vol.1

◆第1週目◆
医療崩壊の足音
 「医療崩壊」という新語がここ数年ですっかり定着しました。一番切迫した問題は勤務医の不足です。現在は専ら小児科と産婦人科が俎上にのぼっていますが、早晩、他科へも波及することは医療現場にいる誰もがひしひしと感じていると思います。危ういバランスの上で、まずまず順当に機能していた日本の医療にさまざまな外力が働いた結果、長年の矛盾が表面化して機能不全に陥りつつあるのが現状でしょう。知らぬ間に白蟻が巣食った家の柱がやがては崩れ傾くように、今、土台から大修理をすべき時期が来たということでしょうか。問題点を一番身近に感じていたのは他ならぬ勤務医のはずですが、これまで一般社会への情報発信は多くありませんでした。そのひとつには、今日のようにインターネットを通じて広く情報を伝える手段のなかった時代、メディアの敷居が高かったこともありますが、何より「弱音をはかずに」黙々と働くのが医師の努めと思われていた節があります。本来、国家政策や社会変化と密接に関連しているさまざまな医療問題を、事件が起こるたびに一病院や医師個人の責任のみに矮小化して報道、批判する風潮に対し、医師側の意見も主張されるようになった結果、メディアの論調も勤務医の置かれた状況に一定の理解を示すようになりました。今までの医療界は一般社会人に実情を知ってもらう努力が足りなかったのかも知れません。その結果、生じた誤解が医療崩壊を加速したようにも思います。医学教育と病院経営の両面から変革の荒波に翻弄されている大学病院で、なかでも人員確保が困難で、このままでは衰退が危惧される外科勤務医として思うところ多いこのごろです。

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