ドクタープロフィール
ドクター神津
神津院長は昭和52年に日本大学医学部を卒業後、同大学第一内科に入局され、その後、神経学教室が新設されると同時に同教室へ移られました。医局長、病棟医長、教育医長を長年勤められ、昭和63年、アメリカのハーネマン大学およびルイジアナ州立大学へ留学。帰国後、特定医療法人佐々木病院(内科部長)を経て、平成5年に神津内科クリニックを開業された。神津院長の活動は多岐にわたり、その動向は常に注目されている。
2005年1月号 -医療現場から生と死を考える- backnumberへ
A Happy New Year!

新しい年にふさわしく、e-ドクターのコーナーも新装開店となったようでおめでたい限りだ。先日、某テレビ局の関係者から電話があった。土曜のゴールデンタイムに放送されている番組で医療現場を取り上げたいという。病院の失敗の事例から学びたい、という事だったが、切り口次第でまともな番組になるかならないかが決まるだろうと話しをした。患者側のお話しがすべて正しいとは限らない。それをまともに取り上げて医師側に「これはどうだ」と提示しても、何ともコメントの仕様がない、と肩をすくめるしかない。これでは建設的な意見交換が出来ないことになる。また、随分と脚色したストーリーが、さも事実のように「再現ドラマ」で流されると、その非現実性から話をしていかなくてはならなくて、とても一時間では終わらない。もっと凝縮した、医療現場のエッセンスを取り上げて、研ぎ澄ました質問と、それに対する切れ味の鋭い答えの応酬によって、緊迫感のある一時間に仕上げていく必要がある。

「これは、『み○も○たやた○し』の医療娯楽ショーや医療ホラー番組とは違う、いま日本の医療現場に何が必要なのかを問う、あなた自身に投げかけられたtrue storyだ!」

と、国民に訴えるものにしなければやる意味がない。どんなものが出来るか期待したいものだ。

さて、話しはそれるが、今年から明治大学の非常勤講師になることに決まった。私が懇意にしているある研究所の主任研究員をしている方から「死についての講義をやろうということになったのですが・・・」というお誘いだった。以前、ある雑誌に「いま、医療に望まれる『信頼と安心』~命をあずかる医師の"目の高さ"~」という論文で、「死の臨床教育」のことを書いたことがあった(http://www.iijnet.or.jp/SYPIS/rf2.html)。それは、今の日本の医学教育では「生かす」医療のみがもてはやされ、生かすことの出来ない患者、「死んでいく患者」にどう対処したら良いかが教えられていない、と指摘したものだった。医師が最後まで患者のそばにいて、見送った後にも患者家族と心の交流を絶やさない医療のあり方を伝えなければならないと。そんな考えがあってお引き受けをしたのだ。

最初の打ち合わせが、明治大学のリバティタワー4階第三会議室であった。この特別講座の発案者である主催者のK先生を始めとして、一人ずつ自己紹介をということで皆さんお話しになったのだが、夫々がとても素晴らしいお話だった。どこにこんなに人間力のある人達が生きていたのだろう、と感心した。医療界では、まずこんなに多彩な人達が一堂に会することはない。我々医師は、それだけステレオタイプな生き方をしているともいえる。

折角なので、その中のお話を少しだけ皆さんに聞いていただこう。T先生は、文学上の一文字一文字を実体験するために、世界の隅々まで旅行している方で、第一次世界大戦でイギリスの若い兵士達がいかに無駄に死んでいったか、というお話しをしてくれた。

「ドイツ軍は地面に大きな穴を掘るんです。それで雨が降ると、そこが小さいドロ沼のようになる。そこをイギリスの兵隊が隊列を組んで進んでいくわけですよ。ところが、40キロ、50キロという背嚢を背負っているでしょう、その沼にズブズブとはまり込むわけです。何千人、何万人という若い兵士が、そうやって声も上げずに死んでいったんですね。今でも、その土地では農地を耕すと白骨が出てくるわけです。それを土地の人は"Bone Harvest"、というんですね。骨の収穫、ですよ、堪らないですね。」

人は死ぬ、それがわかっているから生きることの価値があるわけだ。戦争と貧困がどこにでも見られた世界、人生50年の時代には、その短い人生を華やかに生きることが大切であった。しかし、平和の時が続き、高度高齢化社会に急速に突入した今の日本においては、「いかに生きるべきか」を考えるのと同じように、「いかに死ぬべきか」を考えることも重要になってきている。命の終わりを自分はどう迎えたいのか、そこに関わる医療者はどのようなスタンスでその患者のそばにいることが出来るのだろうか。

私がここ10年間、地域医療の中で「在宅における死」をいかに看取るか、ということをずっと考えてきたように、日本の医療現場の中の一つ一つのシーンにおける死を、今年はじっくりと考えてみたい。

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