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軸足は地域に、目線は世界へ
りんくう総合医療センター 市立泉佐野病院

 市立泉佐野病院は1952年からの長い歴史を持っているが、関西国際空港の開港を機に空港対岸のりんくうタウンへの新築移転を果たし、「りんくう総合医療センター 市立泉佐野病院」として、1997年に新しいスタートを切った。りんくう総合医療センターは日本初となる感染症センター、泉州地域唯一の独立型三次救急施設である泉州救命救急センター、そして21診療科、348床を有する市立泉佐野病院の3施設から成っている。
 りんくう総合医療センターの特徴は大阪府地域災害拠点病院、関西国際空港緊急計画医療機関としての取り組みに加え、泉州地域の脳卒中、心筋梗塞、がんの診療を中心にした高度医療にある。また外国人の受診も増加してきたため、国際外来科をスタートさせるなど、地の利を生かした独自の医療も展開している。 今回は泉佐野市病院事業管理者でもある種子田護総長と川野淳病院長のお二人にお話を伺った。

◆ 種子田 護 総長プロフィール

1940年生まれで鹿児島県指宿郡の出身。1965年に大阪大学医学部を卒業し、1966年に大阪大学医学部第二外科学教室に入局する。1969年から3年間、脳神経外科レジデントとしてアメリカに留学する。1970年に大阪大学医学部脳神経外科学教室発足により、同科に移籍する。1984年に阪和記念病院院長に就任する。1990年に大阪大学医学部脳神経外科助教授を経て、1994年に近畿大学医学部脳神経外科教授に就任する。2007年に近畿大学名誉教授に就任し、同年、泉佐野市病院事業管理者(総長)としてりんくう総合医療センター市立泉佐野病院に着任する。

◆ 川野 淳 病院長プロフィール

1945年に香川県高松市に生まれる。1971年に大阪大学医学部を卒業し、大阪大学医学部第一内科に入局する。1977年にテキサス大学生化学教室のリサーチフェローとしてアメリカに留学する。1997年に大阪大学医学部第一内科助教授を経て、1999年に大阪大学医学部保健学科病態生体情報学教授に就任する。2006年に大阪大学医学部保健学科学科長、大阪大学大学院医学系研究科副研究科長、大阪大学評議員に就任する。2007年に市立泉佐野病院に病院長として着任する。

  <病院の沿革>

 市立泉佐野病院は1952年に泉佐野市市場町に開設された。当時は内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、歯科の6診療科で病床は71床だった。すぐに小児科が新設されたほか、第5期までの増築工事が行われ、1959年には308床を有する発展を遂げる。こののち整形外科が新設され、348床にまで増床されていく。
種子田総長は語る。
「建物、設備ともに老朽化していき、難しい手術などは大阪市内に搬送するようにもなっていったようです。そこへ関西国際空港の開港に伴い、対岸にりんくうタウンという新しい街ができることになり、先端的な医療機器を完備した地元完結型の高度専門医療を目指して移転を決めたのです。さらにりんくう総合医療センターとして、市立泉佐野病院のほかに感染症センター、泉州救命救急センターも新設の運びになりました。」
 関西国際空港開港から3年後の1997年に新しい病院での診療が始まった。19診療科358床を揃え、病診連携を推進するための地域医療推進室も開設された。
 「当時、私は近畿大学教授と兼任する形で関空の中のクリニックで所長をしていたのです。対岸から『いつまでも工事をしているなあ』と眺めていましたよ(笑)。開院式にもお招き頂いたのですが、アレンジやコンセプトの斬新さに驚きました。」

 新病院にはNICUを備えた周産期医療体制が充実しているほか、災害拠点病院、関西国際空港緊急計画医療機関としての機能が完備された。
 「岸和田市から岬町までの広い範囲での地域や関空での大災害を想定し、廊下でもどこでも病棟になりうる機能を持っています。実際にエアポケットやタービュランスによる飛行機内でのけがや病気で降機後すぐに受診される患者さんもいらっしゃいます。日頃から同じセンター内の泉州救命救急センターと一緒にレベルの高い臨戦的な訓練も行っています。」

 併設の感染症センターは輸入感染症の国内侵入を阻止するために日本で初めて開設された施設である。新感染症まで対応可能な特定感染症指定医療機関であり、日本全国に12機関ある第一種感染症指定医療機関になっている。センター内には感染症病室8床に加え、個室の高度安全病室が2床、大型滅菌装置も備える。この高度安全病室は2003年に国立国際医療センターが認定を受けるまで日本で唯一の施設であった。また関西空港検疫所と共同での高度安全病床への患者搬送訓練も行っている。
 「SARSや鳥インフルエンザなど感染症関連の問題も多様になっていますが、私どもが真っ先に対応していかないといけませんので、苦慮していますよ。今後の体制の構築が急務となっています。」

 さらに市立泉佐野病院では日本内科学会認定医制度教育病院、日本外科学会外科専門医制度修練施設など、32学会に及ぶ学会認定施設を取得し、次世代の人材育成にも力を注いでいる。

