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人間愛に基づくいたわりの医療
奈良社会保険病院・嶌原康行院長

  奈良社会保険病院がある奈良県大和郡山市は奈良市の南に隣接する、人口93000人あまりの都市である。市内には数多くの古墳や史跡が現存し、金魚の養殖は全国的に知られた街の主要産業となっている。

  奈良社会保険病院は15科253床を有する、市内の唯一の公的総合病院である。監督官庁である社会保険庁の解体が決定になったが、奈良社会保険病院のこれまでの高い実績を信頼する地域住民からの強い要望があり、今後は経営形態を変えての存続が期待される。

  嶌原康行院長は2006年1月に副院長として着任した。同年4月に病院長に就任して以来、病院経営に辣腕を振るう。「病院の理念である、『人間愛に基づくいたわりの医療』を私自身が率先したい」と語る嶌原院長にお話を伺ってきた。

◆嶌原康行院長プロフィール

  1948年大阪府堺市生まれ。1973年に京都大学医学部を卒業後、京都大学医学部附属病院で外科研修医となる。1975年に新潟県立中央病院外科医員、1978年に京都大学医学部附属病院外科医員を経て、1982年にケルン大学医学部実験医学研究所フンボルト奨学生としてドイツに留学する。帰国後、1987年に京都大学医学部第二外科助手、1993年に愛媛大学医学部第一外科助教授を経て、1997年に京都大学大学院医学研究科消化器外科助教授に就任する。2003年には京都大学医学部附属病院消化器外科診療科長を兼任する。2006年1月に奈良社会保険病院に副院長、医務局長として着任し、同年4月に病院長に就任する。

 専門は消化器外科、肝胆道外科。日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、日本臨床外科学会評議員、肝胆膵外科学会評議員など。

  <病院の沿革>

  戦後の混乱した社会情勢の中で、医療行政の整備が強く求められていた1946年6月、奈良県桜井市に日本医療団健康保険三輪病院が開設された。これが奈良社会保険病院の前身である。病床数は50床で、個人病院を買収しての開設だったという。 

 1958年に全国社会保険協会連合会に経営移管された。この全社連は国から社会保険病院の経営を委託され、運営を行うもので、社会保険病院は健康保険法に基づいた政府管掌保険の福祉施設となっている。1961年には現在地に移転し、社会保険大和郡山総合病院に改称する。8科150床と総合病院としての新しいスタートであった。
嶌原院長は語る。
「この経営移管と現在地への移転が私どもの歴史の中でのエポックメイキングでしょう。 移転に関しては、前の土地が手狭になっており、より多くの増床が望めないことが大きな理由だったと聞いています。」
その後、順調に増床を続け、1993年には奈良社会保険病院と、現在の名称に改称し、病床数も301床となる。診療科に関しても、2002年に消化器科、循環器科、2003年に呼吸器科、2004年に呼吸器外科、2005年に形成外科を増設し、現在は15科と多くを揃える。
「病床は看護師不足などもありまして、現在は253床となっています。診療科は患者さんのニーズに応えるために、できうる限り増やしてきました。今年の秋には皮膚科を増設します。これは入院患者さんからのニーズが高まったことがきっかけですね。これで外来患者数の増加にもつながるのではないかと期待しています。」

 

  <病院の特徴>

◆ 消化器科
  内視鏡での診断と治療がメインである。常勤医が6人と、この規模の病院としては厚めの体制となっている。上部、下部消化管内視鏡検査のほか、内視鏡的逆行性膵管胆管造影検査、胆道鏡検査なども行う。さらに結石や良性悪性胆道狭窄などが原因の閉塞性黄疸に対する内視鏡的結石除去術や内視鏡的胆道ステント留置術などの治療でも良好な成績を収めている。 嶌原院長は「心臓や糖尿病、代謝など内科の領域は幅広いわけですが、その中でも消化器の存在は大きく、食道から直腸までできるところは全部という気持ちでやっています。その中でも肝胆膵は重要なパーツであり、手術以外の局所療法として内視鏡を用いています」と話す。


◆ 循環器科
  3人のスタッフが外来、心臓カテーテルなどをこなす。心臓カテーテルの検査、治療は週に2日行われているが、1日に5、6例という高い件数となっている。「心臓カテーテルは一人ではできません。3人の良いチームワークで頑張ってもらっていますよ」と嶌原院長も全幅の信頼を寄せる。


