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公立病院の使命とは?
草加市立病院

「草加せんべい」で知られる埼玉県草加市は県東南部に位置しており、越谷市や川口市、東京都足立区に囲まれた交通の要衝である。
 23万市民の生命と健康を守る
草加市立病院、その起源は1958年開設の国保直営診療所にまでさかのぼる。1967年に現在の名称となり、1987年に総合病院として承認されたことでさらなる飛躍を遂げた。地域医療の中核的存在としての使命を果たすため、日夜奮闘を続けている。今回は高元俊彦院長兼病院事業管理者にお話を伺った。

 高元俊彦院長は1974年、鹿児島大学医学部を卒業。甲府共立病院での内科研修後、東京医科歯科大学第二内科で勤務した。1982年、文部省在外研究員としてスタンフォード大学循環器部門に派遣される。帰国後は東京医科歯科大学講師、長野厚生連北信総合病院副院長などを経て、2005年10月、草加市立病院病院長・病院事業管理者に就任した。


高元 俊彦 院長兼病院事業管理者



  <病院の沿革> ―― 「病院事業管理者」その責務 ――
 永く草加市民の健康を守り続けてきた草加市立病院は、2004年7月に移転新築された。もっとも、近隣の越谷市や東京都足立区に大病院があるため、建て替えは必要ないという意見もあった。しかし市民が頼りにできる総合病院が絶対に必要だとの声が沸きあがり、草加市の全面的バックアップのもと、新築が実現したのである。
 2005年10月、新たに院長に就任した高元先生は、同時に病院事業管理者を兼務することとなる。そもそも、「院長」と「病院事業管理者」とは、どう違うのだろうか?

病院外観

 公立病院の場合、院長はあくまで医療のトップであり、経営に関する権限はない。経営に関する決定権は行政側あるいは議会が握っている。院長は病院の医療そのものには権限を有するが、その根本である人事や予算編成には手がつけられない。
 一方の病院事業管理者とは、病院の経営権を与えられた存在、いわば「病院の社長」である。行政府・議会からの一定の制限は受けるものの、基本的には人事権・予算編成権を掌握している。任期は4年。院長では触れられなかった部分にメスを入れることが可能となる。もちろん結果に対する責任はすべて取らなくてはならず、極めて重い任務と言える

 
  <病院の特徴> ―― 救急24時間、小児科365日 ――

 高元院長は、草加市立病院トップとしての志をこう語る。
「地域の基幹病院として、私どもには他の民間病院さん以上の責任があると思います。市民のどんな病でも受け止めてさしあげられる、そんな病院にしなくてはなりません」
 同院の草加市民への献身的スタンスは、時間を問わない患者の受け入れに現れている。救急は24時間スタンバイしており、小児科はドクター5人のローテーションで365日診療を確立している。
「特に小児科の365日体制は、若いお父さん・お母さんから評判がいいんですよ」と院長は目を細める。
 また脳外科についても体制強化が進んでいる。かつては患者を受け入れる余地が少なく、脳溢血などの重症患者は他院へ回ってもらう事があったのだが、現在は受け入れ体制が完備された。


1F受付周辺

 市民のための医療を支えるのは、スタッフの不断の努力である。院長は彼らの働きに深く感謝するとともに、公立病院の職員としての自覚と責任感を、いっそう高めてもらいたいと願っている。
「私たちは民間病院と違い、競争ばかりを念頭に置くわけにはいきません。来て下さった患者さんに満足してもらい、『ああ、やっぱり草加市立病院を頼って良かった』と言っていただくことが第一なのです」
 競争よりも責任の完遂―――同院はこれからも草加市民のために歩み続ける。