  <病院の特徴>

◆心臓センター

 循環器科の医師5人、専任レジデント2人、心臓血管外科の医師3人が心臓センターのスタッフとして一体となっている。8床のICUを含め、急性期循環器疾患に対する24時間体制での高度医療を行う。救急患者及び、病院や医院からの問い合わせには循環器専門当直医が24時間体制で対応する。特にカテーテルインターベンション治療では常に緊急対応チームが3チームでスタンバイし、堺市以南から大阪府最南部まで、人口約100万人に及ぶ広い範囲の急性期心臓救急を担っている。2005年のPTCAの症例数は610例、開心術、OPCABなどの手術が90例となっている。ただし薬剤溶出性ステントの登場で、PCIの再狭窄が少なくなったため、冠動脈バイパス術も減少傾向にある。
しかし心機能が低下した患者さんに対する開心術は積極的に行っており、関空を利用した遠隔地からの手術要請にも応えている。2005年度は沖縄の宮古島から多数の来院患者を迎えたという。さらに2006年には泉大津市の泉大津市立病院と提携し、泉大津市の心臓疾患患者の診療を開始した。
「初代総長の藤田先生が心臓外科医でいらっしゃったこともあり、重点を置いてきた部門の一つです。このセンターだけで独自の当直体制を組んでいることは誇らしいですね。8人いるからこそ安定した医療が可能であると思っています。」

◆脳卒中センター

  地域における脳神経外科診療の中核病院として、日常の診療のみならず救急対応から回復期リハビリテーション病院との連携まで幅広く担う。6人のスタッフで、脳手術件数近畿地区26位の実績を上げる。脳卒中はがん、心筋梗塞と並んで市立泉佐野病院の代表的な疾患の一つであるため、2005年から「脳血管障害」が初期研修医の必修研修課目に指定され、初期研修医がローテートを行っている。
2005年に認可された脳梗塞超急性期に対する経静脈的tPA治療では関西を代表する症例数を数える。また全国でも数少ない、パーキンソン病に対する深部電極留置による刺激療法、拘縮に対する末梢神経手術、顔面・眼瞼痙攣に対するボトックス治療なども積極的に行っている。
 「くも膜下出血、脳出血、脳梗塞に対する緊急手術、 血管内治療、tPA静注療法などが24時間体制で可能です。時間内になるべく早く治療しなければ意味がない脳疾患は救急隊との連絡も肝要ですし、医師会への養成や市民への啓蒙も必要です。そういった地域医療システムを今後も整備していかなくてはいけません。」

◆がん治療

 種子田総長が「病院の規模が小さいので、どうしても心臓優先になるが、そういった環境の中でもよくやっている」と評価するのが、がん治療である。とりわけ、このところ症例数が伸びているのが乳がんで、2004年からセンチネルリンパ節生検とラジオ派焼灼術を始めたところ、前年の2倍以上の伸びが見られ、2005年度は159例という実績であった。
 川野病院長は話す。
 「45年の実績があり、各学会の指導医、専門医、認定医が在籍しています。『いい病院ランキング』などの本にも取り上げて頂くことが多いですね。このほど出版された本では乳がん15位、食道がん29位、前立腺がん20位と近畿地区では上位にランクされています。これからも新しい術式の開発を進めて、全国のがん治療をリードしていきたいと思っています。」
 また外科ではテレ・サージェリーシステムの導入を完了し、手術を全国の大学や国際学会会場に同時画像中継で転送し、技術の公開を行っている。

 一方、2005年には呼吸器外科が独立した診療科となり、主に肺がんの治療に当たっている。全手術総数は2005年度は124例で、そのうちの約80%にあたる97例で胸腔鏡を用いている。

 さらに特筆すべきは放射線治療科の存在であろう。従来の放射線科とは別に2007年に新設されたものだ。種子田総長は「患者さんのためを思えば、切らずに治療する放射線治療は重要であり、このほどピンポイント照射が可能な機器も購入しました。これでさらに精度を向上させ、大阪有数の施設になっていきたいですね」と期待を寄せる。

◆周産期医療

 周産期医療の中心はNICUの運営である。大阪府南部では2施設のNICUが廃止されたため、市立泉佐野病院の存在意義はますます高まっている。なお2005年の入院数は年間57人となっている。極低体重児など重症度の高い入院児の割合が増加しているため、在院日数の延長が生じ、入院数は若干の減少が見られた。
 小児科の救急外来は1996年からは始まった泉州地区6病院(和泉市立病院、泉大津市立病院、市立岸和田市民病院、岸和田徳洲会病院、市立貝塚病院、市立泉佐野病院)による輪番制小児救急で行っている。
  種子田総長は「現在、泉南地域で1次から3次までを診ているのは私どもだけです。従来、医師当直は1人でしたが、統合後は万全を期して2人体制で備えることになりました。

