ」と話す。
「だから、この中の情報というのは、単に請求方法の結果の集まりであって、一つ一つの医療情報を反映しているわけではない」「お一人様いくら、という情報はあるが、その人が受けた診療内容を個別に反映しているわけではない」のだと。
 これは、韓国のレセプトシステムと比較してみると良く分かる。
「韓国では、請求行為のコードは請求品目ごとに決めて、プログラムでの点数計算は不要とし、改定は点数あたりの金額変更で行い、レセプトデータの連続性を考慮している」 「韓国では、5年間の全レセプトがデータウェアハウスに蓄積され、薬剤や血液の使用状況、疾病ごとの各種医療情報を生み出し、これらのデータを基にした論文は世界の注目を集めている」
 つまり、コンビニに買い物に来る顧客の情報を管理するのに、買った品目の一つ一つにコードがふられて、それがコンピュータに入力されなければ、どの品目が最も売れたのか、顧客の年齢構成と品目の関係、天候との関係など、経営管理に関する情報は得られないことは常識で分かる。
 お一人様まるめでいくら、の情報しか得られないとしたら、その情報を管理する必要性はないし、そんなところに莫大な資金を投入していたら、担当者は首になるに違いない。
 それと同じ事が日本のレセコンで行われているのに、どうしてその担当者である厚生労働省の幹部がその責務を負わないのだろう。誰もそれに気付いていないのか、それとも気付いていないふりをしているのか、どうもよく分からない。そんなことも直視できない国に、日本は成り下がってしまったのだろうか。


 図1は、日本のレセプトだ。項目ごとに点数計算がなされているが、各項目を個別に認識することはなされていない。コンピュータ化されてもこの方式は受け継がれ、一つ一つに識別コードはふられていても、点数の記載は個々にはされず、まるめた結果だけが算定されるだけ。


 コンビニの商品管理に移し変えて説明すると、来客ごとの一連管理で、商品ごとの管理にはなっていない。こんな抜けたことをしている企業はありえない。

 西山氏は、これに関する改善策を示している。「現状の一連単位」の点数データを、診療行為または実施品目単位、すなわち「データ単位の点数表示」に変更することによって、この「ねじれ現象」をもとに戻すことが出来ると説明する。そのためには、韓国が今まで行ってきた「きちんとしたICD codingに基づく医療情報処理」を見習うことが最も早い近道である、と説いているのだ。

 そのためには、国も日本医師会もレセコン企業も一体になって、早急に事態を立て直す必要がある。
 韓国では、レセプトオンライン化がほぼ100%のようだが、二次元バーコードを付けたレセコン出力の紙レセプトもOKとし、その読み取りは公的機関が準備して代行入力している。各医療機関の持ち出しのないようにという配慮である。
「審査機関からみたら、医療機関はお客様ですから、十分な説明と十分な準備をさせていただくのは当然です」と韓国の審査機関は話しているとのこと。
 日本では、国が「これをやりたまえ、ん?オンライン化のための費用?そんなものは100万かかろうが200万かかろうが、こちらの問題ではない。そっちが負担しなさい」と言われるのとは雲泥の差だ。
 東京でのある調査によれば、2011年に「レセプトオンライン化」が制度化されれば、70歳以上の開業医1300人が診療を断念、開業医を辞めると答えている。石川県でも、同じように7%の開業医が診療所をたたむ、と医師会の調査で答えた。
 西山氏は「レセプトコンピュータそのものの誤謬があり、医療内容の情報収集のための基礎データになり得ないものなのに、それをオンライン化する意味があるのか?」と問い掛ける。
「それも莫大な国家予算=税金を使って…」


 この状況を何とか打開しなければ、日本の医療は誤った情報によって方向を失った船の様に大海原を彷徨うことになるに違いない。そうならないために、国を動かす人々は真摯に耳を傾けて西山氏の意見を聞かなければならない。これは日本にとって急務なのだ。これ以上成り下がらない為に…。


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