神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
3月号

男の脳、女の脳 〜違いはどこにあるのか?〜

 20年以上前になるだろうか、順天堂大学医学部名誉教授の新井康允氏が「ここまでわかった! 女の脳・男の脳」という本を書かれていて、興味深く読んだ覚えがある。左右の脳を結ぶ脳梁の太さが男女では異なる。特に脳梁膨大部に男女差がある。女は球状で太く、男は管状で女性に比して小さい。しかし、正中断面での脳梁全体の面積については、男女で有意な差はなかった、と書かれていた。

 後にいろいろな記事を読んでいる中で、ゲイの人の脳梁は男と女の中間の形態をしている、と、どこかで読んだ記憶がある。どれだけの科学的根拠があるかは怪しいが、なるほど合点がいく説明ではあるな、と感心した覚えがある。

 新井氏は、脳梁膨大部の大きさが女で男より大きいということは、視覚情報や聴覚情報の処理の仕方に男女で違いのある可能性を示していて、女が意識しないで、きめ細かくものを見ることが出来、音や言葉をよく聴き取ることが出来るのはこのためかもしれない、と好意的に捉えている。これはまた、女が男のしぐさや声のトーンを聞いただけで、そこに何が隠されているのかが直感でわかる、ということでもある。妻が知らないだろうと夫は思っていても、バレバレなのだ。またこの情報処理感覚は、言葉を話さない赤ちゃんの泣き声や仕草を読み解く能力でもある。言語脳である左脳の論理的な思考回路に、感情脳である右脳の信号が介入してinterfereする可能性も大いにあるのではないかと男は思ってしまうが、基本的には、男の脳と女の脳の違いは、お互いに補完するべきものとして存在するに違いない。

男と女、脳の働きの違いはどこから?

 その起源は何万年か前の狩猟時代にさかのぼる。女は居住地域に近い、かなり狭い範囲でしか行動しなかった。したがって、ごく近い距離の中での方向や位置が確認できればよかったわけで、自分を取り巻く空間内でのランドマーク(目印、目標)となるものを頼りに行動すればよかった。したがって、男のように土地勘に頼る必要はなかったと思われる。このような狩猟時代における役割分担が多くの世代を通して、男と女の脳における地理的感覚の違いを助長する結果になったのだと思われる(著書より抜粋)。

 アメリカの男女の大学生に、地図上で目的地までのルートを探すゲームや迷路ゲームをやらせてみた研究結果では、男子学生の方が山勘的なところがあって、女子学生よりも少ない試行回数でルートを覚え、目的地に到達する。そして誤りが少なかった。しかし、女子学生はルートを覚えるのは遅いが、いちどルートを覚えてしまうと、男子学生よりもルートの中にあるランドマークをよく覚えていて、それを頼りに間違いなく目的地に到達する。このことは、女は日常生活で自分の位置を知る戦略として、ランドマークを利用する傾向があることを示している。一方、男の方は、方向とか距離といったかなり山勘的な土地勘のような、感覚的なとらえ方をしているわけで、男女で方向認知に対する戦略的な違いがあることがわかる(著書より抜粋)。

 男は遠くの目標物を目当てに、方向を定めて歩いていくのに対して、女は角々の建物や店を確認しながら道筋に沿って歩いて行く。男の脳は大雑把な方向性を第一に考え、女の脳は多くの情報を確認しながら着実に進んでいくという特徴があるのだ。この脳の特性は、男女でデパートに行くとはっきりと分かる。男は目的のものを求めてまっしぐらにその売り場まで行き、どこへも寄らずに帰ってくる。女は目的を定めていても、あっ、ここに新しい売り場が出来た、先週よりこの商品は安くなっている、と品定めをしながら多くの情報を集めて、最初はそれが目的ではなかったものも買い求めて、両手に一杯の買い物袋をぶら下げて帰ってくる。

女は男よりも感染に強い

 先月の3日(日曜日)の午後2時から、ベルサーレ三田で東京都主催の研修会があった。これを取らないと、難病患者の診療の際に診療報酬がきちんともらえない、診断書の記載が出来ないというので、クリニックの事務スタッフが「先生、ちゃんと行ってきてくださいね」と念を押してスケジュールを組まされた。インフルエンザが超流行っていて、毎日くたくたになっているのに、休養日と定められた日曜日の半日を棒に振るのは残念だったが、仕方がない。クリニックの収入にいくらかでも貢献しなければ、院長の務めは果たせない。仕方がない。

 この研修会では、その筋の専門家がいろいろと面白い話をしてくれるので、毎回iPhoneに講演の記録を取って聞き直したりしている。今回は、以前患者さんのことで日赤医療センターと国際医療福祉大学でお世話になった武田克彦先生と、順天堂大学医学部付属順天堂越谷病院の高崎芳成先生の話だった。その中で、高崎先生がこんな話をしていた。

 「SLEの活動性が上がる人をみてみると、男性ホルモンのレベルが有意に低い。昔はSLEの治療に男性ホルモンを使っていた。女性ホルモンというのは免疫応答をガバーッと上げてくる因子であり、男性ホルモンというのは下げる因子なんですね。まあ、男が感染症にかかって死にやすい、というのはそういうところから来ているといわれています」そうなんだ、男は感染にも弱いんだね。

トリセツ

 業界用語で取扱説明書を略して取説と称する。この言葉のカタカナ版は、2016年にシンガーソングライターの西野カナが「トリセツ」という歌を作ったことで流行語になった。この歌は、新しく妻になった新婦が、夫にどう取り扱って欲しいかを、懇切丁寧に歌ったものだ。結婚式に歌われる歌の定番になった。歌詞はこんな風だ。

