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117年の歴史を地域とともに
彦根市立病院

 滋賀県彦根市はかつて井伊藩35万石の城下町として栄え、琵琶湖と鈴鹿山系に挟まれた四季折々の美しさを見せる街である。彦根市立病院は明治24年(1891年)に開設された歴史を持つ。開設以来、彦根城の堀端の中心市街地で100年以上の間、市民に親しまれてきたが、2002年に現在地への移転を果たした。現在地は滋賀県立短期大学の跡地であり、そばを流れる犬上川は壬申の乱の舞台の一つとして知られ、琵琶湖に注ぐ。各階に設けられたデイルームからは美しい琵琶湖の眺望が望める。
 現在は周辺の多賀町、甲良町、豊郷町、愛荘町を加えた湖東保健医療圏での唯一の公的医療機関として、21診療科470床を有し、高度医療はもちろん、緩和ケア、人間ドックと裾野を広げた医療を展開している。
 今回は赤松信院長にお話を伺った。

◆ 赤松 信 院長プロフィール

1947年に愛媛県に生まれる。1972年に京都大学を卒業後、同大第一外科、麻酔科で研修を行う。1975年に彦根市立病院外科に医員として赴任する。1979年に癌研病院で外科の研修を経て、1980年に彦根市立病院に外科医長として着任する。以後、1983年に外科部長、1995年に副院長を経て、2002年に院長に就任する。
日本外科学会指導医、日本消化器外科学会認定医など。

  <病院の沿革>

 彦根市立病院の歴史は古く、滋賀県内では最古の病院である。明治24年(1891年)に「公立彦根病院」として、当時の彦根町大字5番地に開設された。彦根城の堀端で、診療科目は内科、外科であった。開設当初の院長は東京帝大から招聘されたという。
 「全国の自治体病院の中でも十指に入るほどの歴史があるようです。井伊藩の城下町だった由縁からでしょうか。初代院長はこちらを退職後、神奈川に戻り、ポーツマス条約のときの外相だった小村寿太郎の侍医になったそうですよ。明治の頃は新しい院長が着任してくるたびに、人力車でお迎えに行き、駅から病院まで新院長を乗せたそうです。人力車が公用車だったんですね。もちろん、私は乗っていませんが(笑)。」

 大正3年(1914年)に婦人科、10年(1921年)に耳鼻科、11年(1922年)に眼科を新設し、大正時代にほぼ総合病院としての体裁が整う。1937年に市制を施行したのに伴い、彦根市立病院と改称になった。戦後となった1952年には50床の結核病床が開設される。
 「彦根はどういうわけかマラリアの発生率が高かったのです。そこで疫学的研究を行うために研究所も併設されました。」

 1969年には木造から鉄筋の建物に改築され、327床に増床となる。さらに1981年には新館が建ち、403床となる。診療科が増えて、診察室が足りなくなったなどの理由で新館増築になったのだが、その後、病院の移転そのものも検討され始める。
 「1994年頃から本格的な検討に入りました。ちょうど滋賀県立短期大学が4年制の滋賀県立大学となって川向こうに移転するというので、その跡地に移転してはという流れになったのです。旧病院からは3キロほど南で、駅からは少し離れますが、彦根市は南に向かって発展していましたので、将来性が見込めました。」

 新病院は2002年に新築移転を果たす。9階建てで、一般病床456床、結核10床、感染症4床の計470床を持ち、琵琶湖の眺めが美しいロケーションである。また10戸の職員住宅や院内保育所も同時に完成した。赤松院長は副院長時代に移転に伴う様々な作業に携わった。
 「建築に関しては、琵琶湖の景観を取り入れてほしいという要望をしました。同じ建築家が施工した東大病院など、30ぐらいの病院を見学に行きましたよ。当時は聖路加タワーのような建物が流行の兆しを見せ始めていたのですが、慣れないと迷ってしまうんですよね(笑)。正方形や長方形の建物の方が落ち着くのではないかと思います。」

 1床あたりの床面積も70㎡あれば、ゆとりを感じるところ、彦根市立病院では80㎡を確保した。通路やエスカレーターなどの動線もゆったりとしたスペースである。
 「その後、臨床研修制度が始まったり、医療安全対策が本格化したりで、多様な機能を求められるようになってきましたので、もっと余裕をみればよかったかなと思う部分もあります。」

 彦根市立病院は災害拠点病院として、震災のときにも病院機能を維持できるよう免震構造を取り入れ、ヘリポートや自家発電装置機能も備える。また太陽光発電システムや太陽熱を利用できるシステムを持ち、雨水や雑用水を処理してトイレ洗浄水に利用するなど、環境に配慮した設計となっている。今後も地域密着を徹底し、「住みなれた地域で健康をささえ、安心とぬくもりのある病院」であり続けるだろう。

