神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
4月号

COVID-19の現場から~医療者にのしかかる重荷~Ⅰ

 インターネットにはいろいろな数字が載っている。Worldometerというサイトでは、時々刻々と変化する世界の今をLiveで教えてくれる。例えば世界の人口だが、今この原稿を書いている午前11時には77憶7228万802人。今日生まれた赤ちゃんの数は19万1822人で、死亡者は8万531人。今日一日で11万人の人口が増えていることになる。世界は目まぐるしく動いている。

 COVID-19新型コロナウィルスによる感染症も世界を巻き込んでoutbreakした。Worldometerによれば、今現在の感染者数、死亡者数の推移は以下のようになっている。表は115か国の国と地域および1輸送機関(横浜港に停泊中のDiamond princess号)におけるもので、日付は国際標準時の0時を基準としている。数の多い上位の12か国のデータは以下のようになっている。

 これを見ると、やはり発信地となった中国は桁違いに多い。次にその周辺国と、中国政府が推進する一帯一路政策に賛同し経済的交流を深めている国、観光客を含めて人的交流が多い国で数が多くなっているようだ。この状況も時々刻々と変化する。4月号としてこの原稿が読まれる時には、多くの安心要素が伝えられている世界になっていればよいのだが、恐らくこのウィルス感染を封じ込めるには長い時間が必要だろうと思う。そのためには、前線で働く医師や看護師が十分な装備を揃え、健全な精神・身体状況でウィルスと戦う必要がある。万が一でも、先頭に立つ戦士達が傷つき、後方支援なくlogisticsを欠いたまま前線に留まるような状況を作ってはならない。

中国、武漢からのSOS

 以前この名論卓説で2014年に「エボラ出血熱から見える世界」というエッセーを書いたことがあった。その時の資料の中に、Anja Wolz看護師 (R.N.)が書いた「Face to Face with Ebola(エボラと向き合って)」というNEJM ”Prospective”に載った一文があった。アフリカSierra Leone救急ケアセンターの現場からのレポートは、緊迫した当時の状況を赤裸々に伝えていて、翻訳をしながら心にしみた。これを思い出したのは、今回のCOVID-19のoutbreakが始まった中国の武漢から、同じように看護師からの切実な手紙がThe Lancetに載ったからだ。「中国の医療スタッフがCOVID-19との戦いで国際的な支援を要請」(The Lancet Global Health 2月24日公開)とそのLrtter headは告げていた。

 2020年1月24日、私たちは、地元の看護師がCOVID-19感染症と戦うのを支援するために中国の武漢に来ました。私たちは医療者支援の第一陣として武漢隔離病棟に入りました。私たちが行っている日々の仕事は、主に酸素の供給、心電図(ECG)モニタリング、チューブケア、気道管理、人工呼吸器のデバッグ、中心静脈挿管、血液透析ケア、および汚染物質の廃棄や消毒などの基本的な看護ケアです。

 ここ武漢の条件と環境は、私たちが想像していたより困難で極端です。N95マスク、顔面シールド、ゴーグル、ガウン、手袋などの保護具が深刻に不足しています。ゴーグルはプラスチックでできており、病棟で繰り返し洗浄および滅菌する必要があり、曇って見えにくくなっています。頻繁に手を洗う必要があるため、同僚の手は痛みを伴う発疹で覆われています。N95マスクを長期間着用し、保護具を重ねた結果、一部の看護師は耳と額に褥瘡ができきています。マスクを着けて患者と話すため、私たちの声が聞こえなくなるので、私たちはとても大きな声で話さなければなりません。4層の手袋を着用すると異常にぎこちなくて機能しません。医療機器用の包装袋を開くことさえできないため、患者に注射すること自体が大変なことです。

 エネルギーを節約し、防護服の着用と脱衣にかかる時間を節約するために、隔離病棟に入る前の2時間は飲食を避けています。多くの場合、看護師の口にはたくさんの水疱ができています。一部の看護師は、低血糖と低酸素のために気を失ってしまいました。肉体的な疲労に加えて、私たちは心理的にも苦しんでいます。私たちはプロの看護師ですが、人間でもあります。他の皆と同じように、私たちは無力感、不安、恐れを感じます。経験豊富な看護師は時折同僚を慰め、不安を和らげる時間を見つけます。しかし、経験豊富な看護師でさえ泣くこともあります。おそらく、私たちがここに滞在する期間がわからず、COVID-19感染のリスクが最も高いグループだからです。これまでに1716人の中国人スタッフがCOVID-19に感染しており、そのうち9人が残念ながら亡くなりました。武漢の医療専門家が極端に不足しているため、中国全土から1万4千人の看護師が自発的に武漢を訪れ、地元の医療専門スタッフを支援しています。しかし、我々はもっと多くの助けが必要です。お願いですから、世界中の国々から看護師や医療スタッフが中国に今来て、このウィルスと闘っている我々を助けてください。
 COVID-19の流行が間もなく終了し、世界中の人々が健康であり続けることを願っています。