このたびは、こんな私を選んでくれて
どうもありがとう
ご使用の前にこの取扱説明書をよく読んで
ずっと正しく優しく扱ってね
1点ものにつき返品交換は受け付けません
ご了承ください


急に不機嫌になることがあります
わけを聞いても
答えないくせにほっとくと怒ります
いつもごめんね
でも、そんな時は
懲りずにとことん付き合ってあげましょう
定期的に褒めると長持ちします
爪がきれいとか
小さな変化にも気づいてあげましょう
     (後略)

ソングライター: Kana Nishino / DJ Mass(VIVID Neon*)

妻のトリセツ

 西野カナの「トリセツ」の歌詞から着想を得たのだろう、今度は「妻のトリセツ」という本が出た。女性脳の特徴が表れた、妻の理不尽な要求(そう書いてある・・)を理解するために、脳科学的な説明を加えて男に開示したのがこの本の内容だ。

 著者の黒川伊保子氏は、長野県生まれで奈良女子大学理学部物理学科を卒業した人工知能研究者。AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、2003年には株式会社感性リサーチの代表取締役社長になっている。サブリミナル・インプレッションは、意識下に存在する印象のことで、ブルーとピンクの布なら、男はブルーを選び、女はピンクを選ぶ。この印象記憶は幼少期から育てられ、無意識に抽出されて心地良さを伴う。

 黒川氏のホームページによると「脳は、性別と年代別に、驚くほど違う意識の質を持っている。黒川は、このような脳のホルモンバランス別の意識の方向性を精査し、それぞれの脳に『心地よい』ことばの音を割り出した。これにより、語感の男女年齢別の脳への訴求度も算出することができる。すなわち、黒川のシステムをもってすれば、商品名の語感を明らかにし、その語感がターゲット市場(想定した買い手)にとって心地よい音かどうかを数値的に評価できるのである」と説明している。女の脳の特性をうまく使った、女性ならではの発想と事業展開だ。AIといっても、やはり男女の違いがある。黒川氏のAIはFeminine AIだ。男性が作るAIは、恐らくManly AIになるのだろう。

 その結果「ことばのサブリミナル・インプレッションを算出し、商品名・企業名などブランドネームの感性価値を明らかに」する。「カゴメ」という音は甘くコクがあるように聞こえるし、「キリン」という音のサブリミナル・インプレッションには、甘さとコクなど全くないように聞こえる。当然、主婦が手に取るのは「カゴメトマトジュース」になる、というのだ。

 黒川氏が教える妻の取説、じっくりと読んで男は妻の「イライラ、キツイ口調、いきなりキレル、急に怒り出す、何をしても怒られる、口をきかない、無視する、人格を否定するような言葉をぶつけてくる」といった行動を理解して対処しなければないらしい。しかし「ほとんどの夫にはその”怒り”の本当の理由がわからないし、たとえ理由を聞き出すことに成功し、解決策を提案したところで、妻の機嫌がよくなることはない。それは、妻の望む夫の対応と夫が提案する解決策が根本からずれているからなのだ」という。

 その上に「夫が完璧だと、その放電先が子どもになったり、自分(自身)に跳ね返ってうつに転じたりして、危なくてしょうがない。いい夫とは『おおむね優しくて頼りがいがあるが、時に下手をして妻を逆上させる(適度に妻がストレス発散できるようにしてあげる)男』にほかならない」[註:()内は神津による説明]と。ここらへんは、脳科学に基づいているのかどうか記載はないが、男の脳の特性からは「トリセツ(取説)」を読んでも良くわからないということになりそうだ。

女は男より幸せ

 女性が男性より幸せを感じるのは遺伝子で説明できることが、米サウスフロリダ大学公衆衛生学部疫学・生物統計学准教授のHenian Chenらの研究で示唆された。Chenらは、快感をもたらす脳の神経伝達物質として知られるセロトニンやドパミンなどを破壊する酵素を調節する、モノアミン酸化酵素A(MAOA)遺伝子に注目し、低発現型のMAOA遺伝子を持つ女性は、持たない女性より“幸せ”であることがわかったという。一方、この遺伝子を持つ男性は多いが、持たない男性より“幸せ”というわけではなかった。男性では女性よりテストステロンの量がはるかに多く、低発現型MAOAによる“幸せ”の効果を打ち消す可能性があるという。

 女性はヒトとして重要なX遺伝子をダブルで持つXX。男のY遺伝子は性を決めるだけの役割しかないXY。XXはXの欠陥を補完するため生命力が強い。X遺伝子1つの男は弱い。遠くに狩りに行き、帰ってくるための筋力や方向感覚は女より優れているが、環境の中で危険と遭遇する確率は、生活圏から離れない女よりかなり高い。感染にも弱く、寿命も短い。さらに幸せが薄いとしたら、男は女の脳と友好な関係性を保たなければ、進化の過程で淘汰されるかもしれない。

<資料>

1) 新井康允著. ここまでわかった! 女の脳・男の脳
講談社ブルーバックス, 1994年.
2) 西野カナ「トリセツ」
https://www.youtube.com/watch?v=aPHGClLjZWk
3) 妻のトリセツ
https://amzn.to/2TwnfT4
4) 黒川伊保子
http://www.ihoko.com/f2_profi.html
5) Chen H et.al.
The MAOA gene predicts happiness in women. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2013 Jan 10; 40:122-5. doi: 10.1016/j.pnpbp.2012.07.018. Epub 2012 Aug 4.

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