◆ 外科
2006年に肝臓を専門とする嶌原院長が着任し、肝胆膵外科外来を開設したところである。さらに肝がん、胆のうがん、胆管がんなどの手術数も増加し、地域の患者さんも遠方の大病院に通院する必要がなくなった。
「京大はもともと肝臓のメッカですし、私も以前京大にいたときに、このあたりの患者さんをよく診ていました。こちらに来たからには、力を尽くして地域住民の方のご期待に応えたいですね。」
腹腔鏡手術にも積極的に取り組んでいる。進行が緩やかな胃がんや大腸がんなど、全国的な傾向と期を一にするように、ここ2年で大幅な伸びを見せる。ちょうど京都大学の消化器外科教授に腹腔鏡の名手である坂井義治先生が就任したこともあり、各関連病院からも研修に訪れるなど、大きな影響を及ぼしている。
鍛利幸外科部長によるセンチネルリンパ節生検も特筆すべき検査であろう。これは浜松ホトニクスと共同で開発したICG蛍光法により、乳がん術後の後遺症を軽減させるものである。
「センチネルとは『見張り』の意味で、転移の有無を調べ、取るべきリンパ節を選別する手法です。昨今、乳腺がんが増えてきましたが、患者さんの負担を少しでも取り除いていけるものと確信しています。また鍛部長は腹膜偽粘膜腫の手術でも多くの症例を手がけています。手術自体が難しいものなのですが、一人で年10例ほど行っています。」
また、外科には後期研修医が1人おり、嶌原院長をはじめ6人の指導医のもと日々研鑽を積んでいる。
「病院の将来を考えたときに後期研修医の存在は重要です。そして若い医師がいれば、病院自体の雰囲気もよくなりますし、何よりも指導医のレベル向上につながりますね。」



◆ 産婦人科
  大和郡山市内で唯一の公的病院であり、かつ唯一の分娩施設を持つ病院であるため、かつては年間700例もの分娩数を誇っていた。しかしながら2006年の分娩数は440例となっているが、2007年夏より常勤医が3人体制と、1人増員されるため、一層の充実が期待されるところである。産婦人科での大きな特徴は28人もの助産師を擁することであろう。もちろん奈良県下では最大数であり、近畿圏でもトップクラスだという。人材の育成にも積極的で、毎年多くの看護学生の実習を受け入れている。
常勤医が2人体制であったときに、助産師が「助産師独自の機能を発揮したい」と申し出て、2005年に開設したのが助産師外来である。医師が超音波検査の指導を行ったうえで、助産師が妊婦健診や母乳相談を実施するというものだ。妊婦は家族とともに来院し、妊娠早期から超音波で胎児の動きや心拍を確認し、家族を含めた保健相談を受けることができる。また正規産の時期にはアロマを用いた足浴や下肢のマッサージも取り入れている。健診者数は2006年度で延べ739人を数えるという。 行政が産科医不足の解消策の一つとして、助産師外来のほかに推進しているのが「院内助産院」であり、奈良社会保険病院も開設に踏み切った。
「経産婦であること、異常妊娠でないことなど様々な条件がありますが、医師の関与なく分娩ができる体制です。助産師外来を通じて、患者さんとの信頼関係が構築できていることもこの成功につながっているかと思いますね。」


◆ 泌尿器科
奈良県下で唯一の泌尿器科腹腔鏡技術認定医、日本内視鏡外科学会泌尿器科認定医を有しているため、泌尿器悪性腫瘍の診断、治療に高い実績を持つ。
「手術に関しては外科から手厚くフォローしています。遠方からの患者さんが多いのも泌尿器科の特徴です。」


◆ 整形外科
関節変性疾患にあたっては、変形股関節症には人工股関節置換術、変形性膝関節症には高位脛骨骨折術、人工膝関節置換術を主に行う。奈良県下では珍しい無菌手術室を有しているため、人工関節置換術は益々の増例が見込まれる。
「濱弘道前院長、現在の北大路正顕副院長が整形外科ということもあって、以前から力を入れてきた科です。リハビリテーション科との連携がきちんととれているため、術後のリハも充実しています。」


