今年の初夢はどんなものでしたか?今年もCOVID-19で耐久生活を強いられるかと思うと、新年の明るさにも陰りが見えてしまいますが、若い先生方のエネルギーと希望は明るい未来です。それぞれの夢の実現に向けて計画を立てて頑張って頂きたいと思います。
さて、睡眠に関する情報は今までにもいくつかこのエッセーで紹介したが、最近また新しい情報がMedscapeに載っていた。パム・ハリソンが2022年10月7日に紹介している論説「Weighted Blankets Promote Melatonin Release, May Improve Sleep（加重ブランケットはメラトニンの放出を促進し、睡眠を改善する可能性があります）」だ。
ここで紹介された論文は、Journal of Sleep Researchに16 September 2022にacceptされたもので、Elisa M. S. Methがfirst otherの「A weighted blanket increases pre-sleep salivary concentrations of melatonin in young, healthy adults」という論文だ。Elisa Methはスウェーデンのウプサラ大学の博士課程の学生で、Department of Pharmaceutical Biosciencesに所属している。
加重ブランケットは、スカンジナビアとドイツの少なくとも一部の国で治療目的として一般的に市販されているという。
研究の内容は以下のようなものだ。まず、対象者は睡眠に問題のない健康なボランティア26人（男性 15人、女性 11人）で、全員にテスト前に研究室に来てもらい、睡眠環境に慣れてもらうようにした。実験は2つのパターン、1つは加重ブランケットを使用し、もう1つは軽いブランケットを使用して行われた。
テストの夜は、午後9時から午後11時まで照明を暗くし、参加者は8時間の睡眠の1時間前と睡眠中に、手足、腹部、胸部を覆う加重ブランケットを使用した。加重ブランケットの詰め物はビー玉とポリエステルの詰め物を組み合わせたもので、参加者の体重の12.2%相当のものとした。
こうして臥床した参加者から、22:00から23:00の間の20分ごとに唾液が採取された。参加者の主観的な眠気については、電気を消す前と翌朝の両方で「カロリンスカ眠気尺度」を使用して20分ごとに評価された。参加者にはOURAリングを装着してもらい、睡眠時間や睡眠深度が記録された。OURAリングとは、睡眠を示す生理学的変数を測定する市販のマルチセンサーウェアラブルデバイスのことだ。
実験結果は、唾液メラトニン濃度は午後10時から午後11時の間に、平均して約5.8pg/mL上昇していた（P <.001）。加重ブランケットを使用した条件下での唾液メラトニン濃度の平均増加は6.6pg/mLで、軽いブランケットで得られた5.0pg/mLと比較してより多く分泌されていた（P =.011）。
オキシトシンは、最初に約315pg/mL上昇したが、この上昇は一時的なものにすぎず、時間の経過とともに、2つのブランケット条件間でオキシトシンレベルの有意差は観察されなかった。また、コルチゾールレベルや交感神経系の活動にも、加重ブランケットセッションと軽量ブランケットセッションの間で差はなかった。さらに、加重ブランケットを使用した場合でも参加者間の眠気のレベルに有意差は見られず、総睡眠時間にも有意差はなかった。
この論文のconclusionには「我々の研究は、加重ブランケットを使用すると、就寝時にメラトニンの放出が増える可能性がある、ということを示唆した最初の研究である。ただし、今後の研究では、加重ブランケットをより長期間使用したときに、メラトニン分泌に対する刺激効果が残るかどうか、さらに調査する必要がある。また、観察されたメラトニンの増加が治療効果と関連するものかどうか不明である」と書かれている。Observation factがclinical benefitに繋がるかどうかは難しいところなのだ。
しかし、そこに推測も交えて考察すると「加重ブランケットによって加えられる圧力が、皮膚の感覚求心性神経を活性化し、情報を脳に運ぶというのが 1つの説明かもしれない。感覚情報が伝達される領域は、落ち着きと幸福を促進し、恐怖、ストレス、痛みを軽減するオキシトシン作動性ニューロンを刺激し、さらにこれらのニューロンは松果体にも接続して、メラトニンの放出に影響を与えるのかもしれない」のだ。
