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日本型リハビリの先駆者へ
埼玉みさと総合リハビリテーション病院


黒木 副武 院長

医療にはもちろん真剣に取り組んでいる。だけど、純粋に医療を考えているだけでは、私たちは生き残れないんです」
 埼玉みさと総合リハビリテーション病院・黒木副武院長の言葉である。

 板橋中央総合病院グループに属する同院は、日本でも有数の大型リハビリ病院であり、所在地の埼玉県三郷市は東京都葛飾区と隣接しており、都内のリハビリ患者も多く受け入れている。黒木院長の陣頭指揮のもと、一般企業なみの経営手法を駆使する病院としても、その先進性が注目される。

 黒木院長は1953年生まれ。専門は脳血管障害、神経疾患、糖尿病。1981年、日本医科大を卒業後、同大第2内科医局に入局。その後、新松戸中央総合病院内科部長、副院長などを経て、2002年、埼玉みさと総合リハビリテーション病院の前身である「グリーン病院」院長に就任、現在に至る。
 医師としては、日本神経学会専門医、日本糖尿病学会専門医、研修指導医、日本老年医学会専門医、日本内科学会認定医などの資格を有している。

 
  <病院の沿革>

 昭和47年、「埼玉みさと総合リハビリテーション病院」の前身である「グリーン病院」が誕生する。当時は急性期を担当する基幹病院として、三郷地区では唯一の存在だった。しかし徐々に他の病院が開設され、地域住民の同院への依存度が低下してきた。
 そこで同院は、急性期対応型からリハビリ対応型・療養型へのモデルチェンジを決断し、2002年4月から病院新築に着手する。リハビリ施設の充実と病床数増加のため、従来は駐車場であった敷地にも施設を建設、院内面積は2倍となる。病床数は115床から175床へと大幅な増設がなされた。名称も現在のものに改め、2003年12月、ついに新病院がオープンする。診療科目はリハビリテーション科、内科、神経内科に再編。

 リハビリ専門病院として新生するうえで、同院には明確な理念があった。それは「必要としながらリハビリを受けられない患者の救済」である。
 多くのリハビリ病院では、自宅に戻るのが容易な患者が優先されがちで、重症の患者を多く受け入れる体制は整っていない。埼玉みさと総合リハビリテーション病院は、他院に受け入れてもらえない患者の受け皿になれるよう、体制を確立したのである


 現在、病床175床のうち、回復期リハビリテーション病棟が120床、療養病棟が55床である。
 同院のリハビリ体制は医療業界では高く評価されており、他院からの紹介患者が多い。急性期を脱した患者を外から受け入れ、リハビリ病棟で回復の手助けを。リハビリ病棟で良くなった患者に、必要ならば療養病棟でさらなるリハビリを。同院は段階的に整備されたリハビリ体制で、患者が再び社会に戻るための架け橋となっている。


病院外観

 
  <病院の特徴>

◆ リハビリ概要とスタッフ

 施設については、病院新築の設計時に広大なスペースが確保されている。リハビリテーションセンターは900㎡と国内トップクラスの広さを誇る。そのワンフロアの中に機能訓練室、言語聴覚室、物療室など、すべてのリハビリ施設を配置することで、患者の移動の負担を軽減する配慮がなされている。また2階の回復期病棟には屋外に500㎡の機能訓練場を設け、リハビリを受ける患者の気分転換にも役立っている。
 スタッフは56名(うち、理学療法士23名、作業療法士19名、言語聴覚士7名)。病床総数が175床であることからすれば充実した体制ともいえるが、黒木院長は最低でも70~80名が必要だと考えている。またリハビリ担当以外に心理士が1名いて、患者・家族の心理的不安に対するサポートもなされている。
 回復期病棟への入院患者の疾患割合は、脳血管障害が86%を占める(脳梗塞43%、脳内出血34%、くも膜下出血4%、脳・脊髄外傷5%)。整形外科的な疾患の割合は低い。また症状に関しては、6割の患者が言語に支障(失語など)をきたしており、ST(言語聴覚士)によるリハビリを受けている。
 同院のリハビリで最も力点が置かれているのは、「チームアプローチ」である。職種横断型のチームを組み、患者の在宅復帰・社会復帰を見すえた意見を出し合いながらプランを設定、一定の期間目標を設けて取り組んでいく体制だ。組織内の縦割りを排し、権限・責任の所在を明確にした上で、職種間の連携を図っている。
 また看護師による「病棟リハビリ」への取り組みも重視されている。これは正規のリハビリ訓練とは別に、患者個々の病棟における日常動作の訓練をするもので、主に日曜に行われている。具体的には看護師のサポートのもと、患者のできる範囲で更衣、トイレなどの動作を訓練するものだ。正規リハビリにこの病棟リハビリを加えることで、患者の回復具合がまるで違ってくるという
 こうした連携によるリハビリ体制のもと、同院ではリハビリ患者全体の80%が自宅に戻っている。脳血管障害の患者が8割以上を占める中で、この割合は全国的にもかなり高い部類だと院長は話す