 このletterからは、現場の医療者のどこに向けたらよいか分からない叫びがひしひしと伝わってくる。1月、2月の状況は最悪の状況だったかもしれないが、こうした最前線で働く医療者を最悪の状態に陥らせないために準備をするのが政府の役割ではないのか。中国の一党独裁政権は、共産党という政治信条に基づいている。そのため医療者は、ある意味労働者に奉仕するための階級であり、給与も労働環境も優位には位置付けられていない。人を健康で幸せにする技術である「医療」は、拝金・拝物主義によって低医療費経済政策に取って代わられている。中国の経済政策も日本も同じだ。そのつけが今回ってきている。

致死的感染症の現場から

 先述したWorldometerによれば、まだ患者の発生も死亡者も右肩上がりだ。医療の現場はいつの時代もそう変わりない。医療者がいて患者がいて、家族がいて、残念ながら無念にも回復せずに死に至る人、幸いにして自分の免疫状態がウィルスを駆逐して自然治癒する人、その悲喜交々が交錯する場所だ。しかし、今この時代に持つべきパワー、持つべきequipment、経済であれ、科学であれ、それがあればもっと良いことが出来るのであれば、その力を我々は周到に準備し、使うべきではないのか。2014年にNEJMにAnja Wolz看護師が訴えたことを、世界の政治指導者は本気で考えたのだろうか。

※左の写真は、都立病院で使用されるタイプのPPE(Personal Protective Equipment)で、今現在COVID-19患者の診療に使われているものだ。私の次男も呼吸器内科医だから、これを着けて頑張っているのだろう。

 過去にタイムスリップして、Sierra Leoneからのメッセージを、平時にこそあらゆる準備を怠らないことが大切なのだと肝に銘じるために、もう一度我々は虚心坦懐に聞く必要がある。

 朝の6時、私たちは血液サンプルを採取するためにSierra LeoneのKailahun郡にあるエボラ症例管理センターに到着しました。80床のセンターはLiberiaとGuineaの国境沿いにあり、昨日は8人の新患が入院し、9人の患者は症状が出て72時間後とのことで再検査を受けていました。何人かは退院の望みもありそうです。今日は少なくとも18個のサンプルを得ることが出来ました。今の所管理センターには64人が収容されており、5歳以下の子供が4人います。今日も2人が亡くなりました。

 私はここthe Médecins sans Frontières (MSF) Ebola responseに7週間、看護師および救急コーディネーターとして働いています。今日は雨なのでラッキーです。この天候なら私たちが必ず着なければならないthe personal protective equipment (PPE)の中でゆでだこにならないで済みそうです。私たちは隔離地区でどのくらいの頻度でどの程度の時間働くかをコントロールしています。PPEを40分以上装着するべきでないのですが、もちろんそれ以上はとても我慢できないのだけれど、時間の経つのを忘れてしまうので、同僚を見守る必要があります。経過時間は更衣室から始められ、PPEの装着には5分がかかります。

 私たちには専用の装着係がいて、正しく装着しているか、1mmも肌が露出していないかを責任を持って確認しています。誤って第一層に穴が開いても大丈夫なように、手袋2枚、マスクを2枚使用し、全身が被われるように重いエプロンを身に付けています。隔離地区を出る時には、塩素水を頭からかけて、PPEを一枚一枚脱いでいきます。ゴーグルやエプロン、ブーツや厚手の手袋などは、滅菌されて再度使用されます。その他作業服、マスク、帽子などはすべて焼却されます。

 管理センターは二つのセクションに分かれています。一つは低リスク区で、薬局、更衣室、洗濯場、トイレ、水道、塩素消毒する場所、スタッフがミーティングを開ける場所などがあります。もう一つはハイリスク区または隔離地区で、患者が入院しているためスタッフはPPEフル装備でいなければならなりません。我々医療および水衛生チームは、ハイリスク区に計画を立てて入り、バイタルサインのチェック、医学管理を行い、食事を与え、10のテントを清潔に整えるのです。また他のチームは、新しい入院患者が落ち着くまでの手伝いをし、退院患者の準備や殺菌消毒を行い、死体を片付けます。

 WHOは3月12日にPandemicを宣言した。今は主として人的交流が高い先進国で流行が続いているが、Sierra Leoneのように物資も人的資源も限られた、低い医療環境にある開発途上国ではどんなことが医療者に起こるのか心配だ。

(5月号に続く)

註:新型コロナウィルス感染患者の増加は止まるところを知らない状況に。4月3日現在世界の患者数は100万人を超え、死者は5万人を超えた。感染国のトップはアメリカとなり、医療崩壊が現実のものとなった。(著者追記)

〈資料〉

1) Worldometer:
https://bit.ly/2UxotPn
2) Face to Face with Ebola — An Emergency Care Center in Sierra Leone August 27, 2014DOI: 10.1056/NEJMp1410179:
https://bit.ly/2WFxYPw
3) Retracted: Chinese medical staff request international medical assistance in gighting against COVID-19:
https://bit.ly/39aOYiZ
4) Reuters: Lancet withdraws Chinese nurses' letter after they say it was not first-hand:
https://reut.rs/2UerkOh
5) エボラ出血熱から見える世界:
https://www.e-doctor.ne.jp/c/kozu/1409/

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