 2008年4月からは市立泉佐野病院産婦人科と市立貝塚病院産婦人科は一つの組織として統合する。市立泉佐野病院が「周産期センター」で分娩や帝王切開、市立貝塚病院は「婦人科医療センター」として婦人科手術を行い、それぞれの役割を担う。それに伴い、市立泉佐野病院では手術などの器材を市立貝塚病院に譲渡し、LDR室を新設する。また市立貝塚病院からは助産師などのスタッフを迎えることになる。
 「補助金もありますが、負担も大きいというのが正直なところです。スタッフも増員して、9月頃には本格的な体制にしていきたいですね。最後の砦としての価値を高めてくれるようなスタッフの心意気を願っています。」

◆国際外来

 関西国際空港のある街の市立病院として多くの外国人患者が来院するため、中国語、英語、スペイン語、ポルトガル語の医療通訳が常駐し、英語での請求書発行も行っている。医療通訳は手術検査同意書の通訳、手術、重要な検査の同行通訳、重要な患者説明の通訳を行う。また一般通訳者として、交通費のみ支給されるボランティアでの認定外国人サポーターも募り、外国人患者の受診をフォローする。

 2006年から始まったのが英語、ポルトガル語、スペイン語による国際外来である。これは総合外来であり、必要に応じて専門外来を紹介する。英語と中国語では医療通訳がつき、ポルトガル語とスペイン語での診察は南谷医師が直接担当している。完全予約制で急性期症状ではなく、あくまでも言葉が不自由で日本での受診が困難な外国人が対象となっている。
 種子田総長は「中国では肝がんが増加傾向にあります。今後は中国の富裕層においで頂き、私どもが高い医療レベルの治療を行い、短期間でお返しできるようになればいいですね。私がアメリカに留学していたとき、有名な先生のもとに世界中から患者さんが集まっていましたよ。ビザの問題などもありますが、私どもでも関空という地の利を生かした診療をしていければと思います」と将来像を描く。

 <運営・経営方針>

◆経営方針

 種子田総長に経営方針を伺った。
 「理想の方針もありますが、現実にはスタッフがいかに働きやすい病院を作るかということです。勤務医はずっと悲惨な労働条件のもとで働いてきました。余裕のないところでは何もできないのです。できる範囲内で改善していけば、医師の報酬も向上します。そうすれば満足度も上がり、優秀な人材が集まってきます。そこで初めてダイナミックな施策も可能になるのではないでしょうか。公立病院はどこも苦しい事情を抱えていますが、職員の士気を高めることをまずは実現させたいです。」

◆りんくう医療ネットワーク

 市立泉佐野病院が中心となって「りんくう医療ネットワーク」を構築している。これは、かかりつけ医、ネットワーク病院、ネットワーク薬局、福祉機関、市立健康増進センター、介護センター、保健機関などを有機的につなぎ、地域ぐるみの医療サービスシステムを運用するものだ。具体的には他の医療機関との相互の紹介、医療機器の共同利用、研究会、臨床検討会などを開催している。毎月第3木曜日には「りんくうカンファレンス」を行っている。
 川野病院長は「この地域はリハビリテーションの病院が多く、もともと開業医さんとの連携も良いところです。私どもの平均在院日数は約13日ですが、これもこうした連携があってこその数字だと思っています」と語る。

◆市民大学健康講座

 市立泉佐野病院では市民大学健康講座と称し、毎月テーマを決めた健康講座を実施している。脳卒中や感染症、肥満など、医師がそれぞれの専門を生かした講演を行い、活発な質疑応答の場となっているそうだ。
 また糖尿病教室も行い、食事や運動を含めた生活指導について、医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養士が講義している。
 クリスマス時期にはエントランスホールで「りんくうクリスマスコンサート」を開催し、既に8回を数えているという。

  <今後の展開>

 種子田 医師が誇りを持って働けるようなシステムを構築したいと考えています。たとえばメディカルクラークの設置もその一つです。メディカルクラークがいれば、医師が医師免許がないとできないような仕事に力を注いでいけるでしょう。それから待遇面では年功序列的な面を見直し、能力があって、熱心な医師が好待遇となるよう、めりはりをつけていきます。当直の多さ、入院患者の受け持ちの多さ、医業収入を上げたかどうか、協調性があるか、学会発表や論文の多さ、管理的なアクティビティーなど、あらゆる項目を点数化し、「これだけ働いたのだから、これだけの報酬になった」という根拠にします。私立病院が引きぬきに示す程度の報酬を出せば、優秀な医師の確保になると思っています。

  川野 医師とコメディカルスタッフの人員増や給与面など、医師だけでなく全てのスタッフの働きやすい環境を整えていきます。公立病院ではサービスと経営の両立は難しいですが、工夫を重ね、働きやすい職場に改善していければと考えています。

  <病院の理念>
納得と安心感を与える医療を実践します。
良質で適切な医療を提供します。
医療活動を通じて社会に貢献します。
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  <アクセス補足>
南海電鉄空港線、JR関西空港線 りんくうタウン駅より徒歩4分

2008.03.01 掲載 (C)LinkStaff

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