ST(言語聴覚師)による訓練

 これらのリハビリ体制は、スタッフ教育のたまものである。現行のリハビリ療法士の専門学校は4年制になったものの実習期間は短く、新卒者の質が上がったわけではないと黒木院長は話す。事実、同院でも新卒者に対しては半年間を研修期間としており、実地で患者についてもらったうえで、先輩療法士がマンツーマンで指導している。また上記の「病棟リハビリ」についても看護師への教育が必要だ。看護師はリハビリの専門教育は受けていないため、療法士によるレクチャーの機会を定期的に設けている。
 以上、リハビリ体制について見てきたが、縦割りを排した職種横断的な連携体制が、全てにおいて貫かれている。


◆ リハビリ患者への門戸開放

入院患者はほぼ100%、他院からの紹介患者である。埼玉南端という立地から、東京からの患者が40%、千葉・埼玉からがそれぞれ30%となっている。東京からの入院は年々増えているが、その理由としては都内にリハビリ病院が不足していることが挙げられる。800万の人口を抱える23区内を見ても、あの長嶋茂雄さんが入院した「初台リハビリテーション病院」など数件のリハビリ病院があるのみで、病床はそれぞれ100~150床ほどしかない。これでは都内の患者をとても吸収しきれないのである。埼玉みさと総合リハビリテーションセンターは、都内でリハビリ入院ができない患者の受け皿になっているのだ。

◆ 患者受け入れにおける 3つの課題と対応策

 
もっとも全国的に見た場合、リハビリ病院は500病院にまで増加し、回復期の病床も3万床を越えた。徐々にではあるがリハビリテーションの受け皿が広がりつつあるのは事実だ。
 しかしここで問題が3つあると、黒木院長は言う。一つはスタッフの人数である。人手不足のところではリハビリの回数がどうしても制限されてしまい、回復効果も十分に得られない場合がある。現在は同じリハビリ病院の間でも、スタッフを充実させた病院と、人手不足の病院が二極化している傾向がある。またリハビリスタッフは同じ職場で長く続けるよりも、転院してキャリアを積んでいくケースが多い。一つの病院を平均5年ほどで退職すると言われており、病院側としては良い状況とは言えない。
 二つ目は他院からの受け入れ枠だ。リハビリ病棟自体の数は増えているものの、急性期病棟を回復期病棟に転換する病院が多い。これでは自分の病院の急性期を終えた患者を移行させるのがメインになってしまい、他院からの受け入れは難しくなる。つまりリハビリ入院の実質的受け入れ枠が、数字の上昇ほどには広がっていないということになる。
 三つ目は、病院が入院を認めるうえで、患者に条件をつけてしまうことだ。例を挙げると、ベッドの回転を良くするため、短期間で回復する患者のみを受け入れる、あるいは移転施設の紹介が大変なため、回復後は自宅に戻れる患者のみを受け入れる…そうした病院も実際にはある。また、重症患者を受け入れたがらない病院もある。その受け入れによって在宅復帰率が低下し、統計上の評価が下がるのを恐れるためだ。
 これではリハビリを必要とする患者ほど入院が困難になってしまう。

 リハビリに特化して新設された「埼玉みさと総合リハビリテーション病院」は、この3つの問題に対しことごとくカウンターを備えている。スタッフについては陣容をさらに拡充する予定で、教育面の充実によって長く働いてもらう体制が整いつつある。入院患者も他院からの受け入れが100%で、貴重な「回復期専門病院」としての役割を十二分に果たしている。
 入院の際の条件についても同院はほとんど設けていない。唯一の条件は「リハビリができる人」であることで、自宅に戻るのが困難な患者でも受け入れている(ただし、意識レベルが極端に低い・痴呆がひどいなどの理由で、リハビリができない場合は受け入れていない)。