  <病院の特徴>

(1)救急医療

 彦根市立病院が最も力を入れているのが救急医療だ。彦根市を中心に周辺4町に15万人が住む医療圏で唯一の公的病院が彦根市立病院であり、地域住民にとっての「最後の砦」となっている。昨年は約3000台の救急患者の搬送があったが、このうち96.2%を受け入れた。3次救急施設での全国平均が84~85%であることを考慮すれば、驚くべき数字であろう。当直体制は内科系、外科系、ICUが一人ずつ入り、外科系の中で皮膚科医が入るときには外科、整形外科、脳外科から一人がバックアップにつく。さらに小児科、循環器科が院内待機で控えるため、少なくても5人、多ければ7人が当直していることになる。
 「15年前は一人で当直をしていたこともあったのですが、患者さんの数も増え、専門分化が進んできたので、徐々に充実した体制になってきました。住民の皆さんが最も不安を覚えるのが救急医療でしょう。私どもは救命センターを持っていませんし、医師不足の折ですが、特殊な疾患でないかぎり救急車を断らず、全て引き受けていきたいと思っています。」

 災害拠点病院ゆえにヘリポートを完備しているため、ヘリコプターを使った患者搬送も行っている。熱傷の患者さんを名古屋の中京病院の熱傷センターに医師が同行して搬送したという。
 また救急隊からの電話には全て医師が出るなど、救急隊との厚い連携も特徴である。救急救命士の訓練やメディカルコントロールも行い、CPA患者に対する救急救命士の事後研修も行うなど、3次救急施設と変わらない体制を構築している。

(2)循環器科

 循環器科は7人の常勤医を有し、高度な専門診療を行っている。先ほどもご紹介したように病院内に常に循環器科医が常駐しているため、急性心筋梗塞、うっ血性心不全、不整脈などに迅速に対応可能である。2006年は99人のCPA患者さんが搬送され、4%が3か月以上の救命、2人が社会復帰を果たしたという。

 入院患者数が毎年伸びており、年間で心臓カテーテル検査は約800例、風船療法、ステント留置などの冠動脈形成術は約200例、永久ペースメーカー植え込み術は約30例となっている。特筆すべきは高周波カテーテルアブレーション治療であろう。綿貫正人部長の専門であり、年間約50例と、滋賀県内でも滋賀医科大学附属病院、滋賀県立成人病センターと並ぶ良好な成績を修めている。この治療は滋賀、京都、奈良の3府県では6病院のみ可能であるため、県外からも多くの来院患者さんを集めている。
 「間欠性跛行が見られる閉塞性動脈硬化症例でもカテーテルによる血管内治療が可能になり、今後、症例が増えることが予想されます。このような高度専門医療を積極的に提供していきたいですね。」

(3)緩和ケア

 彦根市立病院では以前からターミナルの患者さんが多く、赤松院長も外科医として、その姿を多く目にしてきた。
 「病棟の片隅で亡くなっていく患者さんに対し、何かしたいなあという思いが強くなりました。その気持ちが看護師にも芽生え、14年ぐらい前から滋賀県内の他の病院とともに研究会を始めたのです。ちょうど新病院の建設とその研究会の進行状況が重なり、新病院で緩和ケアを始めることになりました。」

 ほぼ同時期に大津市民病院、滋賀県立成人病センター、ヴォーリズ記念病院などでも緩和ケアが開設され、滋賀県は人口130万に対して、80床を持つという緩和ケアの先進地域となった。
 彦根市立病院には京都市の音羽病院で心療内科医として活躍していた黒丸尊治医師が部長として着任し、20床の病床を完備した。黒丸部長はホリスティック医学を研究し、「がんばらずあきらめないがんの緩和医療」、「心の治癒力をうまく引きだす」などの著書があり、各地で講演も行う。
 もう一人の田村祐樹医師は外科医で、サイモントン療法などを行う。サイモントン療法はがん患者さんとその家族のためのヒーリングプログラムで、カウンセリングやグループ療法を通して、感情の安定を図ろうとするものだ。イメージ療法もサイモントン療法に含まれる。
 またゴールデンレッドリバーによるアニマルセラピーやアロマセラピー、リフレクソロジーなども行っている。
 「アロマやフットケアの学校に通う生徒さんに来てもらっていますが、生徒さん自身にも素晴らしい体験になっていることと思います。先日はパチンコが大好きだった患者さんのために、看護師がどこからかパチンコ台を入手して、させてみたところ、パチンコをしている間は痛みが消えたそうです。パチンコ療法なんでしょうか(笑)。公立なので、予算などに制約はありますが、中心テーマである安らぎと希望の実現に取り組んでいきたいですね。」