 
  <運営・経営方針> ―― 公立病院の使命 個性よりもバランス ――

 昨今、特定の分野に重点を置く、個性的な病院が多く出てきている。それについて高元院長はこう語る。
「公立病院の場合、突出した個性を持たせるよりも、オールラウンドな医療の提供に重点を置かなければなりません」
 すべての草加市民が安心して頼れる医療の提供、それこそが草加市立病院の使命だ。地域の基幹病院として「どんな病にも対応する」ためには、いたずらに特定分野に偏った医療を展開すべきではない―――それが院長の基本姿勢である。たとえ地味であっても、市民をあまねく救うことが第一だからだ。
 市民のための高度医療を追及しつつも、分野ごとのバランスは保つ必要がある。例えば院内設備に関しても、特定分野に集中する訳にはいかない。ベッド・人材・オペ室…、すべてをバランスよく配分することが求められる。ジレンマの中での難しい舵取りだが、「何が市民のためなのか」を基本に、そのつど最善の選択をしていきたいと院長は言う。


設備導入もバランスが肝心

 また厚生労働省の地域医療へのスタンスについて、院長はこのように見ている。
「国の指導方針を簡単に言えば、病院の役割分担・機能の特化ということでしょう。しかしそれだけが地域医療のすべてではありません。
 例えば、がんセンターや小児医療センターの創設など、特定分野のセンター化が進むのはいいことです。しかし専門的医療機関ばかりに傾いても問題が出ると思います。どんな病にも対応できる総合病院の存在も大切なのです。私たち草加市立病院も、医療のオールラウンド・プレーヤーとして市民の皆さんの役に立ちたい」
 地域住民のため、バランス重視の総合医療を追求していきたいとする院長。そのためには何よりも人材の確保が急務だと続ける。

 
  <今後の課題>  ――草加の産婦人科医療の再建を――

 どの病院にとっても、医師(を中心とした医療スタッフ)の確保は最重要課題である。高度医療を目指し、多額の予算をつけたところで、その担い手である医師の頭数がそろわないことには絵に描いた餅にすぎない。また優秀な人材がいたとしても、少人数の中で無理に仕事を回していては疲弊してしまう。特に医師数が不足している小児科・産婦人科では、その傾向が顕著だ。
 草加市立病院に至っては、医師不足によって産婦人科が休止状態にまで追い込まれたのである。
「今年の三月の段階で、産婦人科の医師の人数がどうしても足りなくなり、やむなく業務をストップしました。もちろん医師個人にはそれぞれ事情があってのことでしたが、当院にとっては痛恨の出来事でした」


産婦人科の休止は断腸の思いだった
(同院ホームページより)

 現在、非常勤医師1人をやっとのことで確保し、「婦人科」として業務を行っている状態だ。出産はいつ何時起こるかわからないため、「産婦人科」として分娩まで行うには365日業務を続けなくてはならない。医師1人ではとても無理だからである(最低でも4~5人は必要)。
 また産婦人科の休止によって、約20人いる助産婦も分娩に携わることができなくなり、一般の病棟業務に従事している。せっかくの職能を生かすことができなくなっているのだ。
 草加市全体をみても、分娩まで対応できる医療機関が極めて少なく、産婦人科の不足は深刻な問題となっている。早急に医師を確保し、一日も早く産婦人科を再開したい…それが院長と病院スタッフの切なる願いである。

 
すべての病院改革が思い通りにいくわけではなく、院長自身も歯がゆさを感じることがあるという。それでもあくまで長期的視野に基づいて、手を打っていきたいと語る。
「病院のように、外部との利害関係が複雑な組織の場合、改革は急激に進むものではありません。ですが、たとえ今すぐに実現できないことであっても、放置していてはいけません。先を見据えて様々な伏線を張っておいて、初めて将来の実りに期待できるのです


 病院全体の医療を見たとき、その目標達成度はまだ60%だと見ている。
「産婦人科の休止もそうですが、まだまだ実現できていない医療が多くあります。質・量ともに1.5倍の向上を目指したいんです」
 問題のすべてを解決するのは容易なことではないが、できることから一歩ずつ、地道に取り組んでいきたいと院長は言う。幸い、市長を初めとする草加市のバックアップ体制は手厚く、地域の基幹病院を守り育もうという情熱がある。彼らとの連携のもと、より良いサービス提供のため妥協なく前進したいとしている。