◆ 放射線科
温熱療法で知られる。第一人者である京都大学の平岡眞寛教授が設計に携わったサーモトロンを活用し、様々な治療と組み合わせながら、良好な結果を得ている。

  <運営・経営方針>

◆ 社会保険庁の改革の中で

 全社連の傘下に52病院と4診療所があり、器械の購入やスタッフ研修に関して全社連の援助はあるものの、それぞれ独立採算制で運営を行っている。奈良社会保険病院ではここ数年黒字を続けているという。社会保険庁の改革案が取り沙汰されているが、このほど傘下の病院がある自治体でアンケートを行ったところ、「病院をなくしていい」という声はほとんど上がらなかった。「社会保険病院に行けば、なんとかなる」という住民からの強い信頼が伺える結果となったといえよう。
「私どものことを『市民病院』と呼んでくださる住民の方も多いです。特に産婦人科、小児科、救急でのニーズを強く感じました。様々な議論があってしかるべきですが、行政には新しい経営形態でのベストの方法を考えて頂きたいものです。」


◆ 医療連携相談室

  従来の地域医療社会事業室を発展的に機能強化を図り、2007年4月に発足させた。MSWを中心に、病診連携を徹底し、中核病院としての役割を果たすための組織である。開放型病床の利用も多く、逆紹介率も上昇しているという。
「機能分担の徹底は医療費の抑制にもつながりますので、関係医療機関とはさらに良い関係を築いていきたいですね。」


◆ 健康管理センター

  全国の社会保険病院で健康管理センターを有しているが、奈良社会保険病院でも64列のマルチスライスCT、デジタルマンモグラフィーなど、最新の機器を導入して高度な検査を行っている。また健診バスも2台持ち、吉野地方などへも泊りがけで出張健診に赴く。

 「来年4月から特定健診・特定保健制度が始まります。私どもでも医師3人、保健師6人に栄養士を加えたチームを作り、体制を整えているところです。」

  <今後の課題>

 急性期病院の生き残りにあたっては得意分野に特化する病院であることが必須でしょう。私どもでは、その分野を消化器科、腹腔鏡、肝胆手術などの消化器外科、腹腔鏡を用いる泌尿器科だと認識しています。また産婦人科はこの時代の中で存在すること自体が意義だと考えていますので、引き続き傾注していきたいですね。また社会保険病院は昔から予防医学に力を入れてきました。メタボリックシンドロームなど、健康への関心が高まっていますので、健診もさらに重要になるでしょう。私どもの豊富なデータを有効に活用して、地域の方々のお役に立ちたいと願っています。

  <メッセージ>

 私の世代は徒弟制度で育てられ、その修練を積む過程で、医師はいかに有形無形の人々に支えられてきたのかを実感してきました。そして指導する立場になったときに恩返しをしていこうと考えていたものです。

本来、医療はビジネスライクな考え方とは相容れないものですが、昨今医師の意識も変わってきたようで寂しく感じることもあります。サッチャー政権のもとでイギリスの医療が崩壊したように、日本の医療も危機に晒されています。

医療にビジネスの手法が導入されること、マスメディアのあり方など、医師が生きがいを見出しにくい時代ではありますが、医師の仕事は尊いことだという意識を常に持って頂きたいものです。

  <病院理念>
 「人間に基づくいたわり医療の実践」
  <病院概要>

創立

昭和21年6月1日

住所

〒639-1013 奈良県大和郡山市朝日町1番62号

電 話

0743-53-1111

建物

鉄筋コンクリート造 地下1階、地上5階、塔屋2階

病床数

253床  病院機能評価認定施設

診療科目

内科、呼吸器科、消化器科、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科

研修認定
施 設

日本外科学会外科専門医制度修練施設
日本乳癌学会関連施設
日本整形外科学会専門医による研修施設
日本泌尿器科学会泌尿器専門医教育施設
日本産婦人科学会専門医制度卒後研修指導施設
日本眼科学会専門医制度研修施設
日本医学放射線学会放射線科専門医修練協力機関承認施設

  <アクセス補足>

・近鉄橿原線 近鉄郡山駅 徒歩1分
・JR関西本線 郡山駅 徒歩10分

2007.07.01 掲載 (C)LinkStaff

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