 緩和ケア病棟で亡くなった患者さんのご家族は「家族会」を作っており、病院スタッフとも懇親会を行っている。
 「緩和ケアを始めるときは地域の皆さんに受け入れていただけるのか不安もありました。患者さんは良くなって退院するときには感謝の言葉をおっしゃいますが、亡くなった場合はご家族から医療者に対して不満があるものです。しかし緩和ケアではご家族からの感謝の気持ちが伝わります。寄付をしてくださることもあるほどです。緩和ケアは医療の原点であると一外科医としても思います。」

(4)外科

 赤松院長が長く現場を牽引してきたのが外科である。乳腺の専門医もいるが、基本的に6人の常勤医が消化器外科と乳腺外科の両方を扱っている。2006年度の手術症例は650例と高い実績である。
 腹腔鏡、胸腔鏡での手術も積極的に行い、早期の大腸がん、胃がんなどへ適応を拡大しているところだ。
 外来化学療法室を設け、切除不能の悪性疾患や再発症例に対しては化学療法も行う。
 「今後は地域の開業医の先生方との連携を厚くして、救急の受け入れなどもさらに努力していきたいですね。」

(5)放射線科

 旧病院時代からの画像データを保存し、現在も参照することができるため診断レベルの向上につながっている。画像情報は患者さんごとに管理され、外来、病棟からの閲覧もできる。
 「彦根市医師会との共同事業で、画像を診療所から参照可能なシステムも稼働させています。病院の画像を参照しながら、かかりつけの開業医の先生に診察していただく病診連携が進んでいます。また京大病院との間にも回線をつないでいますので、特殊な症例の読影にもわざわざ来てもらうことがなくなりました。」

 <運営・経営方針>

(1)経営方針

 赤松院長に経営方針を伺った。
 「地方の公立病院は医師不足の影響を最も大きく受けています。自治体病院の再編も始まり、一つの中核病院とサテライトのほかの病院という話も聞きますが、それで解決とはならないはずです。救急医療では中核病院が最後の砦です。ここが崩壊されていくことを危惧しています。医師不足を解消し、人材を確保していかないと中核病院としての責任を果たせないでしょう。私どもとしては産婦人科や神経内科のメンバーを揃えて、元の体制に戻し、質の高い医療を行くことに尽きますね。」

(2)人間ドック

 彦根市立病院では健診センターを完備し、専門医が生活習慣病を中心に早期発見、早期予防に取り組んでいる。
 「健診センターの存在は経営的にはプラスとなっています。最新の検査機器や医療設備があり、需要も高いのですが、さらに人材が必要な部門ですね。」

(3)地域連携

 放射線科の画像転送システムのほかに、紹介状への返事を出したかどうかが一目で分かるシステムなども導入し、病診連携をハードの面からも進めている。地域の開業医も下部内視鏡を用いたり、手術に立ち会ったりするなど、連携はスムーズである。
 「地域に70~80軒の診療所がありますが、ほぼ三分の一が私どものOBなんですよ。皆、顔見知りで、お酒もよく一緒に飲みますね(笑)。医療相談室を設置したときには備品を全て寄付してくださるなど、地域連携はとても円滑です。開業医の皆さんの期待に応えられるような質を保っていかなくてはと思っています。」

  <今後の展開>

 現在、計画中の取り組みとしては、もともと県立短大の図書館だった隣地の建物を改築しています。こちらは「医療情報センター」という名称で、緩和ケアのイメージ療法やマッサージを行ったり、または患者さん用の図書館として活用したいと思っています。ほかに常設的な市民講座の開催も模索しています。新病院が稼働を始めるまでの期間に各科の部長が各公民館を回り、認知症や難聴などの話などのほかに、新病院についての紹介もするという病院懇談会を開催したのですが、好評を頂いたんですね。医療情報センターでは、医療を行う人と医療を受ける人の間の距離を埋めていけるようなさらなる努力をしていきます。医療に関しては、まずは医師を確保したうえで、新たな展開ができればと考えています。

  <メッセージ>

 私どもの医局は京大が三分の二で、あとは岐阜大、滋賀医大、関西医大と様々な大学の出身者がおり、垣根の低さが特徴です。「チーム医療」と格別に言わなくても、その雰囲気が広がっており、気持ちよく助け合える環境です。人間関係もよく、自由すぎるくらいです(笑)。一緒に働いてくださる方をお待ちしております。

  <病院の理念>

基本理念
1.湖東保健医療圏の総合的医療センターとして高度な医療を提供する。
2.安全性、信頼性の高い良質な医療を提供する。
3.患者の権利と満足度に配慮した患者中心の医療を提供する。
4.公立病院として保健・医療・福祉機関との連携をはかる。
5.教育・研修機能をもつ地域に開かれた病院をめざす。

  <アクセス>


JR東海道本線 彦根駅下車 バス約20分「市立病院」下車すぐ
JR東海道本線 南彦根駅下車 バス約10分「市立病院」下車すぐ

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2008.06.01 掲載 (C)LinkStaff

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