リハビリセンター

 
  <運営・経営方針>

◆ 攻めの連携室

病院の経営にも先進的手法が見られる。「医療連携室」という院長直轄の部署が、増患のために独自の働きをしているのだ。もちろん他院にも似たような名称の部署があり、他院からの紹介を受け、患者入院の手続きはしている。だが同院の医療連携室は、自ら外回りをして他院から入院患者を獲得してくるのだ。効果的な医療連携を実現する、いわば「攻めの連携室」であり、黒木院長が一般企業のノウハウにヒントを得たやり方である。
 医療連携室の室員は1名。それも病院事務の叩き上げではなく、一般企業での営業経験を持つ若者を、院長自ら抜擢した。院長のきめ細かい指示のもと、一日で3~5の病院を回ってくる。大病院・大学病院はすべて回るようにしており、科目としてはリハビリの転院患者が出やすい脳外科・神経内科に重点を置いてアピールしている。
 首尾よく入院患者の紹介を得ても、連携室の仕事は終わらない。どの病院から何人の紹介入院があったかをすべてデータに残し、紹介を得やすい病院のランク付けをしている。ランクの高い病院は、2~3ヶ月に一度は必ず顔を出すようにしている。



患者向けチラシ
情報を入れすぎず、解りやすさを重視している

 顔を出せない病院へのアピールにも抜かりはない。一度でも紹介があった病院には病室の空き具合についてFAXで知らせており、送信先は100件を軽く越える。ここで注意すべきは、入院紹介が多すぎても受け入れきれないということだ。病院の広報活動については院長がその都度指示を出し、状況にあわせたアピールをしている。このような連携室の努力もあって、病床稼働率は98.5%(平成16年)と極めて良好だ。
 一方の外来患者に関しては一日60~70名で、一般の開業医院と同程度の患者数である。黒木院長は経営上、現在は外来を重視していないというが、外来リハビリがあるため収支は上々である。


◆ 今後の経営課題

 
今後の課題として、黒木院長はまず第一に認知度の向上を挙げる。同院は「グリーン病院」から改称したため、地域でも「埼玉みさと」としては浸透していない。広報の充実に力を入れており、あらゆる発行物・病院広報には黒木院長自ら関わっている。現在ホームページもリニューアル中だ。
 二つ目はリハビリ患者の社会復帰である。仕事に戻ることが無理でも、何らかの形で社会参画を果たせるまでにしてあげたいという。6名のソーシャルワーカーが患者の人生全体を視野に入れたサポートに取り組んでいる。病床が175床であるので、ソーシャルワーカー1人当たり約30人を受け持つことになる。
 これと関連し、黒木院長が三つ目に挙げたのは、退院後の行き届いたケアである。社会生活をよりよく営む上で、退院後の通院リハビリは大きなプラスとなる。患者の通院の都合から、将来的には適当な場所にリハビリ外来のサテライトを設けたいとしている。
 
  <日本のリハビリ医療 今後の展望>
◆ 日本型リハビリのモデルを

 
日本全体としてリハビリの体制が整わないのは、行政府の取り組みに根本的原因があると黒木院長は言う。厚生労働省は2000年、介護保険制度の導入と同時に、全国で「地域リハビリテーション計画」を始めたが、思惑通りの実効性が上がっているかは疑問視されている。
 地域に根ざしたリハビリの実現について、厚生労働省は在宅リハビリの推進を打ち出すものの、中身は具体性に乏しい。黒木院長は独自路線で「地域リハビリ」を進め、同院自身の手で、新たな日本型リハビリのモデルケースを創りたいと意気込んでいる。具体的には訪問リハビリや、リハビリに関する啓蒙活動などを考えており、またサテライトによる通院リハビリのフォローも構想中である。

◆ 早く適切なリハビリと、それへの障害

 
日本のリハビリ医療はまだまだ試行錯誤の段階であるが、「適切なリハビリを、早く、多くこなせば成果が上がる」というのは定説となっている。簡単なことのようではあるが、日本のリハビリにはこれを阻害する要因があるのだと、黒木院長は言う。
 一つは、急性期を担当するドクターの認識が低いことだ。急性期医療は、患者が急性期から脱するための治療に重点を置くあまり、その後のリハビリへの認識に乏しい部分がある。そのため手術を終えた患者をすぐに自宅に返してしまい、リハビリをすれば回復したはずの人が寝たきりになるケースも多くある。急性期以降、引き続き患者を回復させていくルートが十分整っていないのが現状だ。
 二つ目は教育機関の問題である。現在、日本の大学の医学部にはリハビリ専門の学部が少なく、「リハビリ科」卒業のドクターを医療市場に提供できていない。高齢化に伴い、リハビリ需要が加速度的に増大しているにもかかわらず、教育体制がそれに追いついていないのである。
 三つ目はEBMが確立されていないため、病院や医師によってまちまちな治療法が採られてしまうことだ。

