Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2023年3月号
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訪問診療の話

担当の先生が決まり、やっと訪問診療から解放される事になった。今月はとりあえずdutyは半分になり、来月から無罪放免予定。やれやれ。

ちょうど東京のクリニックもオープンして、(「ちょうど」ととるのか「ギリギリ」ととるかは考え方次第だが)結果オーライかな。なんせ、身は一つだからね。

そんな訳で今回はまた、腸内フローラについて。実は最近、非常に興味深い報告がなされた。

なんと、癌細胞の中に細菌の存在が証明されたというのだ。マウスの乳癌モデルでその影響が報告された。実は癌細胞中の細菌の存在は以前から言われていた。癌細胞の遺伝子解析をしていると、時々コンタミのようなものが出現したりしていたらしい。ところが、病理学的にも細胞学的にも同定にいたっていない。専門の方に聞くと「検体の処理過程で抗生物質を使う事が多いので、細菌が除去されていたのではないか?」との事だった。

つまり、従来は完全に無菌と考えられていた腫瘍において細菌叢はその構成成分の一つであり、さまざまな癌において宿主の細菌叢が腫瘍の進行に影響を及ぼすことが示された。さらに原発腫瘍に付随する細菌叢は遠隔転移部位においても、その関連を維持していることが明らかになった。さらに、細菌を腫瘍内に導入することで、腫瘍の進行が促進される可能性があるとされていた。

そして、今回の発表は、ヒト癌の進行をよりよく再現する自然発生の乳がん転移マウスモデルにおいて、腫瘍細胞と腫瘍内細菌の関連を調べ、細菌叢と癌細胞の関係を明らかにしたのだ。それによると、マウス乳腺組織にはヒト乳腺組織と一致する微生物群集が豊富に存在し、細菌は乳腺腫瘍細胞のサイトゾル内で生存していた。そして腫瘍に関連する細菌のほとんどが細胞内に存在した。また、腸内細菌叢と腫瘍内細菌叢の両方または腫瘍内細菌叢のみを標的とする抗体療法を確立した。それを用いて腫瘍内細菌叢を除去すると、原発腫瘍の増殖に影響はなかったが、肺における転移性結節の形成が抑制された。

さらに、検出可能な腸内細菌叢をもたないマウスに、細菌を含有する腫瘍を移植し、水または抗生物質を与えたところ、前の結果と同様、腫瘍重量に差は認められなかったが、抗生物質を投与したマウスでは転移が抑制された。この結果から、腫瘍に関連する細菌は転移の促進に関与していたため、循環腫瘍細胞(CTC)を解析した。すると、クラスター化した循環腫瘍細胞には、原発腫瘍と比べて細菌が豊富に認められた。この事から、循環腫瘍細胞は細菌の存在が、その生存に役立ち、癌の転移を促進する可能性が示唆されたと言うのだ。

今まで、癌治療に関しては、主に免疫系の活性化目的に行ってきた腸内フローラ移植だが、もっと直接的に癌の転移予防のみならず、発生段階にも関与する可能性が出てきたわけだ。

さらには、大腸癌や膵臓癌では、口腔内常在菌などの細菌が腫瘍組織の内部に存在し、抗腫瘍免疫を抑制してがんの進展に関与することが報告されていた。大腸癌や膵臓癌では、口腔内常在菌などの細菌が腫瘍組織の内部に存在し、抗腫瘍免疫を抑制してがんの進展に関与することが報告されていた。

そこで我々としては、一歩踏み込んで、抗腫瘍免疫を抑制する腫瘍内細菌叢の存在を明らかにしたい。そこでネタバレになるが、以下の3通りの手法を考えている。

1.腫瘍組織および転移リンパ節からの細菌DNAシークエンシング腫瘍組織および転移リンパ節から細菌DNAを抽出し、高感度のシークエンシング技術を用いて、細菌叢の種類と量を同定する。

2.腫瘍内細菌叢と免疫細胞の相互作用の解析腫瘍組織から分離された免疫細胞と共に、腫瘍内細菌叢を培養し、その相互作用を解析することができます。これにより、腫瘍内細菌叢が免疫細胞の機能を抑制するかどうかを調べる。

3.腫瘍細胞と腫瘍内細菌叢の相互作用の解析腫瘍細胞と腫瘍内細菌叢を培養し、その相互作用を解析する。これにより、腫瘍内細菌叢が腫瘍細胞の増殖や転移を促進するかどうかを調べることができる。

実は今度、腸内細菌などのマクロバイオームの遺伝子解析(シークエンス)を行うことになり、準備を進めているところなのだ。しかし、当面は検体として癌組織の採取は困難だろうから、臨床症状とマクロバイオームの関連性を探る所からだろうと思う。もちろん癌以外の疾患でも行うつもりだが。癌に関しては次の段階を考えてるので、発表できるようになったらお知らせしますね。

(4月号に続く)

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