この研究の指導を行った、スウェーデンのウプサラ大学薬理学准教授クリスチャン・ベネディクト博士は、Medscape Medical Newの取材に「メラトニンは睡眠を促進するホルモンではなく、生物学的な夜に向けて体と脳を準備する物質。メラトニンを経口摂取したからといって非常に良い気分になるわけでも、ぐっすりと眠れるわけでもない」と語っている。
加重ブランケットについては、「Googleで検索すると350ドル以上するものがある。MDは、これらの毛布を買う余裕があれば試してみると良い。ただし、もっと安いものがあるし、安い選択肢があるなら、なぜ買わないのか、と私は間違いなく思う」と答えている。
それならば、買って試してみよう、というのが私だから、実際に加重毛布をAmazonで購入して自分の身体で実験してみた。
Amazonから届いた荷物はずっしりと重いものだった。梱包を開けると、ジッパーのついたパッケージが出てきて、それを開くと予想より大きなブランケットが出てきた。7kgの重さといえば、6月に生まれた孫の体重とほぼ同じなのだが、このブランケットを抱えた感じはもっと重い感じがした。
早速ベッドにセットしてみた。薄い通常のブランケットの上に、加重ブランケットを敷く。購入したのが夏の終わりだったので、寝具としてはこれで十分のようだ。ただ、重い。夜になってベッドに寝るのに、ジャラジャラジャラッと、鎖帷子（くさりかたびら）を羽織るようにめくって掛ける感覚は、ちょっと不思議な感覚だった。そして、その重さを胸、腹部、両手足で分散して受けていると、重さというより、圧力を感じる。深海に横たわり、じんわりと海水の重さを感じている、そんな感覚だ。寝返りをうとうと思えば簡単なのだが、そのまま仰向けで圧を感じていたい、というのが最初の加重ブランケット体験の印象だった。
睡眠に入る時間が早まるかと期待したが、そうした効果はなかった。ぐっすりと眠れた、という感覚も、翌朝起きた時に感ずることはなかった。ただ、加重ブランケットを試してみようと思った切っ掛けになった、嫌な夢を見なくなった。それまでは、翌朝に不快感が残る夢を見ることが多く、睡眠そのものにnegativeな思いをしていた。しかし、この加重ブランケット実験を行った2週間、夢は同じように見るので、それまでと同じREM sleepは巡ってきているのだろうが、良いと悪いのどちらかといえば、良い夢に近い夢を多く見るようになった。それに、不思議なことに男性機能の改善が見られた。実験を終了した後、今度は軽い羽毛のブランケットに戻して2週間過ごし、また1日加重ブランケットを使用してみた。重さになれたのか、7kgのブランケットを羽織るのも外すのも最初に比較して軽々と出来るようになっていた。今度は8kgを使った方が良いのかもしれない。
この覆いかぶさる圧力の感覚というのは、Elisa Methの実験で考察された、
「加重ブランケットによって加えられる圧力が、皮膚の感覚求心性神経を活性化し、情報を脳に運ぶというのが1つの説明かもしれない。感覚情報が伝達される領域は、落ち着きと幸福を促進し、恐怖、ストレス、痛みを軽減するオキシトシン作動性ニューロンを刺激し、さらにこれらのニューロンは松果体にも接続して、メラトニンの放出に影響を与えるのかもしれない」
という科学的な背景を持ったもののようだ。文献 4）で示した”Weighted Blanket: How do they work and the science behind”には、「加重ブランケットの仕組みはdeep touch pressureの原理を利用している。身体に深いタッチ圧がかかると、自律神経が交感神経系から副交感神経系に切り替わり、幸せホルモンであるセロトニンやドーパミンが分泌され、ストレスホルモンであるコルチゾールが減少する」とある。増加したドーパミンはテストステロンに影響を与えて、男性機能にも影響を及ぼす可能性はあるかもしれない。
加重ブランケットがどのように人の健康に寄与するのか、科学的な説明はまだ不十分だ。臨床的には、自閉症、注意欠陥・多動性障害またはADHD、むずむず脚症候群、うつ病、強迫性障害、などに使われて効果があるといわれている。最近、パーキンソン病の患者さんが「うんと軽い羽根布団を使ってます、良いと思って」といっていたので、この加重ブランケットの話をした。患者さんは「それじゃ、しまってある綿の布団を引っ張り出して使って見ます」と答えてくれた。まだその結果は出ていないが、良い効果があればと期待している。MDも毎日がストレスフルだから、一度は試して見ても良いかもしれない。
＜資料＞
2023.1.1 掲載 © LinkStaff
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