◆ EBMの確立

 医療分野の健全な発展には、EBMの確立は欠かせない。EBMのない医療がどうなってしまうかというと、症例を多くこなしている医師によって「流派」のようなものが形成され、統一されない手法が乱立してしまう。それでは何が患者のためなのかが曖昧なまま、治療がされてしまうことになる。EBMがない結果、教育法も統一的なものが確立されていないのが現状だ。
 EBMが確立されない理由として、リハビリ医療は効果を測定しづらいという側面がある。薬であれば、投与した場合・放置した場合の差がはっきり出るが、リハビリは行った場合と行わなかった場合の比較が難しいのである。



スタッフの地道な努力が続く


 リハビリ治療において、質と量のどちらを優先すべきかが問題となる。現時点では「量」を優先するリハビリを基本とすべきだと黒木院長は言う。「質」を優先してリハビリをしようにも、EBMが確立されていない以上は限界がある。一方、「量」に関して言えば、「(適切な範囲内であれば)リハビリは多くすればするほど効果が上がる」のは定説である。また医療側から見ても、多くのリハビリの中で臨床データを蓄積していくことが、最良のノウハウ形成につながる。EBMを確立するには、そうした地道な方法しかないのである。
「日本のリハビリ向上は、一朝一夕には難しい。全体の底上げのためには、できることから順番に埋めていくしかない」黒木院長は言う。
 
  <院長の哲学・・・転職を目指す医師へ>
 以上、同院の先進的なリハビリ医療と経営について見てきたが、そのすべてが黒木院長の哲学のもとで動いている。
 自身の考え方をより広げる一つの方法として、院長はビジネスマンたちが集まる勉強会に顔を出している。営業、コンサルティング、マーケティング、コーチング…ビジネスで第一線を張る男たちが様々な考えを述べ合う場で、互いに良い影響を与え合っているのだという。これらの刺激は病院運営にもしっかり生かされており、医療連携室による積極的な連携の推進、スタッフへの充実した教育体制などはその最たるものであろう。たゆまず知恵を練磨し、それを実践に生かしていく「知行合一」の精神があって、はじめて真の病院改革がなされるのである。
 最後に、転職を志すドクターへのアドバイスを語ってもらった。
「リハビリテーションはEBMの確立も不十分であり、まだまだこれからの分野と言わざるを得ません。しかし、患者さんのための新しい医療を創っていく面白さとやりがいが、きっとあるはずです。脳外科、整形、内科…分野は問いません。信念と情熱があるなら、いつでも飛び込んできてほしい」
 リハビリ医療と病院経営に対する院長のスタンスには、共通する部分がある。それは「データ重視」の姿勢だ。EBMを確立するための臨床資料、紹介患者獲得のために病院資料、データの蓄積によってより良いものを生み出そうとする姿勢が貫かれている。
 この黒木院長の指揮のもと、日々前進を続ける「埼玉みさと総合リハビリテーション病院」。日本のリハビリテーション医療の先駆者たる可能性を、大いに秘めているといえるだろう。
 
 
  <病院の理念>

◆ 病院の理念

リハビリテーション医学を実践し 患者様の幸せ・満足に貢献する病院

◆ 基本方針

・高度な医療・看護・リハビリテーションの知識を高め実践します。
・チームアプローチに基づいた医療を提供します。
・早期の患者様の社会復帰を目指します。



  <アクセス補足>

●金町駅より
JR常磐線/地下鉄千代田線・金町駅下車
京成電鉄金町線・京成金町駅下車
金町駅→三郷団地(高州・鎌倉北経由)行きバス
リハビリ病院入口下車徒歩1分
金町駅→三郷団地(大膳橋経由)行きバス
新和仲橋下車徒歩1分

●三郷駅より
JR武蔵野線・三郷駅下車
三郷駅→金町駅(鎌倉北・高州経由)行きバス
リハビリ病院入口下車徒歩1分
三郷駅→金町駅(大膳橋経由)行きバス
新和仲橋下車徒歩1分

●三郷中央駅より
つくばエクスプレス・三郷中央駅
三郷中央駅→金町駅(鎌倉北・高州経由)行きバス
リハビリ病院入口下車徒歩1分
三郷中央駅→金町駅(大膳橋経由)行きバス
新和仲橋下車徒歩1分




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2005.10.01 掲載 (C)LinkStaff

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