 
  <院長の哲学> ―― あるべき医師像とは? ――

 院長は今の若い医師たちの心構えに、昔の医師との隔たりを強く感じるという。
「昔は、純粋に医師になりたい人が苦学して医学部に入りました。しかし今では、学力の高い人がとりあえず医学部に行きます。そういう人たちが医療の現場に出ると、経済的な合理性ばかりを追求してしまいがちです」
 つまり、昔の医師であれば収入を二の次にしても患者に奉仕し続けた。しかし今の若い医師は、医療を単なるビジネスとしてとらえ、「お金にならないこと、割に合わないことはやらない」という傾向がある。
「今風の合理主義と言ってしまえばそれまでですが、ちょっとさみしい傾向だと思いますね。例えば警察官や消防士は命がけの仕事ですが、それに応じた給与がもらえているとは言いがたい。ですが彼らが使命を果たしてこそ世の中が成り立つわけですし、人々に奉仕するやりがいも彼らにはあるはずです。これからの医療を背負う若い医師にも、そうした志を持ってもらいたいんです」
 最後に、転職を考えるドクターへのアドバイスを語ってもらった。
「病院が医師に求めることは、何よりも引き受けた患者に対する責任を全うすることです。うちのような公立病院だと、給与の大幅なアップは正直なところ難しい。『医は仁術』という心構えで働く人でないと、続かないと思います。いずれにせよ、医師として進路について考えるなら、『なぜ自分は医者になったのか』ということを、再度自分に問いかけてみてほしいですね」

 院長が先に述べたように、公立病院は開業医や民間病院よりも社会的責任が大きく、医師にとって厳しい部分もあるのは事実だろう。それでも、公的な使命を担う病院ならではのやりがいもきっとあるはずだ。
 私たち編集部が取材に訪れた際、駅のバス停で病院行きのバスを待つ母子連れに出会った。病気の娘さんを抱いたお母さんは、自分たち一家がいかに市立病院を頼りにしているかを、熱っぽく語ってくれた。彼女たちにとって、草加市立病院はまさに「かけがえのない病院」なのだ。
 たとえ地味でも、市民の命と健康を守り抜く医療は、必要不可欠の大事業である。そのやりがいを共有できる医師を、高元院長は待っている。


昼夜問わず市民に奉仕する
 
  <医療理念>

◆ 基本理念

草加市立病院は、市民のいのちと健康を守り、地域医療の中核を担うことを使命とします。

◆ 基本方針

1.地域中核病院の役割
 総合的・急性期医療を基盤に、高度専門、二次救急と地域連携医療の充実に務めます。

1.患者中心の医療の確立
 十分な説明と同意のもと開かれた、患者様の権利を尊重する親切な医療の提供に努めます。

1.安全で良質な医療の提供
 安心して医療を受けられる環境づくりや、市民の信頼が得られる質の高い医療の実践に務めます

1.健全経営の確保
 地方公営企業法の精神を生かし、公共性と経済性とのバランスのとれた健全経営に努めます。

 
  <アクセス補足>

<バス>
・草加駅西口~草加市立病院~松原団地駅西口
・草加駅西口~草加市立病院~安行出羽
・勤労福祉会館~草加市立病院~松原団地駅西口
・安行出羽~草加市立病院~草加駅西口
・川口駅東口(新郷支所経由)~(西町停留所)
~草加駅西口
・鳩ヶ谷駅東口~草加市立病院(西町停留所)

~草加駅西口
・安行出羽~草加市立病院~草加駅西口

<車>
・三郷方面から:外郭環状線草加出口より国道4号線左折→県道さいたま草加線左折
・さいたま市方面から:外郭環状線草加出口より国道4号線右折→県道さいたま草加線左折
・越谷方面から:県道49号線より県道さいたま草加線へ右折
・足立方面から:県道49号線より県道さいたま草加線へ左折


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2005.12.01 掲載 (C)LinkStaff

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